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新規事業で商売の感覚を得る

社会課題解決やイノベーションの具体的な活動として、新規事業開発にスポットライトが当たることが増えてきているように思います。

人や企業によって、新規事業に取り組む理由は様々だと思います。個人としての原体験に基づいて「この不満・不安・不便を解決したい」「社会をこうしたい」という場合もあると思いますし、企業として「新たな収益源をつくりたい」「今のビジネスモデルを刷新したい」といったきっかけから始まる場合もあるでしょう。

新規事業は唯一絶対の答えがなく、うまくいかないことも多い(というか千に三つと言われるように失敗の方が多い)中で、携わった新規事業がうまくいけばそれだけですごいことですし、上述の個人・企業の目標達成にもつながることになります。

Relicで様々な種類/段階の新規事業に触れる中で、上記とはまた別の「新規事業によってもたらされる価値」を感じるようになってきました。

それがタイトルの「新規事業で商売の感覚を得る」です。新規事業に携わることで、自分の仕事を商売と捉えることができ、仕事が楽しくなる、というメカニズムがあると思い始めました。

「新規事業」と「商売」

「新規事業で商売の感覚を得る」ことに繋がるメカニズムを説明するために、まずは新規事業の特徴を整理します。図表は弊社Relic代表 北嶋の著書『イノベーションの再現性を高める 新規事業開発マネジメント ――不確実性をコントロールする戦略・組織・実行』から拝借しました。

新規事業は既存事業と比べると不明確なことも多く、よって不確実性は高く、「新規」であるために時間軸も中長期となります。そうすると組織や実行面においても新規事業と既存事業には差分が生まれます。

新規事業は不確実性が高いだけに予算/リソースは限定的になりがちです。ざっくり言って予算も人数も少ないということです。そして人数が少ないために、一人ひとりが多数の役割や機能を担う必要が出てきます。具体的には、PM、リサーチ、マーケティング・営業、システム開発、採用・育成、ファイナンスなどを、主担当は決めつつも少人数でカバーしあいながら進めていく必要があります。

もちろん組織設計次第で既存事業でも実現しうる役割分担ではありますが、新規事業では特にこういった役割分担になりやすいという意味です。

新規事業の役割分担はいわば、八百屋やアクセサリーショップなどの商店で商品企画、販促、仕入れ、接客、会計などをやっているイメージです。事業というよりも、「商売」という表現の方がしっくりきますね。

自分が主体的に推進する部分が圧倒的に多いからこそ一つひとつの業務を工夫するし、自分が後工程を担うことが容易に想像できるからこそ前工程の対応の仕方を工夫すると思うのです。

繰り返しになりますが、既存事業においても、このような動き方を志向する組織/役割設計が可能ではありますが、新規事業の方がよりこういった志向になりやすい、という意味です。既存事業と呼べるほどのものではありませんが、私が責任者を務めているストラテジックイノベーション事業部はこの点を工夫している(つもりな)ので、追って記事にします。

特に新規事業/商売は、顧客や市場からの反応を直接的に受け取ることができるのがポイントです。例えば既存事業で製造工程に携わっていても、顧客から直接反応を受け取ることはなかなか少ないのではないでしょうか?

顧客の反応がよくても悪くても、自分の思考/判断/行動へのフィードバックなので、楽しいですし、しっかり受け止められると思うのです。

「商売」と「プラモデル」

商売に近いと思っているのが、プラモデル作りです。ガンダムのプラモデルでも、お城のプラモデルでも、自分が作りたいプラモデルを選び、お小遣いで買って、全ての製作プロセスを自分が担うからこそ楽しい。

プラスチックの部品をバラす人、塗装する人、接着剤を塗る人、組み付ける人…と分業してしまうと、途端にプラモデルのおもしろさがなくなります。

もちろん新規事業や商売はプラモデルと違って必ずしも1人だけで行うわけではありませんが、自分の関与度合いが高く、だからこそおもしろいというのは同じだと思っています。

この商売やプラモデルの感覚は、既存事業よりも新規事業の方が圧倒的に感じやすい。そして、一度新規事業を経験すると、既存事業を推進する際も、商売/プラモデル感覚で事業/業務を捉えられると思っています。

視座を上げるための問いとして「自分が社長だったら?」「自分が2階層上の立場だったら?」がありますが、新規事業開発プロジェクトで事業リーダーになり、既存事業に「事業リーダーだったら?」という問いを持ち込む方がより現実的だと思っています。

最近「ブル●ットジョブ」(ク●みたいな仕事)という言葉が市民権を得つつありますが、事業リーダーでなくとも新規事業を経験した人は、普段の仕事の見方や関わり方の選択肢が増えるはずです。

「商売」と「リーンスタートアップ」

ここからは余談ですが、新規事業 = 商売/プラモデルという捉え方をし始めて、新規事業開発のメソッドの見え方が変わってきました。

新規事業において自分の関与度が高いということは責任も大きいということを意味します。企業内で新規事業開発を進める場合、費用は会社のお金から出るとしても、既存事業と比べて個人に帰する責任は大きく感じられるはずです。すなわち「身銭」という表現をしても、さほどおかしくはないと思います。

身銭を切って商売を進めるとなると、ちゃんと使い道を考えるでしょうし、大事なお小遣いで買ったプラモデルだとちゃんと丁寧に作る、といったメカニズムも働きます。

リーンスタートアップはチマチマ検証をするばかり、という批判がありますが、リスクを低減するためにしっかり検証しながら有効に資源を使う、すなわち自分ゴトとして商売を進めるという考え方と非常に相性がいいのです。

リーンスタートアップの考え方はかなり広く知られ、運用されていると思いますが、「新規事業と商売」の関係を据えることで、活動の仕方や組織/人のパフォーマンスも変化するかもしれません。

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