Morning has come. Open your eyes.

以前,非常勤講師として数ヶ月だけ勤務させていただいた学校の中学3年生と英語で人狼ゲームをした時の話です。当時の授業メモとおぼろげな記憶を頼りに書いてみます。

(人狼ゲームを知らない方はコチラ)
https://www.bodoge-intl.com/list/insapo/hazimete/

人狼ゲームをやるに至った経緯

当時の勤務校はゴリゴリの習熟度別クラスで,仮にここではそれぞれのクラスを上位からA, C, Dと呼びます。「A, Bと続けるのはちょっと違うな」と思うぐらいAと他のクラスには差があるのです。僕はA組とC組を担当していました。

ある日のA組の授業で,「今日ちょっと時間に余裕あるんだけど,洋楽リスニングと並べ替えどっちやりたい?*」と訊ねたところ,「人狼ゲームやりたい」と言われ,少し考えてから「英語でやれる?」と返したら「やりたい!」とのことだったので,「やるならちゃんとやりたいから」と定期テスト後まで待ってもらうことに。

「A組が人狼をやってる間にC組は定期テストの復習を5倍丁寧にやろう」と申し訳ないと思いながら心に誓っていた数日後,「A組は人狼やるんでしょ!?ずるい!うちらもやりたい!」とC組の子達に詰め寄られました(心理的に)。恐れていた事態ですが,ここで「君たちにはできないよ」などと言ってしまおうものなら,僕は後から「教師を辞めよう」と思ったかもしれません。

ここで考えるべきは,「A組でも困難が伴いそうな英語人狼ゲームを,C組でも楽しめるようにするにはどうするべきか」ただそれだけでした。

*「並べ替え」: 知り合いの先生から教えていただいた楽しく整序英作文できちゃうアクティビティ。それで40分使ったこともある。

「人狼ゲームを英語で楽しませる」という教員側のタスク

いくら優秀なA組とは言え「じゃあ今日は英語で人狼ゲームやるよ〜!」なんて言って,急にできるなんてことはあり得ません。ましてやCでもやることになってしまっています。でもやるからには絶対楽しんでもらいたい,楽しませるのが自分の仕事だと腹を括りました。

僕は,英語人狼ゲーム用のフレーズ集を作るという手立てで英語人狼ゲームを成立させようと考えました。これは自分では当時の様々な要因の中でベストだと考えただけのもので,何も理論めいたものはありませんが。また,これはA, C組どちらも同じことをしました。(定期テストの復習はテストの解き直しを宿題にして容赦なく朱を入れ数往復…。これが地味にキツかった…。)

ゲームマスター・村人・占い師・騎士・霊媒師など,役職ごとに数人ずつ生徒を割り振って,各役職で使いそうなフレーズをまずは日本語で集め,それを英語に直して模造紙に日英語対応表書きます(人狼陣営はゲーム中に人狼側だとバレてはいけないので専用のフレーズ集は不要です)。

その指示を出した後,生徒らは仲良し数人で集まってお好みの役職のフレーズ集を作ります。20人程度のクラスのため各役職1グループ(3~4人)しか担当者がおらず,みんなが満足に英語で楽しむためにはそれなりの責任を持ってフレーズ集を作る必要があります。

A組は授業中も一発で指示が通り,「楽しむ時は楽しむ。集中する時は集中する」ということがかなり高いレベルで出来る子たちで,フレーズ集作りでもこちらから何も言わずともグループ内で役割分担をするなど,ほとんどの生徒が高い主体性を持って取り組んでいました。一番驚いたのは普段の休み時間にやっている日本語の人狼ゲームをiPadで録画して,そこで発見した使えそうなフレーズを抜粋していたことです。

対してC組は,もっと面白い光景が。普段授業を真面目に聞いてくれる生徒の多くが(そもそもそんなに「多く」はないですが)主体的な関わりを出来ずにいた一方,いつもなかなか授業に集中できない子が周りの子に指示を出しながらめちゃめちゃ主体的に動いていました。途中僕に「A組で出ててうちのクラスで出てないフレーズありますか?」と聞いてくるほど本気でフレーズ集を仕上げたい様子でした。
A組のフレーズ集をまんま見せるのは憚られたので,「A組は休み時間の人狼を録画してフレーズ探してたよ」とだけ伝えました。やったかどうかは確認していませんが,次の時間には「模造紙足りなくなった」と言ってきたので,フレーズは増えたようでした。

フレーズ集作りの途中途中で,模造紙に清書する前のフレーズ集を見せてもらい,表現を直した方が良いところをみんなで考えながら直していきました。ここで久々に活躍を見せたのがC組の授業真面目に聞いてる勢。「どういう主語を補ったらいい?」とか「もっと簡単な言い方ないかな?」とか和文英訳の前のいわゆる「和文和訳」。こちらの問いかけに対してアイデアをバンバン出してきました。

最初から「和文和訳」システムでフレーズ集作りした方が多分早かったし正確だったかもしれないと今でも思うのですが,フレーズ集作りをしようと決めた当時の僕はそのアイデアを捨てました。今回の人狼ゲームを授業に集中して取り組めない子達の主体的な学習経験や,僕とその子たちとの関係性の変化のきっかけにしたかったからです。

「学校」や「授業」という枠組みの中での教師と生徒の関係性については,当時よりは言語化できるようになってきていると思うので近いうちに書きたいと思います。

英語人狼ゲーム本番 ~感動が伝えきれない~

フレーズ集作りは1週間(45分×5~6コマ)を要し,定期テストから2週間弱経った,2時間連続の授業のある日に本番を迎えました。まずはA組,二日後にC組。

僕はA組の本番の前夜からめちゃめちゃ緊張してました。フレーズ集を作ったところで(ちょっと音読練習とかもしたところで)そう簡単に英語でいつもの楽しさを出すことは難しいだろうと思い,あんなに主体的に頑張ったのに上手くいかなくて落ち込んでしまうんじゃないか,と本当に不安でした。

当日A組に行ってみると黒板にフレーズ集が貼り出され,カーテンを閉めて,電気を全て消して,机と椅子を前に寄せて,教室の後ろで半円を作ろうとしているとこでした。(準備早すぎ。)僕を見るや否や,「怖いBGMかけてください!」と言うので,amazon musicで「怖いBGM」と検索しプレイリストを流します。

相変わらず素晴らしく主体的な動きで,完璧に準備が整った教室。
ゲームマスター役の生徒が半円の真ん中に立ちます。

その後のゲームは思ってたより盛り上がり,2ゲームやって無事「楽しい思い出」が出来上がったところで,机をもとに戻します。残り10分で,「みんなの主体的な動きに驚かされた」「学年の中では勉強ができるみんなだけどまだまだ言いたいことを英語で言う力には伸びしろ沢山ある」的なことをこちらからフィードバックしました。

二日後のC組も同じように2ゲーム楽しみましたが,こちらはちょっと涙ぐんでしまうような展開になりました。
ゲームマスターを務めてくれた2人がフレーズをお互いに教えあったり確認し合いながら頑張ってスムーズに進め,ゲームが盛り上がるとつい日本語を話してしまうかと思いきや(A組では時々そうなりました),フレーズ集にない言葉までほぼ全て英語で粘りきったのです。
(「日本語を2回喋ったらその夜無条件に殺されることにしよう」という僕の軽口をめちゃめちゃ素直に受け取ったんだと思いますが)

ゲームマスターも含め,やはりここでもより活発だったのは普段授業になかなか集中できない子達。何人かの生徒は,普段の日本語の人狼なら言えてることが言えないのが悔しいのか,無理に何か言わなくて良い場面でもなんとか英語で伝えようとしていました。そこに僕は最も感動を覚えました。何かを言わされるのではなくて,心から「言いたい」という気持ちで英語を話す。そんな光景が自分の授業で見られた初めての経験だった気がします。

2ゲーム終了後,生徒達には「A組より良かった」と,考え得る最も素直な言葉を伝えました。多分C組の子達にとってクラス単位で比較された時「A組より良かった」などと言われた経験はほとんどなかったんじゃないかと思います。僕もそんなことを言う日が来るとは正直思っていませんでした。比較を通して褒めること・評価することに抵抗は勿論ありますが,当時の生徒らにとってそれ以上の評価は無いと判断しました。

人狼ゲームの外国語教育的意義

この実践を通じて自分自身を高く評価できるとすれば,「人狼ゲームやりたい」とA組の生徒が冗談で言った時,「ダメだよw」と言わずに「英語でやれる?」と訊き返したこと。このやり取りの瞬間には既に頭の中でなんとなく「英語で人狼,良いかも」という思いがありました。その時考えたことは,

・「言いたいこと」や「言う必要があること」を英語で言う機会が作れる
・教科書ではなかなか習わないフレーズに出会える
・授業ではあまり許されない「黙る」が戦略として認められる

の3点です。まぁ後は「定期テストへのモチベーションになるかも」ぐらい。

でも活動を進めていく中でもう一つ気が付きました。

A組で村人のフレーズ集を担当していたグループの中にいた人狼大好きっ子が「村人って決まった仕事がないから黙っててもいいけど,色々言う時もあるよね。フレーズ無限にない?」と言っていた時,ふと閃き,「自分が村人の時とか,村人って信じさせたい時にどういうことする?」と訊いてみました。

そこから村人っぽい振る舞いや,他の役職でもみんなしそうなことが4つ挙げられました。

・自分の潔白を主張する
・他のプレイヤーを疑ったり,信じたりする
・話し合いを仕切る
・状況を整理する


そこから村人班は,「自分や他人の潔白を主張する」「他人を疑う」「話し合いを仕切る」「状況を整理する」というタイトルの書かれた4枚の模造紙を用意し,機能別のフレーズ集を完成させました!
(模造紙の写真貼りたかったのに,学校用のiPadで写真を撮ったのか自分のiPadに写真がなくてショックを受けています)

(ショックから立ち直りました。)
これまで様々な英語表現を「文法」でまとめて教えられてきた経験が豊富であろう生徒達に,「『機能』で表現をまとめることができるんだよ」とその模造紙を見せながら話しました。

あの一回でそれがどれだけ響いたかは分かりませんが,「目的を持って英語を使う」という意識が,少なくとも村人班の子達にはなんとなく伝わったのではないかなと信じています。

ちなみに機能別の模造紙,最初は箇条書きした通りのタイトルで作ろうとしていたのですが,ついこちらから「自分か他人かは主語入れ替えればよくない?」と言ってしまったので,上記の4タイトルになりました。あそこで口出ししたことは良かったのか,今でも少し悩みます。

でも多分次も同じ場面に出くわしたら言うと思います。

機能と述語動詞の結びつきをほんのりと感じてくれることを願いつつ。



おはようございます,朝になりました。昨夜の犠牲者はいなかったようです。

生存している非人間的な英語指導は無数。議論時間は………

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