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中井祐樹 × Dr.F :どうしたら強くなれるのか? その発想と指導法4 ~可能性と個性~


数を重ねる

中井 言ってみれば他の運動でもよかったんでしょうけれど、そこに信念みたいなものが生まれていったんでしょうし、その量が最後にまわりを驚かせるような動きを作り出したんでしょうね。

 ただ、彼も他の練習はしていなかったけれど、スパーリング以外のちょっとした動作や、車を磨いたりしていたなかでも柔術のことを考えていて、他のトレーニングをすることに代わりに、すべての行動が練習になっていたかもしれません。

Dr. F 他の格闘技や最先端のトレーニングに目を向けたりする人がいれば、職人的に練習して強くなったり、強さを求めているのに、山の登り方がまったく違う、というのがまたおもしろいですね。  

中井 ホントですね。

Dr.F 教育学の本に、"才能とは、積みかねることができるという能力"とあったんです。前時代的な教育学では、センスのある子というのは、教える側の目線から手間暇かけずに伸びて来る子だと思われていましたが、今のアメリカの教育ではそれが完全に否定されていて、「どれだけ数を重ねることができるか」、その一点が才能なんだとパラダイムが変ってしまったらしいんです。

中井 おもしろい話ですね。僕は、「強くなるには法則はない」と思っているんです。そして、いろんなことができた方が可能性があるんです。そういった意味では、僕の弟子にも、僕のやり方に縛られない方がいいとは言っていますし、中にはたくさん稽古できない人もいるので、その人にあった方法を選んでもらえればと思っています。

ーー先ほど、二重作先生の言葉に、格闘技は前提の上に成り立っているというのがありましたが、逆にこれを利用して練習効果を上げるというのはあるんでしょうか?

中井 パラエストラでは、子供たちの練習のなかで設定をかえながら行うことで、効果を変えています。たとえば同じ組技でも、相撲であれば土俵があるので、押し負けしない体の心の強さが身につきますし、土俵脇まで来きたときの切り返しのセンスが磨かれます。

 これが土俵なしで行った場合、際限なく下がることができるので、押しだけではできなくなるため、むしろ相手を引き崩したり、自分から積極的に取りに行ったりする能力が必要になるので、ヒザを付くことはできませんが、レスリングに近い動きになります。あとはレスリングのようにヒザを着いたり、足をかけてもOKで、ただしタックルは禁止。相手の背中を着けると勝ちにすることで、組み技の総合的なセンスを磨いていくようにしています。


手相撲のスパーリング

ちょっと二重作先生と組んでみましょうか? ムエタイに首相撲がありますが、僕はまずは"手相撲"から始めるのが良いんじゃないかと思っているんです。レスリングにもあるように手を伸ばして相手を崩していく・・・。

Dr. F (中井氏との"手相撲"のスパーリングで)引き倒されるというよりは、手が体に這うように巻き付いて、まるで合気道のように、自分からある方向に飛んだほうが安全なんじゃないかな、というような感じですね。

中井 ここからさらに、投げてグラウンドに移ってから10秒、という制約を設けると、人によって反応が違ってくるんです。
 投げられてすぐに起き上がる人もいれば、すぐに相手の上になる人もいるし、すぐに関節にいく人もいる。これは投げた人も同じで、上から押さえつけたり、関節を極めたり、ここで「個性」が見えてくるし、自分を広げていくべき方向が見えてくるんです。

Dr. F これは興味深い話ですね。空手ですと、相手にローキックを効かせた場合、ローを連打する人もいれば、すぐにハイキックを蹴ってKOしにかかる人もいる。逆に相手の反撃を待ってカウンターを蹴る人もいるということになるでしょうか。中井先生のこの練習は、「言われてみれば、確かに」と思いながら、なかなか気がつかない部分ですから、この練習を通して「確信を持って磨いていける」というのはすばらしいですね。

中井「サッカーにも"練習試合がいちばん役に立たない練習だ"という言葉があるとおり、こうした条件を限定したドリブル練習などで技術を磨いていって、それを試合に繋げていく作業が必要なのかもしれません。

 格闘技でも、なんでも同じでしょうが、「限定と全体」をいつも行き来しているような、そういう作業を繰り返さないといけないとは思うのですが、仲間といるとフリースパーリングばかりになって、楽しい練習ではありますが、トータルすると"どんぶり"になって抜け出られない恐れが出て来るんですね。

 であれば、ガイドラインを持った人が一人ついていて、導いていくということが必要になってくると思います。

伝統と格闘技医学

Dr. F 限定と全体!なるほど、僕自身、「練習した気になるだけの練習」にもっと厳しくしていかねば、と思いました。
 今、中井先生と差し合いをさせていただいてふと気がついたのですが、空手の後屈立ちという伝統的な立ち方があるんですが、この下半身の各関節を正しい角度で保っていると、相手に押されてもある程度耐えることができるんです。

中井 ああ、本当だ!

Dr. F あとは前屈立ちというのがありまして、この2つの立ち方を行ったり来たりすると、かなり差し合いの中で有効になってくるんです。

 差し合いの練習をするなかで、無意識にこの角度を作る人もいるでしょうが、ごく一部だけで、多くの人は角度を知らずに力だけで練習を繰り返すばかりでしょうし、また見ている人も投げられて床に転がる様子だけを見て、すばらしい投げだと感じるだけで、投げるときのヒザ関節の角度をはじめとした下半身の動きに気づく人は、ほとんどいないと思います。

中井 体の使い方に気づいた人だけが強くなれるのではなく、誰もが強くなれる可能性と具体的な方法を示してくれる格闘技医学は、格闘技をやっている人にとってかなりの味方になってくれるんですね。

Dr.F ありがとうございます。微力ながらそこを目指したいです。中井代表、今回も格闘技の希望のお話をありがとうございました。お話を伺って、格闘技の奥深さと可能性に気づかせていただいた気がします。

中井 こちらこそありがとうございます。格闘技医学のますますのご発展を僕も楽しみにしています!

格闘家 中井祐樹

私はひたすら世界最強の男になりたくてそれを夢見て生きてきた。
まだなれてないが。

でもね、強く生きるためには鍛練や技術だけでない考えもつかないような知識と知恵・発想があるのだと、

いつもこの二重作拓也先生に教わっているんだ。

だからもっと強くなれると確信している。

『強さの磨き方』より



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