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ランニングは体に良い?悪い?①

 笹川スポーツ財団の調べでは健康増進の時流で、定期的な運動をする人は増えてきていると言われています。そしてその中で、ランニング人口は1000万人もいると言われています。

 運動を始める際に、まずは手ごろなランニングから始められる方も多いと思います。
 何となく始められた方は、
「ランニングは痩せるのかな?」
「ランニングは体にいいのかな?」

 と疑問に思われていると思います。

 そんな問いに対して、何人かのYou Tubeのインフルエンサーさんがこう答えています。
・ランニングをすると早死にする
・ランニングでは痩せない
・ランニングをすると老化する
「なので、体に悪いです!」 

 最近はYou Tuberの方も本当によく勉強していて、下手な医師より詳しいんじゃないかと本当に頭が下がる思いです。ですが自分は同意できる面と、同意できない面があります。
 一つ一つ、その根拠として示していたものを検証しながら、見てゆきたいと思います。

※注意:もう少し「ビールを飲みながら速くなる」をお休みします

1.ランニングをすると早死にする?

 1-1.理由①:生き物が心臓が拍動する回数が限られている

 東工大本川先生の「ゾウの時間、ネズミの時間」で有名になった話ですね。哺乳類は寿命は、だいたい心拍数にして2億回。なので心拍数がゆっくりの生物種の方が長生きするというもの。
 でもこれは、生物の種の間の比較であって、人間の心拍数はなるべく少ない方が長生きとするのは乱暴です。そうであれば、脈が遅くなる副作用をもつ薬剤は、生命を延長する効果が見られるはずですからね。もちろん無条件にそんな効果が得られることはありません。

 1-2.理由②:体育会の人は短命

 1995年出版の脳内革命という本で、体育系の平均寿命60.6歳、文科系66.8歳、理数系66.1歳と記載されていたそうです。なのでランニングをすると早死にするそうです。
 でもこれ、あまりにも寿命が短か過ぎませんか!?柔道や相撲なども含めていませんか?そして、あまりにも資料が昔過ぎませんか?

 他にも、You tubeやネット記事で見かけるのは、1990年から2000年台の文献を根拠にしているものが多いんです。昔のものは、そもそも生活環境が異なります。暑さの中で水を飲まずに、うさぎ跳びをして病気になったのですかね。光化学スモッグの中走っていた方が、健康を害したんですかね。
 そして以前のものは、データの解析の精度が落ちるものが多いので、最近の文献を引用して欲しいものです。

 1-3.結論:早死にしません!!・・・最近の文献から

  ランニングについては2017年のアメリカの文献では、日常的なランニングは3年の長寿効果があり、早期死亡のリスクも30%程度低下するとあります。そして2019年のブラジルからの文献ですが、マスターのマラソンランナーは、非ランナーと比べてテロメア長(細胞の寿命です)が長い傾向にあったとあります。
 ランニングについては、早死にではなくむしろ長生きできるものだと思っています。

 そして2020年のアメリカの文献から。18000人を対象とした大規模コホートです。追跡期間11.9年の中で、ウォーキングやサイクリング、ランニングは余暇に何もしていない人と比べて30%弱の死亡率の低下がみられたが、ダンス、ゴルフ、ストレッチ、重量挙げは死亡率が下がらなかったとあります。
 しかしこれは少し言い過ぎかもしれません。筋トレについて調べてみると2019年のアメリカからの文献で、週2回までの筋トレは全死亡率を21%下げるとあります。週3回以上やっても変わらないけど、有酸素運動と組み合わせると40%まであがるよ!と書いてあります。さらに筋トレは虚血性心疾患の死亡リスク低下にはつながるけど、癌のリスクは減らないよ!とあります。
 注意しなければならないのは、この統計は癌より心臓死が多いアメリカの統計です。2019年の同じアメリカからの文献でも、身体活動量の多い運動は癌のリスクが軽減すると言われていますが、これは主には有酸素運動です。癌死の多い日本ではもっと(ランニング)>(筋トレ)の結果が出るかもしれません。癌家系の人は筋トレよりむしろランニングですね

 もちろんこれらの常識は、明日の非常識!と変わる可能性もあります。
 ですが「ランニングは早死にする!」というのは、現時点ではあまり気にする必要がないと思います。 

2.ランニングでは痩せない?

 2-1.理由①:ランニングは食欲が増進する

 自分は運動をしても、食欲がわかないのでその認識はないのですが、何人かそのような知り合いがいるので、分かる気がします。
 実際に食欲は、体のホルモンバランスなどで食事を欲する代謝性食欲と、ケーキをみたとか飯テロにあったなど煩悩が食事を欲する認知性食欲があります。
 実際に食欲の中で、運動で増進するとなると、代謝性食欲になると思います。これはホルモンでいうと食欲亢進ホルモンのグレリンと、食欲低下ホルモンのGLP-1 やレプチンになると思われます。それが運動でどう変わるのでしょう。2019年の運動とホルモンのレビュー論文をみてみましょう。

・グレリン(食欲亢進ホルモン)
 単回での運動では、有酸素運動、HIITともに変化ないか低下するようです。筋トレはデータがないようです。
 継続的なトレーニングでは、有酸素運動は多くが上昇、HIITと筋トレは1つの報告のみですが変化なかったそうです。

・GLP-1(食欲低下ホルモン)
 ほとんどが有酸素トレーニングの文献です。有酸素トレーニングは多くが上昇、高強度のインターバルで変化なし?HIITでは変わらない~上昇、筋トレはデータがありませんでした。

・レプチン(食欲低下ホルモン)
 単回の運動では、有酸素運動では低下~変化なし。筋トレでは低下。
 継続的な運動では、有酸素運動ではレプチン低下、一部変化なし。筋トレでは変化なし。

 これを見ると、有酸素運動アウト、筋トレやHIITはセーフということはなさそうです。一般的に交感神経を刺激したり、脂肪を燃焼すると食欲ホルモンは食欲が出る方向に針が傾きます。有酸素運動もHIITも筋トレもやり方だと思うんですよね!

 2-2.理由②:ランニングをすると食事のモラルが崩れる(ランニングモラルハザード)

 自分はランニングモラルハザード(ランニングをすると「多少食べてもいいや」と、食欲を抑えてたモラルが弱まってしまう)という言葉を知りませんでした。勉強になります!と思って早速文献を調べたのですが、医学論文は1件もヒットしませんでした。スラングですね!

 でも、お金が入るとパチンコに行ってしまうように、居酒屋の前を通ると入ってしまうように、食事に執着しすぎると運動した以上に食べてしまいがち、ビールを飲んでしまいがちです。消費カロリーが具体値として見えやすい有酸素運動は若干その傾向が強いかもしれません。気を付けるようにしたいですね。
 一応有酸素運動後は食事量が増すものの、その後の食事量が減るので総摂取量は逆に少なくなるよ!という文献もあります。ラットの研究ですが。

 2-3.理由③:ランニングで消費するエネルギーは少ない

 例えば体重70kgの人が、ランニングは5km走ったとしても350kcalでおにぎり2個分。脂肪50gしか燃えない!ということです。
 ご指摘のように、実際に運動自体で消費するエネルギーは少ないのですが、現実的にはそれ以上にエネルギーを消費しているんです。
 というのは、運動の本質は自律神経を高めることにあります。自律神経の働きの低下による肥満は、「モナリザ症候群」「モナ・リザ仮説」とされる「肥満者の1/3は食べ過ぎで、1/3は適正な食事量で、1/3は適正量以下である。なのに肥満なのはなぜか、それは多くの肥満者が自律神経の働きが低下しているからだ」という考え方があります。
 要は運動により自律神経の働きが高まり、減量につながるということです。運動すると一日体が軽かったり、体が暖まりやすかったりする。それがまさに運動で消費するエネルギー+αになっているんです。
 

 2-4.理由④:ランニングは脂肪より筋肉が減る

 走りすぎのランナー、痩せすぎのランナーは骨格筋は減ってしまう可能性があります。
 そもそも体は糖質→脂質→たんぱく質の順で使われると言われています。なので1時間程度のランニング程度であれば、まず筋肉量は減らないと言われれています。では超ウルトラの世界をみてみます。
 2007年のドイツからの報告で、12時間のランニング、骨格筋は1.0 kg増加しましたが脂肪量は4.4kg減少しました。
 2019年のチェコからの報告で、極寒の24時間の冬のマウンテンレースを走った20人、骨格筋量は低下しませんでしたが体脂肪は大幅に減少しました。
 2006年のドイツからの報告で、5日で338 km走った21人、骨格筋は低下しましたが脂肪は低下しませんでした。

 これほどまでに走っても、骨格筋は減るか減らないかというところです。一般の余暇のランニングではそこまで心配する必要はないと思われます。ただ筋トレを併用すると走るパフォーマンスが向上すると言われていますので、筋トレをしているランナーも多いと思います。

 2-5.理由⑤:ランニングは炎症がおきる、結果コルチゾルが増加する

 もともとコルチゾルは、ストレスや炎症に対して分泌されるホルモン・身を守ってくれるホルモンです。ランニングをすると抗炎症力も高くなると言われていますが、さすがに長時間のマラソンではコルチゾルが上昇するのは理解しえます。ではほかの運動はどうなのでしょうか。
 例えばHIFT(詳しくないのですが、ビリー先生の運動のようなものでしょうか?)でもコルチゾルが増加するとあります。そして筋トレでも増加するようです。HIITでは施行30分、60分後では高まり、120、180分後は低下してその後ベースラインに戻るそうです。大なり小なり運動でコルチゾールは分泌されます。

 ここからは文献離れますが、慣れない運動をすると最初はどんな運動でもコルチゾルが分泌されるはずです。そういうホルモンですから。継続するうちに馴れてくると、どんな運動でも分泌量が減ってくるはずなのです。筋トレだから大丈夫、HIITはコルチゾルが出ない、マラソンはドパドパ出るというのはないはずです。

 2-6.結論:ランニングは当然痩せます!

 2021年のフランスからの文献で、欧州肥満研究協会から肥満と運動に対する提言です。現在までのところの文献を総合的にみると、有酸素運動はやせる、HIITは今後まだ研究の積み重ねが必要、筋トレは有酸素運動だけでは減りがちな筋肉をつけるために有用(除脂肪体重の維持)という見解です。
 有酸素トレーニングは、期間に関係なく、何もしない人に比べて平均で約2〜3 kg、筋トレのみと比較して1 kg減量効果もあるとされています。
 そして同じグループからの別論文ですが、HIITは達成率と持続性に課題があるとも申しています。ですよねぇ、HIITを継続している人、自分の周囲ではいませんね。

 数ある論文を総合的にみて検討したワーキンググループの最新の見解ですので、間違っていないのではないでしょうか。

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