クラウドファンディングで国内最高金額の1億3000万円が達成されたことがうれしくて。

クラウドファンディングにおいて金額はひとつの指標でしかないし、更に言えばプロジェクトひとつの最高金額なんて大事な指標でも何でもない。けれど、2011年にクラウドファンディングというのが日本に登場してから(厳密には昔からあったものに名前がついたわけだけど)、7年経ってようやく1億3000万円を超える取り組みが出てきたことは、喜んでいいんだと思う。

幸運にも2012年からクラウドファンディングに関わっている。当時は「100万円を達成するのも奇跡」と言われていた。200万円は無理、500万円なんてあり得ない、そんな状況の中で、各サービスが群雄割拠しながら、奮闘してここまできたというのが実感。

現在のクラウドファンディングの市場規模は、お金を投じるとモノが返ってくる「購入型」といわれる形で、おおよそ80億円〜100億円くらい。これを大きいと思うか小さいと思うかというのがあると思うのだけど、ファンド型や融資型や株式型といったお金を投じてうまくいけばお金で返ってくる形式のクラウドファンディングのサービスがおよそ1000億円だから、それの10分の1くらいということになる。

購入型クラウドファンディングはよく「予約購入」に例えられるのだけど、ではインターネットショッピングの市場規模がどれだけかといえば、16兆円くらいだから、各々の実感はそれぞれだけど、インターネットを介した取引というのは、こんなにも大きなものになっているといえて、そう考えるとあまりにもクラウドファンディングの規模は小さい。

こんな規模で、少しずつ大きくなっていったクラウドファンディングは、サービスとしてはもしかしたら失敗で未熟なのかもしれないとも思う。爆発的に多くの支持を得て拡大するサービスが注目される中で、あまりに地味で、目立たずに、ここまできたわけだから。

昔ぼくは、クラウドファンディングって「人をエンパワーするもの」とよく言っていた。人がもつ力をエンパワメントして、個人が活躍できるようになるものだと信じていた。個人ができることが増えれば、もっと豊かになる。それが明るい未来を作るのだと。

プラットフォーム側の人としてたくさんの取り組みをそばで見て、自分でもいくつかの取り組みをして、友だちたちとも一緒に取り組みをして、総額はいくらかもうわからないけれど支援して、もう6年くらいたった。

挑戦する人を増やすとか、チャレンジは美しいとか、クラウドファンディングの界隈には、そんな言葉が溢れていて、それらはどこか選民的で、早く動けと急き立てていやしないだろうか。

「挑戦する人を称賛する文化をつくる」って、自分でも何百回も言っていた。そう信じていたから。でも、いまはそんなふうには思っていない。

クラウドファンディングは、あり得るかもしれない可能性を選んでみること、もしくは、いつか思うやっておけばよかったという後悔を、自分に納得させるためのものなんじゃないかなと思う。

同調圧力が強いこの国では、表舞台に堂々と出るというだけで、どこかすごいことをしていると思われがちだけど、多くの取り組みをしている方々は、本当に困っていたり、心からこれを実現したいと思っていたり、いろいろな葛藤を振り切って、出てる。だから、その面を切り取ると、確かにチャレンジとか挑戦とかって言葉を遣いたくなってしまうのだけど、それは結果的にであって、大事なのは、一人では抱えきれない思いを胸に、それが表現される場だってこと。

思っているだけだったらそこで終わってしまったことを、ひとりでもいいねと言ってくれる人に出会いたくて、あり得るかもしれない可能性にかけている。

じわじわと広がってきたクラウドファンディングは、いまや地方のおじさんやおばさんまで巻き込んで、今までなかった可能性を生み出している。

舞台に上がる人は、スポットライトが当たる。でも、その舞台を支えている人たちがいる。

舞台の裏にいる各サービスを支えている人たちだ。例えばぼくらが取り組みを公開しようとすると、アドバイスをしてくれる画面の向こうの人たちは、一日にとんでもない量のアイデアを聞いて、それをどうすればより多くの人に届けることができるのかを考えてくれる人たちだ。

もちろん支援をしてくれる人たちも、そうだ。いろんな思いをもって、めんどくさい手順を踏んで、応援しているを行動する。

クラウドファンディングが、いつまでたっても、どこか危なっかしくて、洗練されなくて、ダサい部分もあって、めんどくさいのは、こうして人が関与しているからではないかと思う。これをやりたいという声を起点に、気持ちのバトンがとめどなく連鎖する。

小さくても、大きくても、クラウドファンディングがスタートした時点で、想いの連鎖は始まってるのだ。

だから実は、いちばんあり得るかもしれないことに向かっているのは、サービスとしてはあまりに小さくしか成長しないクラウドファンディングを、地道にここまで続けてきたプラットフォームの人たちなんじゃないかと思う。

両手ですぐ数えられてしまうくらいに、クラウドファンディングがなかったら生まれなかったもの、なくなってしまっていたであろうもの、もしかしたら生きながらえなかった人を知っている。だから、クラウドファンディングは、これからもあり得るかもしれない未来を作っていけば良いと思う。

挑戦だとか、チャレンジしようとか、かっこつけなくても、これやっておかないと後悔しそうだなとか、なくなったらいやだなとか、小さな普通な気持ちから、始められる存在になればいいなと、心から思う。

クラウドファンディングに関わる、全ての人を応援しています。あり得るかもしれない未来を、描いていってください。

参考: 国内最高金額を記録したプロジェクト(2018/10/18時点)
OVERDRIVE最終作「MUSICA!」開発プロジェクト

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