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時給300円の黄金

書くのは久しぶりか。

ここ最近はなかなか書けなかった。というより、書いては消す自分がいた。

それはそれでそのときの自分の率直な気持ちなので僕は受け入れることにしているし、その消すという作業にすら意味があるものだと思っているので、特になにも思っていないのだが、こういう態度では定期的に一定数の記事を投稿したりするのが難しい。

それはつまり、現代の書き手に割とオーソドックスな形でもたらされた収益化の選択肢であるメルマガや定期購読のような形でお金を稼ぐことができないということに等しい。

でも、僕はそれでいい。それでいいから、僕のスタンスを崩さず、自分が納得できる文章を書きたい、じゃないと書く意味がない。それを僕は選ぶ。

ただ、こうして一定期間、投稿が空くと、自分の文章に対するジャッジがどんどん厳しくなる。定期的に投稿しているときにはなかったものだ。

習慣というのは一種の妥協と隣り合わせであり、いわゆる質より量を取るということで、妥協なしに継続は僕のような凡人にできるものではない。(逆に習慣化できない人は質にこだわりすぎているとも言える。)

で、そんなジャッジが厳しくなっているときの突破口になるのが、僕の場合は本。最近読んで感銘を受けた本。こいつの力を借りて、文章を書き上げるのだ。

これを一回乗り越えてしまえば、当分の間はこのジャッジに負けずに定期的に投稿していくことができる。書きたいタイトルばかりがストックされている今、もっと気楽に吐き出していけるようになればいいなと。

ということで、読んだのは小川哲・著『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社、2023年)

タイトルに惹かれたのとジャケ買い。

「黄金」というワードと「手に入れるはずだった」というフレーズに惹かれたのだと思う。

僕はかなり現実的でどちらかといえばネガティブな物事の考え方が好きだ。そっちの方がニュートラルに近く、見誤ることなく自分の非や弱さをしっかり直視して認めた上で、戦略を立てたりすることができる。そういうポジティブな結果を手にする為にネガティブである必要があると考えるヤツだ。

だから、「手に入れるはずだった」とかいうフレーズはかなりの好物だったようで、ポチるまでのスピードが異様に早かった。

本全体を通してストーリーとしての面白さというものには書けたが、この本の立ち位置としてはどちらかというと哲学書のジャンルに近いような気がしたのでよし。主人公の横で考えさせられることも多かったし、そういう意味では収穫。娯楽や鑑賞としての本選びではあったが、最後は実利的な僕が出てきて、この本を捉えることとなった。


で、この本で何を思ったか。

僕が読んでる時のメモがこれ。

黄金は99%の人が手に入れられないから黄金なのであるが、だからこそ人は黄金を求め、黄金に人生を狂わせられる。「君が手にするはずだった黄金」とは「手に入りそうで手に入れられないもの」であるが、人生には黄金よりも価値あるものがたくさんあるので、黄金に目を眩ませられないように。んで、本当は目の前にある当たり前の日常が花で、それを文章化してしまうと同時に陳腐化して伝わるし、SNS上ではバズらない。故に、黄金を

、、、、と、まとまっていそうでまとまっていない、そしてかなり分かりづらい文章が残っている。

要するに、人は希少性で価値を判断してしまいがちなのと、お金を信じすぎる傾向にある。その結果、目を眩まされ、本当に価値のあるものが見えなくなってしまう。

僕はこの1年間ボランティアのような身分で、ドイツの児童養護施設で時給300円で働いた。もちろん、働く前からそんな条件は知っていたのだが、この環境がもたらすであろう価値を見越して、それをする決断をした。

5日間泊まり込みのセミナー合宿に4回ほど参加し、ドイツ人と意見交換やプレゼンなどを行い、様々な勉強をするオンラインセミナーにも5回出席。職場では月に1度のミーティングで同僚と密に話し合い、理解を深めた。

おかげで、言語や文化含めてドイツに芯から馴染むことができ、今後ドイツで生きていくための大事な大事な基盤を作ることができたように思う。ここで培った思考態度やマインドは、サッカーにおけるパフォーマンスにも大きくプラスの影響を及ぼした。

これが例えば、時給7倍くらい稼げるからといって日本食レストランで働いていたら、全く違った今を僕は迎えていただろう。目先のお金ほど価値のないものはない、とまでは言わないが、なるだけ時間差で巡り巡って得られるお金ほど大きくて価値が高い傾向にあると僕は思っている。

お金は稼げなかったが、非常に重要な黄金を手に入れることができたのかもしれないと、この本の登場人物を俯瞰しながら、僕はこの1年間を振り返ることができた。

僕は今だにサッカー選手である側面を持っていて、毎年契約更新や移籍の話を持ち掛けられ、その度に熟考し交渉しているのだが、加えて仕事の方向性も並行して考えていかなければいけない。

自分にとって何が本当の黄金なのか。
ちゃんと黄金を選ぶ選択をとれるか。

このあたりを戒めてくれるきっかけをくれた本だった。


かくいたくや
1999年生まれ。東京出身。大学を中退後、プロ契約を目指し20歳で渡独。挑戦の末、夢を諦め、現在はドイツの孤児院で働きながらプレーするサッカー選手。

文章の向上を目指し、書籍の購入や体験への投資に充てたいです。宜しくお願いします。