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自信を持って舞台に立つ技術ーー「心の問題」に押し込まないために

PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLSを観始めました。これはいわゆるサバイバル番組というやつで、101人の練習生の中から11人のみがアイドルとしてデビューできるという仕組みです。僕はフィクションが好きなので今までこういったリアリティーショー(と区分けしていいのかも曖昧だけど)は全然観てきませんでした。今回は元アンジュルムである笠原桃奈さんが出演されているのでチェックしはじめました。最初は笠原さん目当てではあったものの、見始めると(当然だけど)魅力的な人がたくさん出演されていて面白いです。とはいえここからだんだん人数が減っていくと思うと気が重い……みんなデビューしてほしい……最後まで見届けたい気持ちはありますが、ストレスに負けてしまったらごめんなさい。


練習生の中には過去に芸能活動を経験した方もいるし、まったく未経験の方もいて、多様な背景をもつ練習生が同じように比べられて舞台の上で評価されていきます。そのなかでトレーナーから「自信を持って舞台に立ってほしい」という発言がありました。これには100%同意します。舞台に立つ以上不安な顔は見せるべきではないし、自信を持って自分のすべてを表現してほしいと思います。
しかしその後にトレーナーが「気持ちの部分は自分たちであげてくれないとこっちは何もできない」と発言していたのですが、これには少し補足が必要なのではと感じました。
「自信を持って舞台に立つ」というのは心の持ちようではなく技術です。学んで手に入れることができる能力なのです。自信とか覚悟とか、舞台に立つうえでの気構えのようなものを個人の心の問題に押し込んでしまうと危険です。心というものは他者から観測不可能なブラックボックスなので、心の問題にしてしまうと自分でなんとかしなければいけなくなります。しかも自分でなんとかするといっても「心」という曖昧なものが相手ではまさに雲を掴むようなものです。それでも演者は舞台に立てる状態にならなければいけないので「努力が足りない」とか「根性で」とか「やる気がない」とか曖昧な言葉を使う羽目になり、トレーナーが言えばハラスメントの温床になり、自分自身に言えば自己否定につながってしまいます。なので、自信を持って舞台に立つ能力は技術として習得可能であり、自分に自信が持てないのはその技術を学んでいないからだ、と認識することが大切です。

これは演者だけの課題ではないと思っています。仕事のなかで多くのお客さんの前に立ってしゃべらなきゃいけなかったり、社内のプレゼンで役員の前で企画を説明しなければならないことがあると思います。人前で何かを表現する機会があるのなら自信を持って舞台に立つ技術を学ぶべきではないでしょうか。
学ぶべき、なんて大げさに書いちゃいましたが学んだほうが絶対に楽になると思うんですよ。もちろん、歌やダンスやスポーツの技術と同じで学んだところで個人差はあります。上手くなる人もいるしなかなか上達しない人もいるでしょう。でも「自信を持つ」という正体不明の敵と徒手空拳で戦っていくより「この技術が出来ていないんだ」と認識する方がずっとわかりやすいんじゃないでしょうか。余談ですが、歌とかダンスは技術と認識されてトレーナーが付きますが「表現すること」ってあんまり技術だと認識されてない感じがするんですよね。「表現」という枠組みのトレーナーも付けてあげて欲しい!……でもまあ「表現」てカテゴライズが難しいか……なんかいいネーミングがあるかなあ。「演技」だとちょっと違う気もするし。


さて、じゃあ実際に「自信を持って舞台に立つ」には具体的にどうしたらいいんだよ?という話になるんですが、これはもう僕のワークショップを受けに来てください(ダイレクトマーケティング)。今年中にもう一回開催したいと思っていますのでよろしくお願いします!(ワークショップ過去記事

…ふざけてしまいましたが、歌やダンスやスポーツだってなんとなくやってるだけじゃ上達できないじゃないですか。学んで実践して失敗する経験を積み重ねなきゃいけない。舞台に立つというのも同じなのです。それなのに「舞台に立つ≒人前に立つ」という体験については、チャレンジして失敗できる場が圧倒的に少ないんじゃないかなと思っています。これからの日本にもっとそういった場が増えればいいと思うし、その道具として演劇がもっとメジャーになればいいなと思っています。

少しだけ言葉で説明すると、自信を持って舞台に立つためには「意識の置き所」「身体のコントロール」がポイントになります。

意識の置き所

「意識」って結局は心の問題にしてるじゃないか!と思われるかもしれませんがこれは明確に違います。
舞台表現はそれを受け取ってくれる人がいて初めて成立するものです。だから常に他者を意識していないと表現にならないのです。緊張したり不安になったりすると「うまくできるかな」「失敗しないかな」「怒られないかな」「楽しませられるかな」と考えてしまうと思いますが、これらはすべて自分のことを考えていて、他者が意識の外に出てしまっています。つまり自信がない状態というのは自分のことばっかり考えている状態と言えます。
そこで、意識的に思考を他者にフォーカスすることが大切になってきます。劇場だろうが、会議室だろうが、自分が舞台に立つからにはそれを受け取ってくれる他者がいるので、その人に意識を集中する。自分のなかに意識を置かないで他者に意識を置く。カメラが相手だったとしたらカメラの奥にいるお客さんを想像してその人に集中する。それがまず第一に重要なことです。自分が失敗しようが間違えようが練習通りにできなかろうが、受け取ってくれる他者が喜んでくれたらそれでいいんです。他者に影響を与えるために人前に立っているんだから。このことを演劇ワークショップでは「相手のために」と表現しています。相手とは共演者でありお客さんであり、他者すべてを含んでいます。

身体のコントロール

「身体のコントロール」はその通りの意味で、見た目を変えるということです。身も蓋もないことを書きますが、心や気持ちは他者から観測不可能なものです。テレパシー能力者がいれば話は別ですが多くの人は心を直接観測することはできません。それなのに相手の心を読み取れてしまう場合があるのは、身体から発する細かい情報を無意識に受け取っているからです。
例えば、自信に満ち溢れ心に余裕がある人がいたとします。しかしその人に貧乏ゆすりをするクセがあったら、他者からはその人がイライラしていたり神経質だったり不安を抱えているように見えてしまいます。逆にどんなに心に不安を抱えていてもそれが身体から情報として発信されなければ他者に伝わることはないのです。自分を身体をコントロールする術を知っていれば、舞台の上で自信を持っているように「見せる」ことができます。
こう書くと欺瞞のように感じるかもしれませんが、お客さんにどう伝わるかが大切なので、自分に自信があるのかないのかは大した問題ではないのです。
それに心と身体は密接に繋がっているので、身体的に自信があるような振る舞いをすると自分の心も影響を受けて自信が生まれてくるのです。胸を張れば気持ちも前向きになり、肩を丸めて俯けば悲しくなったりします。単純すぎて信じられないかもしれませんがこれは演技法としても確立されています。

上記二つの方法論で言いたいことは共通していて「舞台上では他者のことだけを考える」ということです。私が上手くできるかどうかはまったく問題ではないし、私に自信が無かったとしても他者にそう伝わらなければいいのです。舞台に立っているあいだ、私はお客さんのためだけの存在になる。私が持てるものをお客さんに惜しみなく与える。そういう姿勢が結局は私自信を輝かせることに繋がります。


というわけで、PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLSの練習生だけに限ったことじゃなく、これから表現者になる方々、また社会のなかで人前に立って何かしなければならない皆様、自信を持って舞台に立つことができない自分を責めないでください。心が弱いからできないわけじゃないんです。その技術と方法論を習得していないだけなんです!
そして自信を持って舞台に立てない他者に対して「心の問題」として責めないでください! 歌やダンスやスポーツと同じように習わなくてもある程度できちゃう人もいます。でも多くの人は教わらなければできないことなんです。
個人の心の問題に押し込んでしまわずに、技術として学んで能力として使っていけるんだという認識がもっと広まってくれたらいいなと願っています。

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