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あだ名を 羽織って 生きてゆく



あなたには「あだ名」はありますか?

いつからそう呼ばれていますか? だれがつけてくれましたか? その名で呼ばれた時、あなたはどんな気分になりますか?


決まったあだ名がなくても、わたしたちは暮らしの中で「肩書き」や「所属」や「役割」を羽織ることがあります。

「店長」
「先生」
「クリエーター」
「△△社の〇〇さん」
「◇◇ちゃんのお母さん」

色んな呼び名で溢れる世界。

「〜〜といえば、〇〇さん」という風に「キャッチコピー」・「代名詞」・「異名」など、カラフルな個性をなびかせて生きる人もいておもしろいですね。

「あだ名」や「呼び名」が本当の自分を隠しているとも言えるかもしれませんが、その名を1枚羽織ることで、素の自分ではたどり着けない素晴らしい世界を体感できることもあるのではないでしょうか。

「たる」

これがわたしのあだ名です。本名とは全く関係のない愛称ですが、こどもたちと接する時はこれで通していて、とても気に入っています。


原点は学生時代。走ることが好きで中高と陸上をやってきましたが、大学では何か違うことをやってみたいと思っていました。

「そうだ、こどもたちと関われる団体に入ろう」

ふと思い出したのは小学生の頃に通っていた学童保育。大学生のお兄さんお姉さんが、放課後や夏休みを共に過ごしてくれて、公園、駄菓子屋、山や川、無人島のキャンプにも連れて行ってくれました。自然と頭に浮かんだ大学生のイメージが、その姿や笑い声、一緒に遊んだ楽しい思い出でした。


教育・福祉系の学部がある大学だけに、こどもと関わる団体がたくさんありました。中でも新歓で印象がよかった「ユネスコ研究会」へ体験に行くことに。先輩たちは愛称で呼び合っていて、それがとても新鮮でした。

土曜日の昼下がり、自転車で大学から15分の公園へ。毎年、新入生がやって来るのを楽しみにしているこどもたちが出迎えてくれました。まだ自転車から降りている最中、小学6年生の少年に声をかけられます。わたしを含め3人の新顔に、リズミカルにあだ名をつけていきました。

「きみはマヨネーズ、きみはケチャップ、ほんできみは、タルタルソースな!」

インパクトの大きい長い名を、学内でも呼びやすいように先輩が縮めてくれました。こうして私は「たる」というあだ名を手に入れました。

素のわたしは人見知りで引っ込み思案、委員長もキャプテンも誰かが手を挙げるまで身を縮めて待つ。そんな生徒でした。

しかし、「たる」を身にまとったわたしは、それまでとは違いました。思いついたことは即行動に移し、今まで出会うことのなかった景色を「たる」は見せてくれました。もちろん失敗もありましたが、経験したことのない瞬間の連続を「たる」と共に、心から楽しんだ学生時代でした。


1回生の頃、「秋レク」という行事がありました。関西に数か所あるユネスコクラブの新入生が集まって企画をし、大阪の万博記念公園でレクリエーションをするイベントです。

11人の実行委員の中で、わたしは真っ先に実行委員長に手を挙げていました。先輩への憧れ、リーダーをやってみたい、何より自分を試してみたいという思いを想像のまま終わらせず、「たる」はわたしの体を動かしてくれました。


初めての立候補、振り返るとそこがわたしの人生の分岐点でした。その後、ユネスコではキャンプリーダーや京都ユネスコ学生連盟のトップも務めさせてもらいました。

その頃の仲間たちとは、誰かの結婚式ぐらいでしか会わなくなりましたが、今でも連絡を取り、近況を報告しあいます。顔を合わせると、心があの頃に一気に戻るように感じます。何でも話せる仲で、一生の友です。

社会に出て児童館に就職しても、こどもたちには「たる」と呼んでもらいました。30才で独立し、代表になったのを機に呼び名は「たるさん」になりましたが、心意気は変わりません。

こどもたちと同じ目線で、共に遊び、共に育ち、共に創る。多様な個性や背景を持った仲間を集め、現在は京都市の商店街で、小中高生を中心とした多世代の居場所づくりをしています。ずっと夢であった、社会における「ONE MORE PLACE(もうひとつの居場所)」をこどもたち、ご家族、街のみなさんと、力を合わせてつくっています。


こんな風に、語った夢を朗らかに実現していく青年になることを、中高生の頃のわたしは想像できませんでした。よくここまで来れたなぁと思います。大切にしたい素敵な人たちが、次々と現れる運や縁に恵まれたのは確かですが、一番わたしの人生に影響を与えたのは「たる」との出会いでした。


現在のわたしは「たる」だけでなく、「代表」・「理事」・「まちづくり委員」・「夫」といった肩書きや役割を重ね着することがあります。振り返ると、ライフステージに合わせて「こども」・「陸上部員」・「学生」・「児童館職員」といった別名を身にまとってきました。

両親がつけてくれた本名も、わたしは大好きです。でもそこに何かを羽織るとき、一味違う「らしさ」が湧いてくるのを感じます。場面に合わせさまざまな呼び名を着こなす人、その名とすっかり一体化してる人もおられますね。

おひとりおひとりイメージは違うと思いますが、あなたの呼び名クローゼットには、どんな形のあだ名や肩書きが掛けられていますか? たとえば、カーディガン、ジャケット、エプロン。役割に合わせて色や生地も変わってくるかもしれません。作業着やユニフォームなど、そのまま所属を表す衣装もありますよね。

しっかり着込むこともあるでしょうし、さっと肩にかけることもあるでしょう。ずいぶん羽織っていない名もありますか? 何も着飾らない素のあなたの時間も大切ですね。


立場によって変わる呼び名も、SNSや仲間うちだけの愛称も、人生を共につくっていくパートナーです。

「たる」と本名のわたしが、混じりあい、溶けあい、ゆっくりと積み重ねた日々。

「たる」

いつもありがとう。

ずいぶん彩り豊かな道のりだ。

のんびりゆこう、どこまでも。


わたしのクローゼットには、もうすぐ「父」が加わります。羽織るのは初めてなので、すぐには似合わないかもしれません。でもきっと長い付き合いになるから、わたしの体と心に馴染んでいく途中も一緒に楽しめたら嬉しいです。








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