診断士なら最近の円安について経済学で語れる(はず)
最近は急な円安進行で、経済に様々な影響が出ています。
2022年7月19日の時点で、1ドルが138円程度となっています。
円安の原因は、世界情勢や日米の金利差が影響している、なんてニュースで耳にします。
ところで、金利差と為替や経済の関係って、診断士の皆さんは何か記憶の片隅にあるような無いような……… という感じかと思います。
そうです、1次試験の経済学で勉強しました。
忘れてしまった診断士の方のためにも(私もほぼ忘れていました)、2022年の1次試験も8月6日から開始と間もなくですので受験生の方のためにも、今回は経済学の復習をしてみたいと思います。
ここでは難しいことは抜きにして、感覚的に行きたいと思います。
国民所得と利子率の関係
まずは、国民所得と利子率の関係の「ステージ」があると思ってください。
国民所得はそのままGDPをイメージすれば問題ないかと思います(本当は総生産が総需要に等しい、とかあると思うのですがまあ置いておいて)。
利子率は何の利子率かって話になるかと思いますが、ここでは市場全体のお金の需要と供給で決まるマクロ的な利子率と考えます。個別の利子率(住宅ローン金利とか)はこの市場利子率から各銀行が決定しているはずです。
日銀はいくつかの手段で市場利子率を操作しようとします。
利子率と国民所得が均衡する場合は複数の考え方があって、それぞれ「市場」と呼ばれています。一つの市場に対応して、このステージ上に「○○曲線」と言われるグラフが描けます。
IS曲線
まずはIS曲線です。これは「財市場」が釣り合う点の集合を表しています。財市場とはモノやサービスの生産物をやり取りする市場で、規模が大きくなると国民所得が大きくなります。IS曲線は、このくらいの市場の時は、このくらいの利子率になる、という関係の曲線です。
グラフが右下がりなのは、感覚的には、利子率が低下すると市場が活性化して国民所得が増える、と覚えておくとよいと思います。
また、財政拡大政策を行い財市場を活性化すると、同じ国民所得でも利子率が増加するので、結果としてグラフ全体が右にシフトします。
LM曲線
次にLM曲線です。これは「貨幣市場」が釣り合う点の集合を表しています。貨幣市場とは、モノやサービスを得るために必要な「貨幣」自体の市場です。○○したいからお金が欲しい、いまは○○は不要だからお金はいらない、の様な、お金自体の需給のつり合いと考えるとわかりやすいと思います。
グラフが右上がりなのは、経済的に活性化して国民所得が増えると、利子率が多少高くてもお金を借りたいと思う人が増える結果、利子率が上昇する、と理解しておけばよいと思います。
金融緩和政策として日銀が通貨供給を増加させるなどすると、国民所得が同じでもお金がじゃぶじゃぶあることになるので利子率が低下し、結果としてグラフ全体が右にシフトします。
ここまででISとLMの2つの曲線がグラフに描けます。財市場と貨幣市場の関係の分析、すなわちIS-LM分析をするならこの2つで十分です。
国際経済を考えるときは、もう一つBP曲線を考えます。
BP曲線
ある国の国民所得と国際的な利子率の関係を表します。
国際的な利子率とは世界全体で見た時のマクロ的な利子率と考えるとよいと思います。
よくあるパターンとして、「資本移動が完全に自由な場合」を考えます。つまり国の経済が対外的にフルオープンな場合ですが、この場合は、国際利子率がまず前提として決まっていて、国際利子率に合うように、国民所得が増えたり減ったり自動調整されると考えます。
結果的にグラフは水平になります。
マンデル=フレミング・モデル
ではこの3市場を組み合わせて市場を変化させた時の様子を見てみます。これは、マンデル=フレミング・モデルと呼ばれます。
仮定として、その国の貿易が国際価格に影響を与えるほどではなく(小国の仮定)、為替相場が変動相場制である場合を考えます。
初めに、財政拡大政策をした場合を考えます。
①IS曲線は右シフトするので、グラフの交点は右斜め上に移動します。これは他国に比べて利子率が高い状態になっていることを示します。利子率が高い通貨は国際的に人気がありますので、通貨高となって、その結果、輸出が減少し、国民所得が減少してしまいます。
最終的にIS曲線が左シフト②し、なんと元の均衡点に戻ってしまいます。
次に金融緩和政策をした場合を考えます。
①LM曲線は右にシフトするので、グラフの交点は右下に移動します。これは他国に比べて利子率が低い状態になっていることを示します。利子率が低いと不人気通貨となり通貨安となるため、輸出が増加し国民所得は増加します。
結果として②IS曲線が右シフトして、グラフの交点はもとの国際利子率に戻ります。
先ほどの財政拡大政策と違うのは、最終的には国民所得が大きくなっている点です。
マンデル=フレミング・モデルには様々なパターンがありますが、まずは上記を抑えておくとよいと思います。
ちょうど、2021年度診断士1次試験「経済学・経済政策」の第10問がそのものズバリの問題でしたので最後に見ておきます。
では選択肢をひとつづつ検討していきます。
a
金融緩和政策を行うと、LM曲線が右シフトして利子率が低下する点で均衡します。利子率が低い通貨は国際的に不人気通貨となるので資本流入はむしろ減ります。したがって×です。
b
財政拡大政策をすると、IS曲線が右シフトして、利子率が上昇します。国際的に人気通貨となるので資本流入が起こり通貨高となります。結果として輸出が減少し国民所得が減少することで利子率は元に戻るのですが、選択肢は途中までですが正しいことを言っているので〇です。
c
金融緩和政策を行うと、LM曲線右シフト→利子率低下→不人気通貨になり通貨安→輸出増加→GDP増、なので合っており、〇です。
d
金融緩和政策を行うと、IS曲線右シフト→利子率上昇→人気通貨になり輸出減、なので違っていて×です。
2022年時点の日本では、財政拡大政策と金融緩和政策がとられています。IS曲線とLM曲線を右にシフトする政策となっているので、国際利子率がどうあろうとも、国内利子率を低いままに維持する政策をしている、と言えます。
厳密にはもっと高度な経済学を使ってきちんと分析をしないとダメだと思いますが、診断士の1次試験レベルの知識でも(感覚的ではありますが)ここまでは考察できました。