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誤解していませんか!?暑熱馴化!!

「ビールを飲みながら速くなる」
次は実践編の予定ですが、一旦お休みして暑熱馴化について書きます。 

 暑熱馴化、みなさんは理解されていますか?
 そのまま文字通りで理解すると、暑熱になれる、馴れる、慣れる・・・
仕事に慣れるとか、コロナに慣れるとか、気持ち的に慣れる、精神的に慣れるという意味合いにふんわりと考えていたり、何となく暑さに体を慣らすとか、誤解されている方が多いんです。
 あなたは大丈夫ですか?

 辞書には、暑熱馴化とは暑さに慣れるのではなく「徐々に体を暑さに順応させること」とあります。
 ですが、ランナーの場合はもう少し深く理解する必要があると思います。

1.暑熱馴化とは?

 端的に言うとランナーにとっての暑熱馴化とは「上昇する深部体温に、体を順応させること」です。深部体温の上昇の要因は、気温だけでなく、湿度、日射・輻射といったWBGTの要素、他にも風や運動強度も要因になります。

 例えば30度の気温の中、キロ6分で走る練習をいくらしていても、本番でキロ4分で走ったら熱中症にかかってしまうかもしれません。

 例えば30度の気温の中、キロ4分で走る練習をいくらしていても、本番で追い風が4m吹いていたら(無風に感じる一番暑い風速です)、熱中症にかかってしまうかもしれません。

 要は様々な気象条件の中運動する、その深部体温の上昇に対する抵抗力をつけるのが暑熱馴化です。

2.暑熱馴化がついていないとどうなるか?

 暑熱馴化がつくと、①循環血液量の増加・②皮膚血管拡張機能亢進・③汗腺機能亢進などがみられるようになります。それにより暑熱の運動の中での最大酸素摂取量が増し(①のため)、深部体温が上がりにくくなり(②③のため)、低ナトリウムになりにくくなります(③のため)。

プレゼンテーション1

 文献をみてみます。上図は自転車競技選手における暑熱馴化と深部体温(直腸温)と運動パフォーマンスをみたものになりますが、馴化14日程度でだいぶ体温も上がりにくく、パフォーマンスも落ちにくくなっていることが分かります。

暑熱馴化①

 また暑熱馴化をすすめていくと、塩分の高い汗をかかなくなってきます。上の図は暑熱馴化をした際の汗の浸透圧、汗の塩分(Na)濃度をみたものです。暑熱馴化後は、いわゆる薄い汗をかくことにより、運動誘発性低ナトリウム血症になりにくくなります。とはいえ大量の汗をかいた時は濃い汗が出てしまうようですね!!
 久しぶりの暑い日にレースがあった時、レース後に顔に汗塩の跡がついていた経験はありませんか?そういう時は塩分の濃い汗をかいているんだと思います。

 つまりは暑熱馴化ができていないと、体温が上がりやすく力が発揮しにくくなる、また低ナトリウムになるリスクを生じやすくなる。ということなのです。

3.暑熱馴化はどれくらいでつくのか?

 極端な話、1日でも運動していればだいぶ違います。でも少なくとも1週間前から準備を始めて下さい。

暑熱馴化①

 上の図は労働中の熱中症死亡災害の作業開始からの日数別は発生状況です。過半数(57.7%)は作業開始から3日以内におきています。
 でもできれば2週間前から、週2回は同気象条件、同運動強度での運動をしてみて下さい。週1回では不足です。もちろん本番の距離・・・10km、20kmも走らないでOKです。本番のレースペースで3~5km走るだけでも暑さに馴化してきます。
 速いジョグよりも、レースペースで3kmであとはジョグ・・・いわゆるガチユル走をおすすめします。

4.脱馴化と再馴化

 でも残念ながら獲得した暑熱馴化は、暑熱下のトレーニングをしないと徐々に失われます。一般に長期間かけて獲得した暑熱馴化は長く維持され、短期間で獲得した暑熱馴化は短期間で失われます。4日間で獲得した暑熱馴化は3週間でほぼ100%失われるが、9日間かけて獲得した暑熱馴化は3週間経っても30%程度しか失われないとあります。
 そして暑熱下で運動しなかった期間が2週間程度であれば2日間で再馴化、4週間程度であれば4日間で再馴化できると言われています。

  また運動後のサウナは、赤血球量・血漿量の増加、持久性運動力の向上が得られるとの文献や、練習後に40度の温水浴を6日行うと暑熱馴化が得られるとの文献もあります。涼しい日が続いて馴化に不安のあるときや、9月・10月に脱馴化してしまった後なのに、目標レースの日の気温が高いと分かった時は、直前の練習後にサウナや長風呂などを組み合わせてみるとよいかもしれません。

5.十分な暑熱馴化をしていないときは?

 ですが実際には思うように暑熱下での練習がつめていなかったり、当日想定外の暑さであったりすることもあると思います。
 その時は、
・相対的に循環血漿量が少なくなくなっていること(水分をとりましょう)
・体温が上がりやすくなっていること(体を冷やしましょう)
・塩分が不足しやすいこと(塩分を摂取しましょう)
 が体に起こることを覚えておいてください。
 想定よりも暑いときは、予定よりゆっくりと、体を冷やすことを忘れずに、十分に塩分の入った水分(経口補水液)をしっかり摂取するよう心掛けましょう。

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