「認知」とは?「まず認知向上」は当たり前か?


はじめに

マーケティングやブランディングの戦略や方針を立てる時に「まず認知を広げないとね」とか「買われるためにはまず認知を広げよう」と言われることは多い。「認知を広げる」は当たり前のように重要とされる。これは概念としては分かるし、重要であることも間違いないのだが、いざ「認知を広げる」ための施策を考えようとすると「そもそも認知されている」とはどのような状態なのか、「なぜ認知を上げることが重要なのか」ということに対する理解が浅かったということに気づかされる。マーケティングにおいて「認知」というものが何で、どのように重要なのか、整理してみたい。

「認知」とはどのような状態を指しているのか?


 「認知」とは、一般的にはある商品・サービスがターゲットとしている市場において顧客から知られている状態ことを指すのだが、もう少し具体的に記述すると、例えば下記のような状態を指すことが多い。

・商品のパッケージやロゴを見たことがある気がする状態
・店頭で実物を見た時に「なんかこれ見たことがある気がする」と思えるような認知状態
・商品名だけでなく何かしらの商品の特徴について知っている状態


 ここで伝えておきたいのは、「認知」を扱う時は、「何の認知か」をその論じている内容をはっきりさせるべき、ということである。マーケティング系の定量調査等では顧客のブランドに対する認識・行動状況をファネルで捉えることをよくする。例えば「認知⇒興味⇒購買・・・」などのフレームを設定して、ざっくり「認知」という言葉を用いて議論されることも多いのだが、認知される対象によって「認知」という意味合いや、その難易度は大きく異なる、という当たり前のことはまず認識しておきたい。ブランディングの議論では、ブランド名とかロゴの識別を「認知」と呼ぶことは多いのだが、そもそも名前やロゴだけの認知を最上位目的に置いてプロモーションすることは、限られた資源しかないケースではあまり現実的ではない。注意したいポイントである。
 上記の事実はあるものの、多くの場合「名前やロゴが知られていること」は重要であるケースが多い。次にそれはなぜ重要なのか、を考えてみたい。

「まずは認知を広げないといけない」は当たり前か?

 多くのマーケティングの議論では「まずは商品・サービスの名前や特徴を知ってもらうことが大事ですよね」ということが、当たり前の前提として議論がなされる。しかし、これは本当にどの商品・サービスにも当てはまるのだろうか。この問いについて考えることは「なぜ認知が大切なのか」を深ぼるヒントになると考えている。例えば、下記のシーンにおいて「そのブランドが広く知られていること」は重要だろうか?

・お祭りで出店している「たこ焼き屋」
・コロナが感染拡大した直後にドラッグストアで買い求めた「マスク」
・高島屋でたまたま見つけて、良いと思った「グラス」
・ハンドメイドのフリーマーケットで見つけた「ドライフラワー」

上記のケースにおいては、「広く知られていること」は、なんとなくそれほど重要でもなさそうな感じがする。認知がそれほど相対的に重要ではないビジネスには、下記のような特徴があると考えられる。

①期間限定であり、認知がストックされない場合
フリーマーケットや祭りなどは、2日~3日など、期間限定で終わるビジネスであり、認知を獲得してもその後「ストック」として残らない。したがって、広い認知を獲得するためのコストに対して効果が釣り合わない。

②他のブランドの認知が高く、それを借りて十分な集客が見込める場合
祭もフリーマーケットも、そのイベント自体の魅力があるので多くの人が集まるのである。また、高島屋でたまたま見つけたおしゃれなグラスもそのグラスの認知が高い訳ではないが、高島屋の認知が高いので、それで十分(少なくとも消費者に対しては)である。逆に、ここから推察できるのは、自社リソースが少ないのであれば、他の認知が広いブランドとうまく連携したりする状況を作れないか、を考えるのが有効そうということである。強いブランドが既にある企業がこの考え方を利用して事業を拡張するやり方を「ブランド拡張」と呼ぶこともある(例えば、アップルがアップルウォッチを出すなど)。「他社のブランド」でも良いので、とにかく「検討してくれる人」の母数を高めることができれば、「自社ブランドの認知」の重要度はそれほど高くないと言えそうである。(ただし、程度問題ではある)

③供給に対し需要が多すぎて「あるなら皆から迷わず買う」ような場合
そのブランドの認知をしていようがしていまいが「とにかく足りなくて困っている状態」である。例えば、「ガンをなくせる薬」「身長を手術なしで1週間で伸ばせるサービス」「寿命を延ばせる薬」などがあれば、ブランドの認知拡大に注力することもなく、ただそのイノベーションの存在自体を適切な場所で発表すれば十分だと思われる。(少し極論かもしれないが、ブランドが知られていなくても、興味を持たれ、購入される中で、ブランドの認知は勝手に広がっていく可能性が高い。)

認知を広げることが重要な理由

上記のようなケースを考えてみると、多くのビジネスで認知を拡大することが当たり前のように重要である理由は下記である。

未来にも残り続ける「資産」としてストックされるため
多くのビジネスは「継続」そのものが目標であり、「認知」は一回きりではなく「ストック」されるものである。だから、認知拡大は大事である。認知を上げるのは短期的な効果だけでなく、未来に対する投資とも捉えられるのである。

②集客のパイが増えて、「検討してくれる人」の総数が増えるから
モノ・サービスが溢れた現在、集客の難易度はますます上がり、基本的には知られないと買われない状況の方が多いだろう。また、他社と連携するのもそう簡単ではないので、まずは自社の商品・サービスを広く知ってもらい集客のパイを増やすことが大事である。一般的には、これが「認知が重要」と言われている主要な理由であると思われる。

③「あるなら迷わず買われるような商品」を作るのは非常に難しいから
イノベーションがますます難しくなっている現在、世の中の誰もが迷わず買うような革新的な商品・サービスを作ることはそう簡単ではないし、それができるような企業は、「ブランドの認知向上」には課題意識を持っていない。「自社の商品はすごく良いけど、正直他社の商品も良い部分があることは認める。その中でも、なんとか工夫して自社サービスを選ぶ人の総数を少しでも増やせないか」という課題意識があるから、ブランドの認知が重要とされるのである。

商品の認知を広げるためのステップ

認知とは何か、なぜ大切かを確認したところで、どのように認知をあげていけば良いのか、ということについてまとめ見る。大きくは下記のプロセスで考えると良いだろう。

①「何を認知してもらいたいのか」の目的とその妥当性をシビアに確認する
「ブランドの認知」という言葉はそのまま扱うと危険だという話をしたが、「認知拡大の施策」という話になった際は、「まず何を絶対に認知させるべきか」「理想的には他に何を認知させたいか」を整理しておきたい。可能であれば目的を具体的にしていくために「何は認知されなくてもOKか」もセットで規定しておけると良い。これくらい明確に認知されたい対象を決めないと、その後の方針がブレるためである。何を認知させるか、については商品・サービスのフェーズや、世の中の時流・興味によっても変わってくるが、まずは、「今ある資産・事実のうち認知させやすいものは何か」を考えたい(思想?社長?商品?ベネフィット?・・・)。例えば、アパホテルはCMでも商品でも、積極的に「社長」を認知させているように思われる。推察するに、女社長は希少性も高いため、ブランドの特徴として「認知をさせやすい」という点に注目して決定したのではないかと思われる。(社長を会社や商品ブランドの象徴にする方法は他にも例がたくさんある。)一方で、「認知の効果」の観点から考えてみると、アパホテルの社長を知ったからといって、正直アパホテルに対する気持ちは、少なくとも自分の場合は変わらない。つまり、認知させやすいものか?も大事であるが、それは認知させたら買われるものか?それはなぜなのか?に関するシビアな評価が必要で、ここの設計を間違えてしまうと、その後の施策で取り戻すことは難しいように思われる。

②非認知者のコアターゲットの設定
認知をしてもらいたい対象がある程度定まったら、その対象を現在は知らない人のうち、どのような人に知ってもらべきなのかを考えてみる。ターゲット設定する考え方については過去書いた記事があるため参照いただきたい。リソースが限られている場合は、ターゲットを広く設定することは難しいため、「積極的に認知した内容を他者に伝えてくれそうな人は誰か」を考えて、影響波及力が高い層を狙うのが王道であるように思う。この例については、また別途紹介する。

③認知が深まる具体的なシーンのリアルなイメージを深め、言葉にする
どんなシーンで、どのようなきっかけで、何に触れて、どのような認識が生まれ、それがどのように購買(もしくはその手前のアクション)につながっていくのか。何パターンか「認知される」という目的が達成された成功事例をできるだけ具体的にイメージしておくと良いだろう。この目的でカスタマージャーニーを描くケースも多いが、その際の注意点としては、理想の成功イメージを希望的に描きすぎるのではなく、顧客インサイトや行動の事実を根拠に、リアリかつシビアに設定することである。どうしても「そんなことないですよね・・」というような空想論が出がちなステップなので、シビアに「本当にそんなことはあり得るのか?それはなぜか?」を問いかけながらイメージしておくと良いと思われる。

④認知を広げるための手段の洗い出し
基本的なコミュニケーション媒体の特性の理解はまず必要になる。その上で、手段を広く洗い出し、コアユーザーの生活導線をイメージしたい。「どのようなシーンでどんな媒体を、どのような意識で見たり聞いたりしているだろうか」と問いかけながら、あり得る手段をまずはできるだけ広く洗い出しておくことが大切である。雑誌や交通広告など、主要なメディアの他にも、Twitter、インスタグラムの他、YoutubeやTiktokなど、デジタルメディアの活用も一通り手段として考えてみる価値があると思われる。

⑤認知を広げる手段の決定と施策の設計
目的を再確認した上で、判断軸を設定して、どのような施策であれば最も効果が出せそうかを判断する。どのような施策が有効かを判断する観点は「ターゲットへのリーチ数が十分に確保できるか」「ターゲットに強いインパクトを残せる媒体特性であるか(信頼度や情報伝達度、等)」「ターゲットが他の層に拡散してくれそうか」などが考えられる。多くの場合1つの媒体ではなく複数の媒体を組み合わせるため、予算の中でいくつかのざっくりとしたコミュニケーションプランのオプションを構想してみて、方向性を固めると良いと思われる。

⑥費用対効果の測定
最後に実行した施策群の効果をしっかりと測定して、次のアクションの精度を高める。PR施策の効果測定で良くあるのは「どれだけ多く見られたか」によって施策の評価がなされることである。しかし、本質的に大切なのは「認知させたかったことが本当に多くの人に認知してもらえたのか」であり、さらには「その認知が購買につながったのか」である。それを評価するためにも、明確に①のステップで「何を認知してもらいたいのか」を言葉に落とし、後の評価方法とセットで規定しておくのが理想ではある。

以上である。「認知を上げる」ということについても、細かく理解をしておくことで、ふわっとした施策になることは避けられるように思う。認知を広げる手段について事例などを紹介できればと思う。

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