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「宇宙ビジネス」は社会課題解決だ!:宇宙に挑む起業家から学ぶ

初めまして、石井です。(Twitter:@h_ttfv)大学学部時代は、東北大学の機械知能・航空工学科という専攻に所属していました。

「宇宙ビジネスは取り組まなければいけない社会課題だ」
「宇宙のインフラがなくなると、GDPの半分がなくなってしまう」

今回は、「宇宙ビジネス」に関して2019年のG1で、ホリエモンこと堀江氏、宇宙ベンチャーispaceの袴田氏、同じく宇宙ベンチャーALEの岡島氏、キャステムの戸田氏がパネルディスカッションを行っていたので、参考にしつつnoteを書きました。

約1年半前ですが、内容が非常に濃く、今、日本が宇宙ビジネスを推進する意義や必要性を詳細に知ることができるものになっていました。(YouTubeも貼っておきます[1])

宇宙産業に興味がある方はもちろん、社会課題日本の未来という文脈でも宇宙ビジネスはなくてはならない存在なので、一読いただけると嬉しいです。

自動車やエレクトロニクス産業では世界を牽引し、ITでは遅れをとった日本がこれから、再度、世界を牽引するにはどうすれば良いのか。宇宙は一つの大きなキーワードになってきます


日本が宇宙ビジネスに集中すべき理由

なぜ、日本は宇宙ビジネスに集中して取り組むべきなのか。その理由の一つは宇宙産業は他産業に比べ「グローバルでの競争力が高い」ことです。宇宙産業では他の産業と比べると、中国やアメリカに対して日本にアドバンテージがあります。もう一つは、「市場の大きさと成長性」で、宇宙産業は世界で30兆円、2040年には100兆円以上とも言われています。[2]

つまり、宇宙産業は、成長性がある巨大な規模の市場を有し、かつ、日本がグローバルを牽引するポテンシャルがあるのです。

堀江氏は競争力を高めているポイントが大きく分けて3つあると語っています。(他のメディアでは若干異なる言い回しをしていたのでまとめました)

①サプライチェーン

宇宙機器製造は、極めて厳しい品質管理や、過酷な環境下での耐久性が必要となり、求められる技術が高いです。また、一般的にロケットは部品が約100万点、人工衛星には数十万点使用されてるといわれています。[3]

産業の十種競技である宇宙産業にて、それらの部品・コンポーネントを担う国内企業は、宇宙産業に特化した企業ばかりではなく、他産業のトッププレイヤーも多く存在します。

自動車・エレクトロニクス産業で世界を牽引したサプライチェーンを活かすことができる産業であるといえます。

ちなみに、神戸市では、航空・宇宙産業の育成と地域経済の活性化を図るために、「航空・宇宙産業のサプライチェーン(部品製造にかかる一貫生産体制)の構築に向けた活動」を行う市内中小企業グループに、補助金を交付しています。[4]

②立地

日本が宇宙産業で競争力があるポイントの1つとして、「島国」であることが挙げられます。周りが海に囲まれていることは、宇宙産業では非常にプラスに働きます。特にロジスティクスの点でアドバンテージになります。

通常、人工衛星を載せたロケットは、東向きに打ち上げます。人工衛星を地球の軌道に投入するためには、非常に大きなスピードが必要です。エネルギー効率を高めるために、東向きに打ち上げることで地球の自転速度を利用することができるのです。

アメリカと日本でのロケット打ち上げプロセスを比較します。

アメリカでは、ISSの打ち上げはフロリダ州のケネディ宇宙センターで行われます。そのほかにもNASAのフィールドセンターは東海岸と西海岸に分かれ存在しています。

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NASAのフィールドセンター(出典:Wikipedia)

アメリカでは、方角などの制限下のもと発射を行うために、広大な土地を長距離に渡り部品を運び、運んだ先で組み立てる必要があります。ロケット部品は精密機器であるため、非常にコストがかかります。

日本では、種子島宇宙センターなどもありますが、大樹町に拠点を置くインターステラテクノロジズ株式会社の小型ロケットなどは、組み立て場から発射場まで10分で搬送が可能と堀江氏は語っています。また周りを海で囲まれているため、方角に捉われず発射することができます

一概に比較することは難しいですが、島国であることは宇宙産業において非常に強力なポイントであるといえます。

③マテリアル

最後の一つが「マテリアル分野」での強みです。ロケットは軽量性・耐久性が求められることから、材料の重要性は大きいです。例えば、炭素繊維複合材料はロケット上部の衛星搭載部などに使用され、人工衛星でも多くの部位に使われています。[3]

炭素繊維の世界シェア最大手は東レで、30%以上握っており、日本が強みを有する分野のひとつです。

現在、東レや三菱ケミカルをはじめ炭素繊維メーカー各社が宇宙、飛行ロボット向けの炭素繊維強化プラスチックの開発に注力しています。三菱ケミカルは民間として初の月面探査を目指すダイモンとパートナシップを結ぶなど積極的に力を入れています。

余談ですが、私が在学している東北大学でも世界の「KINKEN」と呼ばれるほど、元々日本はマテリアル分野には強みがあります。

付加価値の高い素材開発が強く、大企業だけでなく中小企業の技術力も非常に高いのが日本の特徴で、マテリアルの面でも競争力をつくりだすポイントがあるといえます。


現状の宇宙ビジネスの課題

パネルディスカッションの登壇者全員が、口をそろえていったのは「予算が少なすぎる」ということでした。

JAXAの2022年度補正予算と2021年度の本予算の合計が2,144億円です。

NASAが5月末に、2022年度の予算要求を行いました。総額は約2.7兆円です。これは2021年度を15億ドル以上超えた額になります。

加えて、アメリカでは巨額の防衛予算もあります(日本では防衛省からの予算は2021年度で1,237億円)。アメリカの国防総省の宇宙分野に対する2020年度の予算は約1兆5651億円(前年度比15%増)です。

それぞれを合わせると、日本の宇宙産業分野への予算の20倍にのぼります。

アメリカのGDPは日本の4倍強程度なので、GDP比からしても、日本の宇宙産業への予算が少なすぎるといえます。

日本における宇宙産業への予算は増えてきていますが、宇宙産業で世界を牽引するには未来への投資だと思い、さらに集中して資金を投資する必要があると登壇者も語っています。

2019年時点ですが、政府も、宇宙開発スタートアップに1000億円を投じる支援枠を設け、2030年代に国内宇宙産業の市場規模を2兆4000億円とすることを目標としています。[5]


これからのビッグイシュー

世界で30兆円、2040年代には100兆円といわれる宇宙産業のメガトレンド、ビッグイシューとして衛星コンステレーションを用いた「グローバルな衛星通信網」があります。

はじまりは「2001年宇宙の旅」などで有名なSF作家アーサー・C・クラーク氏が「人工衛星による無線通信の中継 人工衛星の中継で世界をカバーする無線通信は可能か?」という論文を1945年に発表したことでした。※インターネットが一般的に使われるようになる20年以上前に発表されています。

現在、イーロンマスク率いるスペースXやAmazonなどのビッグプレイヤーが多数参入し、衛星通信インフラをめぐる競争が激化しつつあります

スペースX社は、12,000基もの衛星から構成されるコンステレーションのテストランとして低軌道に小型衛星を打ち上げています。(Starlinkプロジェクト)その市場は2040年には10兆円になるともいわれています。

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Starlink衛星(出典:SpaceX)

グローバルな衛星通信企業が3,4社で寡占状態になるとして(日本の通信業界がそうなっているように)、その中の1社でも日本発の企業があれば、グローバルでの存在感は出していけるのではないでしょうか。


宇宙ビジネスは夢物語ではない

パネルディスカッションでispaceの袴田氏が「宇宙って、すごい。夢見たいですね」と言われたことがショックだったと語っています。

まさに、この部分の意識が非常に重要なのだと思います。宇宙に馴染みのない方からすると、壮大でだいぶ先の話のように感じてしまい、ビジネスとしての現実味を感じづらいのかと思います。

宇宙のインフラがなくなると、GDPの半分がなくなってしまう (by 袴田氏)

だからこそ「宇宙は夢物語」という意識を変え、「現実味のあるビジネス」、「解決すべき社会課題」として宇宙産業に向き合う必要があると考えています。

また、宇宙産業がより馴染みのある存在になることで、他産業との結びつきやto C事業などにも拡大していき、さらに新しい発想がボトムアップで出てくることにつながると思います。

宇宙ビジネスを推進することが、日本の将来を形成する一つの重要な手段で、まさに社会課題解決であると考えています。


参考資料
[1]「宇宙ビジネス」はやらなければいけない社会課題である!宇宙に挑む起業家たち~岡島礼奈×袴田武史×堀江貴文×戸田拓夫
[2]長期的な宇宙ビジネス市場規模の資産,株式会社NTTデータ(2019/3)
[3]日本における宇宙産業の競争力強化,株式会社日本政策投資銀行(2017/5)
[4]神戸航空・宇宙産業サプライチェーン構築支援補助,神戸市
[5]日本の「宇宙ビジネス」の展望、未来を議論する~岡島礼奈×鈴木隼人×中村友哉×山崎直子×渡辺その子

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