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LOG ENTRY: SOL 100

 NASAに就職して100日。職場の雰囲気やルールや働き方は、ひととおりわかってきた(気がする)。最近新しく始まったプロジェクトのボス、魔女の宅急便でニシンのパイを焼いてたおばあちゃんL.F.が言っていた。「JPLってね、就職しても10年くらい経たないと、どんな仕組みで回っているのかわからないのよ」。確かに、プロジェクトがどのように立ち上がり、お金がどのように動き、人材がどのように流動しているのかは、まだよくわからない。

 そういえば、ちょうど10年前、まだ僕がMITに留学して100日くらいしか経っていなかった頃は、今思えば、何もわかっていなかった。二人部屋に住み、ひたすら授業をこなし、チームプロジェクトで全然発言ができない。とにかく1日1日、目の前のことに集中する、近視眼的な日々を送っていた。その後、10年MITにいて、プロジェクトがどのように立ち上がり、お金がどのように動き、人材がどのように流動しているのか、だいたいわかった。

 …それと同じか。JPLに何年いるかわからないけど、今はただ目の前の仕事をがむしゃらにこなすしかないかな。

 プロジェクトは現在4つめが始まった。3つめの地球観測衛星の安全性審査の仕事がちょうどひと段落するので、4つめの仕事に徐々にウェイトを移している。4つめは、Autonomy(宇宙機の自律化)の、少し抽象的な研究・開発のお仕事。僕の担当は、System Health Managementといって、宇宙機の健康管理の自律化の仕組みを考えること。と自分で言っておきながら、実はまだよくわかっていない。とりあえず渡された論文を読むところから始めているが、その論文というのが、僕が生まれた頃にMITの人工知能研究所で行われていた研究なのである。しばらくは勉強フェーズだ。

 その4つめの仕事と並行して、さらに別の部署から5つめと6つめの仕事もちらついている。これはまだ僕がやることになるかわからないけれど、ちょっと見てみて興味があるか教えてくれ、とのこと。選べるほどに仕事があることはありがたいが、複数のプロジェクトを掛け持つ場合、自分のFTE (Full-Time Equivalent、フルタイム当量)を細かく割り振らなければならない。

 上司J.H.は「いろんな部署に顔を知られていくことは良いことだけど、あまり掛け持ちしすぎると、ひとつひとつが10〜20%になって、"real work"はできなくなる。理想は2つか3つ掛け持ち。」と言う。ニシンのおばあちゃんL.F.は「Fault Managementのエンジニアはキャリア的に成功している人が多い」と言っていた。その意味が、僕にはまだよくわからないけれど。

 いずれにしても、僕はまだ、今持っているスキルと興味に特化して何かを選んで自分を狭めていく段階ではないとも思っている。僕はこう答えた。

I wanna be exposed to everything.

 僕は全てに晒されていたい、何でも経験したい、と。もともと、これが僕のスタイルだ。流れに身を任せながら、ひたすら点を打っていく。今の自分の位置から線を引っ張り続ける限り「光円錐」の外には出られない。

★★★

 朋あり遠方より来る。先週は水〜日まで、大学時代の友人が日本から遊びに来ていたので、これぞザ・ロサンゼルスという場所に連れ回した。ハリウッド、ビバリーヒルズ、ロデオドライブ、サンタモニカビーチ、ダウンタウン、カリフォルニアサイエンスセンター、グリフィス天文台、NBA、ロサンゼルス・バレエ。カリフォルニアサイエンスセンターには、僕が初めて打ち上げを見たスペースシャトル・エンデバーの実機が展示してある。何度見ても熱い。

もちろんJPLも2時間フル案内した(一般ゲストのツアーは最大2時間と決められている)。写真は、火星ローバー・キュリオシティの模型の前で。ローバーの仕事してたら、こいつが可愛く見えてしょうがない。

カリフォルニアサイエンスセンターの、スペースシャトル全135回の打ち上げを同時に流すモニターが圧巻。打ち上げ後数分で、チャレンジャーが爆発するシーンもノーカット。僕は一番下の列のうちの3つを見に行った。そのときの日記はこちら

 今週は月曜に、MITの研究室の後輩がJPLに面接に来たので、同研究室出身の同僚S.D.と一緒にランチをとった。後輩はもともとアルメニア人だが、すでにアメリカ国籍を持っているので、僕やS.D.のようにグリーンカード待ちで足止めを食うことはない。もし彼もJPLに来ることになれば、いよいよ我々の研究室のJPL支部ができあがる(笑)。

 今週はけっこうがっつり仕事した。とりわけ火星ローバー関係の仕事が楽しい。何をやっているかが明確だし、火星表面についてこんなに細かく見たり考えたりしたことはなかった。自分が少しでも関わったローバーが、5年後とか10年後とかに実際に火星を走ると思うとすごくわくわくする。そこが、MIT時代にやっていたこととの大きな違いだよなぁ。

JPL構内に、Mars Yardという火星ローバーのテストをする実験場がある。ときどきローバーの試作機が置いてある。車輪に空いている穴は、モールス信号。・---が「J」、・--・が「P」、・-・・が「L」だ。

僕のオフィスがある建物に降りていく階段。さすがの南カリフォルニアも、12月ともなればしっかり紅葉するんだね。

以前自宅の近所の鉄板焼き屋を紹介したが(SOL 3参照)、こちらはJPLの近所にある鉄板焼き屋。うーむ、どちらも美味しいけど、こっちの方が好きかも。食べきれないくらい量があるので、残りはお持ち帰り。

 明日は上司J.H.の家で所属グループのクリスマスパーティー。同じグループでも皆普段ばらばらのプロジェクトをやっていて、ゆっくり話す機会はないので、明日は良い機会だ。グループスーパーバイザーがどんな家に住んでるか見れるのも下世話ながら楽しみ。

 クリスマスは皆休暇を取って実家に帰ったり家族旅行したりするようだが、寂しいことに僕は一人。年越しも一人。今日JPLのトップページで紹介されていた『Christmas on Mars』を見ていたら、泣けてきた(ノд・。) グスン。お前の気持ち、わかるぞぉぉお〜〜〜

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