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【キャッシュレスの裏側】個人間送金が出来たり出来なかったりするワケ

2022年4月28日
情報をアップデートしました。

こんにちは、中小企業診断士の宮﨑です。
私の所属する企業内診断士の輪を広げる「楽しい」チームでは、定例会参加費(会議室利用費など)は最近、キャッシュレスの個人間送金による支払が推奨されています。
私はさっそくPayPayをコンビニチャージして準備していたのですが、残念ながらうまく支払が出来ませんでした(2019年6月28日の出来事でした)。
色々調べてみるとキャッシュレス残高と言っても実態は色々な残高の組合せで、個人間送金が出来る出来ないにもその影響が出ていました。

結論から言うと、
PayPayのコンビニチャージは法的・技術的には出来るはずだが、PayPayの戦略として本人確認を重視していたり、Yahoo!マネーからの移行を見据えて、出来ないようにしていた。
と結論付けました。
今回はこの結論に至るまでに知った、キャッシュレスの裏側に迫ってみたいと思います。
※本ブログは2019年7月21日時点の状況を記述しています。変化の速い世界なので情報が古くなっている可能性もありますのでご注意ください。

キャッシュレスの「残高」には3種類ある

PayPayをはじめとしたキャッシュレスサービスには「残高」の概念がありますが、実態は複数種類のお金やポイントの集合体です。この種類によって、個人間の送金が出来たり出来なかったりが決まります。種類は以下の通りです。

資金移動業者に預けたお金
前払式支払手段の購入額
企業ポイント

順に説明します。なお、上2つは「資金決済法」で定義されています。

資金移動業者に預けたお金

資金移動業者は、その名の通り資金を移動する業者で、AさんからBさんへ資金を送金するサービスを取り扱うことが可能です。キャッシュレスサービスの「残高」とは、移動する前や、移動した後の、未だ払戻(現金化)していないお金のことです。
従来、送金(為替取引)業務は銀行の独占業務だったのですが、2010年の資金決済法施行により資金移動業者の送金業務が可能になりました。ただし100万円以下の送金に限定されていたり、残高に利子を付けてはいけない、などの制限があります。
資金移動業者になるためには銀行並みの厳密な運用や十分な保証金の供託など必要事項がありハードルは高く、2019年6月末時点で日本に64事業者しかありません。楽天、ヤフー、ドコモ、LINE Pay、メルペイなどは資金移動業者ですが、PayPayは資金移動業者ではありません
事業者側だけではなく、利用者側にも本人確認が求められるなど、利用までの敷居も高くなっています。

前払式支払手段の購入額

前払式支払手段とは、読んで字のごとく、後で支払いに使うために、お金を前払する手段のことです。要はプリペイドカードです。カードという物理的実態が無くても、サーバに前払の情報を記録することも該当します。
プリペイドカードである図書券は授受できますので、それと同様、前払式支払手段も個人間で授受が可能です。Amazonギフトカードの送付はこの仕組みです。
前払式支払手段には払戻(現金化)できない、という重要な特徴があります。いったん前払式支払手段を購入したら、使い切るしかありません。
前払式支払手段は、前払式支払手段発行者が取り扱います。2019年6月末時点で日本に1,920社あります(ここでは説明しませんが自家型+第三者型の合計)。
資金移動業者が前払式支払手段発行者を兼ねても構いません。楽天、ヤフー、ドコモ、LINE Pay、メルペイなども前払式支払手段発行者です。PayPayも前払式支払手段発行者です。
利用者のアカウント作成には厳格な本人確認までは求められていないので、資金移動業より障壁は低くなっています。

企業ポイント

企業の裁量で自由に無償で発行できるポイントです。物品の購入や入会キャンペーンなどで付与されたりするポイントが該当します。スーパーマーケットのポイントカードのイメージです。アカウント作成は簡単ですが、個人間の送金は認められていないことが多いと思います。これは、アカウントを作って、送金して、すぐ消すことを繰り返してポイントを大量収集することの防止だと思います。

その他:決済代行

残高ではないのですが、QRコード決裁でクレジットカードが使えるサービスもあります。これは実際にはクレジットカードや他社のポイントの決裁を代行しているだけなのですが、スマホアプリの工夫で、あたかも自社サービスの一部のように見せています。

企業ごとにまとめ

では、代表的なキャッシュレスサービスで個人間送金ができる、楽天ペイ、LINE Pay、PayPayで、残高の裏側をまとめてみましょう。なお、個人間送金はできませんが、比較のためにメルペイと、Yahoo!マネーも載せています。
残高の名称は利用規約に書いてあるものを記載しています。

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楽天ペイ

2008年10月に「楽天あんしん支払いサービス」として始まりました。
【プレミアム型】と【基本型】があり、前者が資金移動業者に預けたお金、後者が前払式支払手段の購入額です。
本人確認をすると、口座残高が丸ごと【プレミアム型】に移行します。
個人間送金は、従来はプレミアム型からのみ可能だったのですが、2019年3月18日よりプレミアム型と基本型の間でも送金が可能になりました。この場合、残高の種類が法的に違うので不可能に思いますが、なんと、プレミアムから基本型への残高の相互変換をするという特約ができました。
ただ、前払式支払手段を購入し、プレミアム型の人に送金してその人が出金すると、結果的には前払式支払手段の払戻となり、法的に問題が生じます。そこで楽天ペイは、2019年3月18日以降にプレミアム型口座に入った残高は、出金できなくすることでこの問題を回避しています。前払式支払手段により「ケガれた」可能性が少しでもある口座は出金を停止しているというイメージですね。
また、利用規約を見ると、前払式支払手段をプレミアム型口座に送金した場合、その分は出金できないという規約も新たに追加されていました。
一つのプレミアム口座に出金可能と不可能の残高が混在してしまうと利便性が著しく下がると思います。今は出金停止中なのでこの問題は表面化していないですが、出金再開の際に楽天ペイはこの問題をどう解決するのかに注目です。

LINE Pay

実は平成26年からの老舗の(?)資金移動業者です。
個人間送金は、資金移動業者に預けたお金は可能で、前払式支払手段は不可、と厳密に分けています。
つまり本人確認をした人だけ送金が可能です。LINE Payで個人間送金をしようとすると、面倒な本人確認が求められるのはこれが理由です。
本人確認しない前払式支払手段の口座残高はLINE Cashと呼ばれます。本人確認をすると、口座残高が丸ごと資金移動業者に預けたお金扱いのLINE Moneyと呼ばれる残高にアップグレードされます。
LINE Money口座からの送金の宛先にはLINE Cash口座を指定することも可能です。その場合はLINE Cashを即時購入したという解釈がされると規約に書いてありました。残高の変換を利用者に意識させないところは、なかなかうまいですね。
LINE Payは、本人確認された世界を前提に、シンプルに送金業務を組み立てている印象です。

PayPay

PayPayは前払式支払手段発行者なので個人間の「現金の」送金は出来ません。前払式支払手段(PayPayライト)を購入しそれを他人にプレゼントすると言う建て付けで送金します。
ただ、PayPayでは本人確認を厳格に行い資金移動業者並みの運用をしています。具体的には、以下のルートでのみ、PayPayライトの購入が可能です。

SDセキュア(クレジットカード本人認証サービス)対応済のヤフーカード
本人確認済の銀行口座

コンビニATMからのチャージは、実態はYahoo!マネーへのチャージになります。PayPayに残高があるように見せていますが、Yahoo!マネー残高からの決裁代行の形です。Yahoo!マネー残高はPayPayライトではないので送金には使えないのです。私が冒頭で送金でハマった理由はこれでした。
と、ここまで書いておいてなんですが、

・7月1日から、Yahoo!マネー残高からPayPayライトへチャージ可能
・7月11日から、セブン銀行ATMからPayPayライトへチャージ可能

となりました。なんと、私が送金できずにハマった6月28日の3日後には問題は解決していました。ブログのトップ写真は試しにセブン銀行ATMからPayPayライトへチャージしたときの画面です。
Yahoo!マネー残高も、セブン銀行ATMも、本人確認が不要な入金手段です。本人確認が不要なお金の受け入れを始めた点で、PayPayにとって転換点となる出来事だと思います。

なお、スマホのPayPayアプリには、Coming soon!としか出ない出金ボタンがあったり、加盟店向けの利用規約には、「PayPayプラス」という未だ無い残高の記述があったりして、資金移動業者として登録される準備が整いつつあるようです。
今後、PayPayは資金移動業者にめでたく登録されると、本人確認実施へ誘導するキャンペーンを行うことが予想されます。本人確認するとPayPayボーナス○○ポイント付与、などが考えられます。PayPayでこれから本人確認しようと思っている方はちょっと待った方がよいかもしれません(笑)

メルペイ

実はきちんとした資金移動事業者です。
残高は、メルカリのフリマ商品購入に伴う送金や、売上金をためておく場所として活用されています。
資金移動事業者なので個人間の資金移動は可能なのですが、個人間送金はしない、という割り切り仕様です。
メルペイでは「資金移動ポイント」が資金移動業者に預けたお金、「有償ポイント」が前払式支払手段の購入額に対応します。
メルカリの売上金を出金(払戻)する場合は、本人確認をして資金移動ポイントを扱う口座にアップグレードしておく必要があります。

Yahoo!マネー

PayPayへの事業統合に向けて動いており、個人間送金は、2019年3月28日に終了しました。
Yahoo!マネーはYahoo!マネープラスとYahoo!マネーライトという2つの残高があり、本人確認すると、ライトからプラスに口座全体がアップグレードされます。
下は私が実際に口座をアップグレードした時の記録です。
ライト口座が解約され即時にプラス口座が作られていることが分かります。

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さて、上で書いた通りYahoo!マネーからPayPayライトへのチャージが7月1日より可能になったのですが、Yahoo!マネーのよくある質問のページに次の注釈がありました。

Yahoo!マネープラスの残高はYahoo!マネーで払い出し(振り込み)手続きを行うことで出金可能な残高ですが、本機能を使ってPayPay残高にチャージをした場合は、出金できないPayPayライトとなります。

つまり、資金移動業者に預けたお金から、前払式支払手段へ変換しますよ、だから出金できなくなりますよ、ということを言っていますね。
現在Yahoo!マネープラスの残高をお持ちの方は、いまPayPayにすると出金不可な残高になってしまいますので、PayPayプラスが登場した後で、PayPayに変換するのが得策だと思います。

まとめ

個人間送金は、ユーザーから見ると単に個人間の残高の移動ですが、事業者側から見ると、残高が資金移動なのか前払式支払手段なのかで運用を厳密に区別する必要があり、各社の苦悩が見て取れます。
LINE Payのように本人確認を強制してその人たちだけの世界を作れば問題は解決しますが、本人確認は敷居が高いのでサービスの利用拡大を阻害します。
一方PayPayは前払式支払手段を採用し本人確認なしで敷居を低くしシェアを伸ばしましたが、残高へのチャージ自体は本人確認しないと使えないという両面作戦です(7月から少し風穴を開けて本人確認なしチャージも取り入れています)。
楽天ペイは3月から本人確認が無くても個人間送金を可能にして敷居を下げましたが、その代償としていったん口座からの出金一時停止という強硬策に出ました。

LINE Payはこのまま本人確認済の世界で資金移動業者として生きるのか、
PayPayは資金移動業者になってどうサービスを拡充するのか、
楽天ペイは出金再開に向けてどう折り合いをつけるのか、

注目です。


※2019年末に続編を書きました。こちらです。


IT系企業に所属する企業内診断士です。