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きょうの難経 五十六難 2022/1/6

この難では、五十五難で定義された「積」を五臓に当てはめて展開していく有名な難です。
基本的に五臓それぞれについて同じ構成で記述されているので、原文でも理解しやすい章ではないかと思います。
さっそく見ていきましょう。

五十六難曰
五藏之積 各有名乎
以何月何日得之
※ 五臓に対応するそれぞれの積の名前と、それがいつできやすいのか、という問いかけです。


肝之積名曰肥氣 在左脅下 如覆杯 有頭足
久不愈 令人發咳逆 痎瘧 連歲不已
以季夏戊己日得之

何以言之
肺病傳於肝 肝當傳脾 脾季夏適王 王者不受邪
肝復欲還肺 肺不肯受 故留結為積
故知肥氣以季夏戊己日得之

※肝の積を「肥氣」といい、左の季肋の下に位置し、形状は覆した杯のようで、頭や足がついている。
慢性化すると咳逆、痎瘧を生じ、何年も治らない。
成立機序は、夏の戊己(つちのえ、つちのと)の日に、肺(金)が邪を受けて相剋の肝(木)に伝える。肝(木)はその邪を相剋の脾(土)に伝えようとするが、夏の戊己で脾(土)の勢いが強いので跳ね返してしまう。行き場の無い邪を肺(金)に戻そうとしても、逆剋なので力関係で戻せない。
結果、肝(木)に邪が留まって固まり、積(肥氣)となる。

心之積名曰伏梁 起齊上 大如臂 上至心下
久不愈 令人病煩心
以秋庚辛日得之

何以言之
腎病傳心 心當傳肺 肺以秋適王 王者不受邪
心復欲還腎 腎不肯受 故留結為積
故知伏梁以秋庚辛日得之

※心の積を「伏梁」といい、臍の上部に位置し、大きさと形状は臂ぐらいで心下に届く。
慢性化すると煩心を生じる。
成立機序は、秋の庚辛(かのえ、かのと)の日に腎(水)が邪を受けて・・以降は肝と同様の展開。

脾之積名曰痞氣 在胃脘 覆大如盤
久不愈 令人四肢不收 發黃疸 飲食不為肌膚
以冬壬癸日得之

何以言之
肝病傳脾 脾當傳腎 腎以冬適王 王者不受邪
脾復欲還肝 肝不肯受 故留結為積
故知痞氣以冬壬癸日得之

※脾の積を「痞氣」といい、胃のあたり(臍周囲)に位置し、大きさと形状は盤を覆したぐらい。
慢性化すると四肢が収まらなくなり、黄疸生じ、飲食物が体の栄養にならない。
成立機序は、冬の壬癸(みずのえ、みずのと)の日に肝(木)が邪を受けて・・以降は肝と同様の展開。

肺之積名曰息賁 在右脅下 覆大如杯
久不已 令人洒淅寒熱 喘咳 發肺壅
以春甲乙日得之

何以言之
心病傳肺 肺當傳肝 肝以春適王 王者不受邪
肺復欲還心 心不肯受 故留結為積
故知息賁以春甲乙日得之

※肺の積を「息賁」といい、右の季肋の下に位置し、形状は覆した杯のようで、慢性化すると洒淅寒熱、喘咳、肺壅を生じる。
成立機序は、春の甲乙(きのえ、きのと)の日に心(火)が邪を受けて・・以降は肝と同様の展開。

腎之積名曰賁豚 發於少腹 上至心下 若豚狀
或上或下無時 久不已 令人喘逆 骨痿少氣
以夏丙丁日得之

何以言之
脾病傳腎 腎當傳心 心以夏適王 王者不受邪
腎復欲還脾 脾不肯受
故留結為積
故知賁豚以夏丙丁日得之

※腎の積を「賁豚」といい、臍より下部(少腹)に位置し、上に移動して心下に達する。形状は豚のようで、上ったり下ったりする。慢性化すると喘逆 、骨痿、少氣を生じる。
成立機序は、夏の丙丁(ひのえ、ひのと)の日に脾(土)が邪を受けて・・以降は肝と同様の展開。

此是五積之要法也

※「賁」をここでは「ホン」と読むのが通例のようですが、易ではこの字を「ヒ」と読みます。山火賁(サンカヒ)という卦があるためです。

上記の五臓の積の名前は、『霊枢』邪氣藏府病形にも出てきますので以下に引用します。

【肥氣】
肝脈急甚者為惡言
微急為肥氣在脅下 若復杯
緩甚為善嘔
微緩為水瘕痺也
大甚為內癰 善嘔衄
微大為肝痺 陰縮 咳引小腹
小甚為多飲
微小為消癉
滑甚為㿉疝
微滑為遺溺
渋甚為溢飲
微渋為瘈攣筋痺

【伏梁】
心脈急甚者為瘈瘲
徵急為心痛引背 食不下
緩甚為狂笑
微緩為伏梁 在心下 上下行 時唾血
大甚 為喉吤
微大 為心痺引背 善淚出
小甚為善噦
微小為消病
滑甚為善渴
微滑為心疝 引臍 小腹鳴
渋為為瘖
微渋為血溢 維厥耳鳴 顛疾


【痞氣?】 
※ここだけ、同様の表現が出てきません。四肢不用は出てくるのですが。
脾脈急甚為瘈瘲
微急為膈中 食飲入而還出 後沃沫
緩甚為痿厥
微緩為風痿 四肢不用 心慧然若無病
大甚為擊仆
微大為疝氣 腹裏大膿血在腸胃之外
小甚為寒熱
微小為消癉
滑甚為㿉癃
微滑為蟲毒蛕蝎腹熱
渋甚為腸㿉
微渋為內㿉 多下膿血

【息賁】
肺脈急甚 為癲疾
微急為肺寒熱 怠惰 咳唾血 引腰背胸 若鼻息肉不通
緩甚為多汗
微緩為痿 痿 偏風 頭以下汗出不可止
大甚為脛腫
微大為肺痺 引胸背 起惡見日光
小甚為泄
微小為消痺
滑甚為息賁上氣
微滑為上下出血
渋甚為嘔血
微渋為鼠 在頸支腋之間 下不勝其上 其應善痠矣

【賁豚】
腎脈急甚為骨癲疾
微急為沈厥奔豚 足不收 不得前後
緩甚為折脊
微緩為洞 洞者 食不化 下嗌逐出
大甚為陰痿
微大為石水 起臍已下至小腹睡睡然 上至胃脘 死不治
小甚為洞泄
微小為消癉
滑甚為癃㿉
微滑為骨痿 坐不能起 起則目無所見
渋甚為大癰
微渋為不月 沈痔

邪氣藏府病形では、五臓それぞれの脈の変化と対応させているのですが、『難経』五十六難では、腹部の「積」のみで構成されています。『難経』が冒頭一難で、寸口部の脈で死生吉凶の全てが分かるとしておきながら、邪氣藏府病形では脈と対応されているにも関わらず、「積」と脈の関係を述べていないのが不思議です。


また、『金匱要略』五臟風寒積聚病脈證并治には以下のような記述もあります。

問曰
病者積有聚有䅽氣何謂也
師曰
積者藏病也 終不移
聚者府病也 發作有時 展轉痛移 為可治
䅽氣者 脅下痛 按之則愈 復發為䅽氣
諸積大法 脈來細而附骨者 乃積也
寸口積在胸中 微出寸口 積在喉中
關上積在臍傍 上關上 積在心下
微下關 積在少腹
尺中 積在氣衝
脈出左 積在左
脈出右 積在右
脈兩出 積在中央 各以其部處之

ここでは、脈と積の関係について述べられています。

漢方医の先生からは、季肋部の胸脇苦満を左右みるけれども、左側に反応がある方が状態が重いと診ることが多い、という指摘を頂きました。
肝の積と肺の積の比較としても興味深いと思います。

また、心の積と腎の積が上下に動きや幅があるのに対して、肺ー脾ー肝の横のラインは杯や盤を伏せて動きが無い限局性の積であるのも興味深いです。

最後に、積聚治療について簡単に紹介させて頂きましたが、ここでは割愛致します。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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