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本の紹介52冊目 『クラッシュ』

こんにちは、TAKUです。

今日紹介するのは、J・G・バラードさんの著書『クラッシュ』です。

この本は、
自分にとっての最高の死をデザインし、
実行するという病にとりつかれた男の話です。

そしてこの病は、
自動車事故を自ら起こすことで完結します。
 
また、

テクノロジーとセクシュアリティの
結びつきを主題としており、

著者は、

「『クラッシュ』を世界最初のテクノロジーに基づくポルノグラフィーだと考えたい。」
と語られています。

【著者のJ・G・バラードさんについて】

著者は英国を代表する作家であり、
生まれは上海で、16歳の時に英国に帰国しました。

1970年代は、
ニューウェーブ
と呼ばれ、
文学的、芸術的な形式と内容において
実験的な作品が生み出されました。

著者はその運動を主導した一人であり、

「SFは外宇宙より内宇宙をめざすべきだ」
と主張していました。

つまり、
宇宙や星々などの外宇宙ではなく、

人間自身の内部に広がる、
未だ解き明かされていない
未知の領域をさすのが「内宇宙」です。

これによって、

当時SFを縛っていた様々な制約
(例えば性的な描写をしないなど)を打破し、 

沈滞していたSF界に
再び自由と活気をもたらしました。

【テクノロジーと人間の悪夢的婚姻】

まず、
この本は、 

テクノロジーを媒介にした人体損壊と
性行為の悪夢的幾何学を描いています。

性的エクスタシーと車の衝突(クラッシュ)を
結びつけるような人々の物語です。

主人公のバラードは、
車の事故で相手を死なせ自らも負傷します。

その後、
自動車事故と性交の間に異常な執着を抱き、
自らの人工的な死を設計する
テレビ解説者のヴォーンが現れます。

そんなヴォーンは、

「女優エリザベス・テイラーとカーセックスしながら衝突死を遂げたい」

という、大衆には到底理解できない
性的願望があります。

バラードは、
交通事故をきっかけにして、
少し考えが変わっているヴォーンの思想に共鳴していきます。

ですが、

そこで繰り広げる毎晩の「死のリハーサル」
が示すのは、まさしく現代社会の病理で、
テクノロジーを媒介とした悪夢です。

そこで、バラードは、
こうした鉄とコンクリートの匂い、
あるいは血と精液の匂いが濃厚に立ち込める悪夢的な世界を描き出しています。

ここでは、

・車の部品や部位を表す言葉
・人体を表す言葉、
・感情を表す言葉

これらが入り混じって使われているので、
読んでいると先に画像のように
目に入ってきました。

そして自動車の車内、
シートに運転者が座っているという、

あるべきものがあるべき位置にある整然とした状態から、全てが一緒に砕けて、
互いに侵食しあってできあがる惨状が
読みながらイメージすることができます。

ここで、著者はこの小説において
決して安易な社会批判などに
結びつけたりはせずに、

現代の人工的な環境
(「テクノロジカル・ランドスケープ」)
が、
人々の無意識に働きかけています。

テクノロジーが自然の一部として
取り込まれている現代においては、

自然とテクノロジーは対立概念ではありません。

そして、
後半になればなるほど、
ポルノグラフィーというだけあって、

性行為の場面が増えていきます。

ここで繰り返され、試される行為は、
ヴォーンとってはすべての最期で最高の一瞬のためにあります。

ヴォーンにとって、
まさに自動車事故で自死することが

「人生の終末ではなく生涯の完成」
なのかもしれません。

【最後に】

この本は、
J・G・バラードさんの著者の中で
「最高傑作」とも言われている、

「世界最初のテクノロジーに基づくポルノグラフィティ」作品です。

言葉の表現をはじめ、
普段は絶対に見れない世界を
言葉からイメージすることができます。

ぜひ読んでみてはいかがでしょうか!

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