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ネズラ1964の音楽 2

昨日12月19日は映画「ネズラ1964」の完成披露上映会がありました。良い映画に仕上がって、音楽担当の自分としても嬉しく思います。

編成について

前回も書きましたが、今回の編成は
・オーボエ(イングリッシュ・ホルン持ち替え)
・ホルン
・ピアノ
・ヴァイオリン 
・ヴィオラ
・チェロ
・打楽器(作曲者自身によるアフレコ)カホン、マラカス、トライアングル、タンブリン、シンバル
・男声合唱(一部の曲)
となっております。MIDI打ち込みを一切使わない生録音のみです。

そもそも何故こう言う楽器の選択をしたかというと、
オーボエは重音奏法やキスノイズといった特殊奏法による音色の変化が多彩で、高音域では書き方によってはトランペットのような表現も可能です。かといってトランペットそのものを入れてしまうと、この編成では音量が強すぎます。とはいえ今回は怪獣映画という事で金管の強い響きはどうしても欲しく、なおかつ少ない室内楽編成にもなじむものとなると、ホルンが望ましい。ということで、あまり前例はないのですがオーボエとホルンを採用しました。
このことは結果的に、ドビュッシーが晩年に計画した「様々な楽器の組み合わせによる6つのソナタ」の中で実現できなかった「オーボエ、ホルン、クラヴサンのためのソナタ」(クラヴサンclavecinはフランス語で、チェンバロcembalo(伊)/ハープシコードharpsichord(英)のこと)の組み合わせを踏襲しています。
あとはピアノと弦楽器が響きの基礎を支えています。

挿入歌「ズネズネ」

挿入歌、というより男声合唱を伴う劇中音楽として、仮に「ズネズネ」と名付けた曲を作りました。
そもそも特撮音楽の伝統の一つとして、冬木透氏の「ワンダバ」というものがあります。これは男声合唱が「ワンダバダバダバ」というスキャット(歌詞の意味はないがリズムを取るための擬音語の歌唱)を歌うもので、「帰ってきたウルトラマン」以降のウルトラマンシリーズで様々なスキャットの曲が作られ、他の類似の特撮・アニメ番組もそれに追随したというものです。
そこで本作でも男声スキャットを取り入れた曲を作ったわけですが、ただ作るのでは面白くないので、ドデカフォニー(十二音技法)というものを取り入れました。

十二音技法とは、オーストリアの作曲家アルノルト・シェーンベルクによって提唱された作曲技法で、1オクターブの12の半音の順序を並べ替えた「セリー」を一つ作成し、まずその順序そのものを表す「正行形(原形)」、その順序を逆転させた「逆行形」、上下を反転させた「反行形」、その2つを組み合わせた「反行逆行形」の4つの順序を、作曲の素材の骨子とするというものです。シェーンベルクとその弟子であるアルバン・ベルク、アントン・ヴェーベルンの3人による新ウィーン楽派によって探求された作曲様式です。シェーンベルクとヴェーベルンが従来の調性音楽から離れた無調音楽における秩序を司る手段として十二音技法を用いたのに対し、ベルクは十二音技法を用いながらも、聴覚的には従来的な調性音楽に近い響きを好んで用いました。

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楽譜を掲載しますが、1から12までの番号が振られています。これがセリーの順序で、最初に正行形を提示したあと、今度は上下を逆にした反行形が提示されます。器楽パートにも同様のセリーが用いられています。ガイド譜として前奏が一部掲載されていますが、これもセリーに基づくものです。しかし全体的にはハ短調に基づく伴奏が付けられており、(少し変わった和声進行ではありますが)本来の十二音技法が意図するところの無調音楽におけるセリーの秩序とは異なる意図で用いられています。

これは近年亡くなったポーランドの名監督アンジェイ・ワイダのデビュー期で2作目の映画「地下水道」(音楽:ヤン・クレンツ)のテーマ曲を強く意識しています。これは戦争でレジスタンス活動をするワルシャワ市民が地下水道に逃れて悲惨な持久戦となるというあらすじの映画で、十二音技法によるメインテーマが優れた音楽効果を上げています。しかし聴覚的にはヘ短調にも聞こえて、従来的な調性音楽に近い響きも持っています。

もう一つ思い出されるのが、溝口健二の晩年の映画「赤線地帯」(音楽:黛敏郎)です。これはそのあまりに斬新なテーマ音楽ゆえに、作曲家の黛敏郎が映画評論家の津村秀夫と音楽の入れ方で新聞紙上の大論争になったという史実でも有名です。

(以下は近年編集された特別映像。冒頭のテーマ音楽は数秒単位でカット編集されており、連続して聴けるものではありません)


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