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「あなたを否定する人はいない」から始めよう。Yes,andで築くチームワーク

先日、アムネスティ主催のワークショップで講師をやってきました。
アムネスティではもう何回もお世話になっているんですが、なかなか出会う機会がない方といっしょにできるので毎回とてもワクワクします。今回は香港民主化運動に携わる2名の講師とともに「声をあげる」をテーマにトークとワークショップを行いました。


講師のパトリック・プーン(Patrick Poon)さんはアムネスティの調査員として活動されていたことがあり、もうおひとりのアリック・リー(李 伊東)さんは2019年からアートを通じての香港民主化運動を支えている方です。おふたりとも「声をあげる」現場の最前線にいて、切実なお話を聴くことができました。

今回は英語話者の方がいらっしゃるということで言葉を使うより身体を利用したコミュニケーションワークにしました。ワーク内容を振り返っていこうと思います。

1、ランダムウォーク

まずはコミュニケーションを外に開いていく過程を体験する「ランダムウォーク」から。全員でぐるぐるランダムに歩き回りながら、目を合わせたり、挨拶したり、あっちむいてホイをやったりして徐々にコミュニケーションをとっていきます。「すれ違ったときに目を合わせる」という課題のときに参加者のおひとりが「あのう、笑ってもいいんでしょうか?」と質問してくれました。もちろん笑っても構いません。というより、そこがこのトレーニングの肝なのです。僕の指示は目を合わせることだけで「笑ってください」とは言っていません。しかしほとんどの参加者さんは目を合わせると笑顔になっていました。これはなぜか。社会的な学習の成果かもしれません。他人とコミュニケーションを取るときは笑いましょうと習ってそう実践しているのかもしれませんが、ほとんどの場合はそうではなく、だれかと目が合うだけで嬉しいんじゃないかと思います。
我々は社会で生きるなかであまり他人とかかわろうとしません。電車の中がわかりやすいんですが、誰も他人と目を合わせようとしないし、できれば関わらないでいようとしています。だから意味がある時以外は目を合わせようとしません。変な奴と思われたくないし、トラブルになっても嫌ですからね。でも本来は目と目を合わせるという行為は嬉しさや楽しさを喚起するコミュニケーションなんだろうと思います。
僕のトレーニングでは「目を合わせる」ような原始的なコミュニケーションの楽しさを改めて思い出して、そこから関係性を積み重ねていこうよ、というのがひとつのテーマです。

ランダムウォーク中、あっち向いてホイ

2,ナンバーライン

輪になってスタートの人が誰かを指さしながら「1」と言い、言われた人はまた誰かを指さしながら「2」と言う。これを音楽のリズムに合わせながらどんどん数字をカウントしていくゲーム。今回は英語チームがいたのでアルファベットをAから順番に言っていくスタイルにしました。
とてもシンプルなゲームなんですが、いつ自分に順番が回ってきても対応できるように意識を外に開いておくことや、自分が投げた相手がきちんと受け取れるように「次はあなただよ!」と意思を持ってコミュニケーションを飛ばすトレーニングになります。そして意外と難しい。みなさん結構失敗していましたが、僕のワークでは失敗を歓迎します。失敗は素晴らしいことなのでみんなで笑いあい喜びあいながらトレーニングしました。

その後、上記2名のトークがあり、そのあとに後半のワークに進みました。

3,いっしょボックス

みんなで輪になって立ち、ボックスステップを踏みます。音楽をかけて講師の合図に合わせてみんなでいっしょに一歩目を踏み出す。慣れてきたら合図なしでみんなでいっしょに踏み出す。バラバラになってしまったら一旦ステップをやめて再度チャレンジする。
合図なしでいっしょに踏み出すにはどうしたらいいか、たくさん失敗しながら試行錯誤していくゲームです。反射神経が良い方だと誰かが足を踏み出すのを見てからついていけるかもしれませんが、それだとこのゲームの意味がない。みんなでコミュニケーションをとりながら感じたままに一歩を踏み出す。全員できれいに一歩目を踏み出せるととても気持ちいいんですよ。この気持ちよさを味わってもらうのが一番大切です。
参加者の方からの感想で「このトレーニングはひとつのデモクラシーですね」と言ってもらえたのがとても嬉しかったです。

4,自由ボックス

最後は自由にボックスステップを踏むトレーニング。誰とも合わせる必要もなく、もし違うことをやりたくなったらボックスステップすら捨てて構わない。ただしひとりにはならずに、みんなでやっているという感覚を大切にしながらお互いに影響を与え合い、貰いあう。そうしてなんだかよくわからない祝祭のような空間を作り上げました。
自由ってすごく難しいですよね。いくら「何をやってもいい」と言われたって何をやっていいのかわからない。変なことやって笑われたりバカにされたりするのは恐ろしいし。だいぶハードルが高いトレーニングだと思います。
このハードルこそ社会を閉塞させる原因であり、「声をあげる」妨げになっているものだと思うのです。

自由ボックス

「あなたを否定する人はいない」という前提を持つ

声をあげるためには「声をあげても無下に否定されたりしない」という安心感が必要です。でも現代社会では問題提起をするとすぐに心無い言葉が飛んできますし、声をあげたことそのものを否定される場合も多くあるでしょう。上記の香港民主化運動にかかわる方々はもっと直接的な暴力に襲われ、声をあげる手段を奪われていきました。

暴力が飛び交うような最前線では「あなたを否定する人はいない」なんて甘っちょろい戯言に感じると思います。実際、僕もそう思ってしまう時もあります。しかし、どんなに面倒で長い道のりであったとしてもここから積み重ねていくしかないんじゃないかと思っています。楽しく笑いながらやる祝祭のようなトレーニングが、弾圧の最前線で戦うデモ隊の人たちにつながっていることを意識しながらワークを進めていました。

「Yes,and」の土台のうえ否定さえも受け入れる

「Yes,and」トレーニングをしていると否定してはいけないんだと思う人もいらっしゃいますが、そんなことはありません。「No」を表明することも大切なことです。ただしトレーニングでは「Yes,and」を体感してもらうためにあえて「No」を言わずにすべて受け入れる過程を挟みます。
自由ボックスの最中、僕はかなり大きな声をだして「ワン、ツー、スリー、フォー!」と叫んでいました。もしかしたらうるさいなと思った人もいるかも知れません。その時にうるさいことも肯定し受け入れてもいいんですが、うるさいと思ったのなら「うるさい!」と言ってしまってもいいんです。もし僕が「うるさい」と言われたらこう思います。「OK!じゃあ違う表現に変えるね」。「自分を否定する人はいない」と確信できているのなら、仲間からの否定の声は否定ではなく提案なのです。だって自分の存在や表現を否定してくるわけがないんだから。たまたま否定に聞こえる表現になっているだけ。それなら「うるさい!」という表現に対して僕はYes,andして別の表現をするだけです。否定から逃げることなく、お互いに安心感を持ったうえで伝え合う関係ができれば問題を改善して前に進んでいくチームが出来上がります。
ただしここは注意が必要で「自分を否定する人はいない」と確信がもてるまでの関係性を築く前に否定の言葉を投げてしまうと、それは相手の存在の否定や声をあげることそのものへの否定だと受け取られてしまう可能性があります。そしてその確信を持つまでには時間と練習が必要になる。だからこそこういったトレーニングが大切で、もっと社会のなかに浸透していく必要があると思っています。まだ関係性が出来上がっていない他者に否定の言葉を投げておいて「Yes,andしろよ!」と攻撃しないように気をつけてください。

「自分を否定する人はいない」なんてそんな確信もてないよ、と思うかもしれません。でも僕の感覚でいうと、これって技術なんです。僕はこういったトレーニングを繰り返すことで「まず自分を放り投げて信頼しちゃう」ことができるようになりました。今回のワークショップだってほとんど初対面の方ばかりでしたが、僕は「自分を否定する人はいない」という確信をもって表現することができました。トレーニングすればいつか獲得できるはずです。(余談ですが「そんな感覚もてるわけない」と思ってしまう時点で、いまの社会はうまく機能していないんだと思います)


ワークをやっていると「楽しい」ことに抵抗がある方がいらっしゃいます。真剣に、まじめに、怖い顔でやっていないと本気に見えないのかもしれません。でも「楽しい」と「本気でやる」は両立できますし、同じトレーニングなら楽しくやった方がいいんじゃないかと思っています。
「あなたを否定する人はいない」なんて理想論で甘い言葉だと思う人もいるでしょう。問題解決には直接結びつかない無駄なワークだと感じる人もいるかもしれませんが、この根本的で遠回りな方法でこそ、お互いがお互いを尊重しあえる対等なチームを築くことができると信じています。

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