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Line

僕は歌が下手だ。

下手というのは大袈裟すぎるかもだが、自分で想像するようには全く歌えない。というか音楽に苦手意識がある。

前回書いたけど、僕は子供の頃、体が悪くて運動を禁止されていた。運動をしないことで出来た時間を有効活用するため、母の提案で小学2年からフルートを習っていた。僕はクラシック音楽にほぼ興味はなかったけど、母は自分の息子に何か別の可能性を与えようとしていた。(前回書いたのは、時系列的にはこの後の話)

母は、困ってことに割と極端な性格である。

音楽を習うだけなら、例えばYAMAHAなどの街のカルチャースクールにしとけば気楽だったのに、何故か彼女は、彼女の持てるコネを駆使し芸術大学の先生を探し出し、その方に頼んで先生をやってもらうということになった。先生がたまたまフルートの演奏家だったので、習う楽器がフルートになったっていう、ちょっと動機としては考えられない状態でのスタートだった。

先生は、小学生の子供が辞めたいという言葉をうっかり思いつけないほど、スパルタ、言い換えれば一生懸命に教えてくれた。

結果7年続けたのだけど、突然ドイツ語で変調を言われてたりしても、何にも考えずに音階を変えて吹けるし、楽譜をみたら聴いたことなくても初見で正しく演奏できる”程度”にはなった。何よりも、音が楽譜を見てると立ち上がってくるというか空間、脳内に湧き上がってくる感覚は気持ちの良いものだった。

習い始めて7年目の中学2年の終わり。先生に突然「君は音楽大学行くのか、進路をそろそろ決める頃だが、私の意見としてはおすすめできない、君は才能がない」とはっきりと言われた。

続いて、「才能がない理由。1、唇の形が悪い(フルートは息の鋭さで音階を変えるので形が悪いと音程が不安定になる) 2、右の鼻から吸える空気の量が少なすぎる(先生が言うように、僕は鼻の右穴の気道が小さく、今でもほぼ毎日詰まっている。フルートは鼻から空気を吸いつつ口では吹き続けるという技法があるのだが、そのせいでブレスできない時間が長くなると辛い時があった)ただこれは、手術で治るので、そこも考えるべき。 3、リズム感が悪くはないが決して良くはない。4、音楽を極めることに本気ではない。まだ好きなレベルである。君はこのまま続けたら音楽大学には合格できるレベルだけど、その後一流にはなれない。一流になれないなら辞めるべきです。」

そう言われたので僕はフルートをやめた。正直未練はなかったけど、やはり音楽は好きなので、やめた後すぐに”趣味”でギターを始めるんだけど、本格的に音楽と向き合うことは、フルートを辞めた以来ない。

クラシック音楽を習ってる時、頭の中に、Lineみたいなものが何本も見えてた。それを1週間、1ヶ月ごとに、1本ずつ突破していくイメージを持ち続けて練習する。技能を極める醍醐味だと思う。

最初の頃は何本も明確に見えてたLine。

その中にだんだん越えれないものがあることに気が付くんです。奥に行けば行くほど見えなくなる。距離が離れていく。あるLineをクリアーしていくのに時間がかかるようになり、突破できるものを選んで頑張って突破していくんだけど、最後は突破しなければいけないLineそのものがが見えなくなる。

自分との距離が離れてしまって、霧の中に消えてしまうようなLine。

気がついたら頭の中には数本のLineしか残ってなくて、虚しくなってしまった。その虚しさもあって映像の世界に篭っていく日々になっていくのだ。そしてカメラを貰ってさらに傾倒していく。

正解が見えなくなったら、潔く辞めよ。自分の人生には何人か師匠がいるが、最初の師匠であった音楽の先生の教えが今になって心に響く。子供だったのに、子供扱いせずに正面からアーティストの生き様を教えてもらえた。

先日テレビをつけてたら石井竜也氏が、あいみょんのマリーゴールド歌ってた。あいみょんの歌の良さが、最大に引き立つ歌い方をしてて、気持ちよさそうだった。

本物の歌手の上手い歌を聴きながら、自分の歌の下手さ加減を考える。

いくら考えても歌はもう少し上手くなりたい。だって楽しそうなんだもの。





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