はじめに
僕は普段、就労移行支援事業所で講師として演劇を使ったコミュニケーション講座を行っています。演劇の考え方や理論は日常のコミュニケーションでも活かせる部分が多く、役者を目指していない方にも演劇に触れてほしいと常々思っています。
先日、いろいろな縁があって友人のアンジュルムファン向けに演劇ワークショップを開催しました。詳細は以下のnoteにまとめてありますのでご一読いただければ幸いです。
以前よりアンジュルム(ハロプロ)と演劇理論の関わりについていくつもnoteを書いてきており親和性があると感じていました。とはいえ多くの皆様にとって演劇は遠い世界のものだと思いますし、実際にやるとなると抵抗がある部分も多いと思うんですが、先日のワークショップでは僕の想定よりもだいぶ深いところまでトレーニングを進めることができました。
そして開催してみた体感として、アンジュルムファン(≒アイドルファン)には僕の演劇ワークショップの理論が理解してもらいやすいのではないかと感じたのです。
そこで文章で演劇理論を語るだけではなく、もう一歩進めて実際に演劇ワークショップを開催し、アイドルファン(を代表とする演劇に関係なく生きる方)の皆様にご参加いただきたいと考えています。
前回のワークショップにご参加いただいた皆様の感想をここに掲載しようと思っていたのですが、とても内容の濃い、すごい分量の感想をいただいてしまったので記事の最後尾にまとめて掲載しておきます。どんな雰囲気だったのかぜひご一読ください。
1,演劇トレーニングの効果
演劇のトレーニングとは、つまりコミュニケーションのトレーニングです。舞台上で役者は本当のコミュニケーションを取ろうと苦心しています。嘘を嘘でなくすために、お客さんに信じてもらうために、すべてが虚構である舞台上で必死に戦います。
生きていればコミュニケーションは絶対に必要なものです。将来、技術が進歩して誰ともコミュニケーションをとらずに生きていける世界が来るかもしれませんが、少なくともあと数十年は無理でしょう。
僕のトレーニングではコミュニケーションにおいて「考えない」ことに重きを置きます。現代社会では考えなければならないことがとても多く、思考にがんじがらめにされてしまうことが多いと思います。何を言えばいいのか、何を言ってはいけないのか、どうすれば好かれるのか、相手を怒らせないのか……「どうすれば」という思考はつまり「正解を求めている」ということでもあります。そして自分の中にその正解を求めている。
正解を求める思考から一旦離れて、相手とただコミュニケーションをとってみる。「私」だけではなく「私とあなた」のあいだで生まれるものを大切にしてみる。肩の力をぬいて考えずに、他者からの影響を受けてその影響を素直に相手に返してみる。それこそが演劇トレーニングの中核です。
もちろんこれは怖いことでもあります。「私とあなた」のあいだからは何が生まれるのかわかりません。正解か不正解かとは別次元にある不安定なコミュニケーションです。でも勇気をもってその不安定に飛び込んだ先で「ただコミュニケーションをとる」ことの嬉しさや楽しさを再確認してもらいたいと思っています。
だから僕は演劇のトレーニングを使って「みんなもっと楽になろうぜ」と伝えたいのです。こう書くとバカみたいだけど……でも少しでも現代社会から受けるストレスや縛りを緩めることができたらそれは素晴らしいことだと思いますし、演劇にはその力があると信じています。
また、即興演劇であるインプロは企業研修やチームビルディングに利用されるようになってきています。ひとつの会社や集団で活動をし続けているとどうしても思考や価値観が固まりがちで、新しいアイディアや体質の変化を嫌うようになっていきます。インプロにはそういった硬直した思考を「ゆさぶる」機能があり、組織内に生きたコミュニケーションを呼び起こします。
このあたりは関連書籍も多く出版されていますのでご紹介しておきます。
2,【仮説】アイドルファンには演劇の理論が伝わりやすいのでは?
演劇のトレーニングはすべての人に開かれているものですが、前回のワークショップで感じたのは「アンジュルムファンの適応能力の高さ」でした。
ワークショップには友人にお声かけして参加してもらったのですが、その場で初対面同士の方も多くいらっしゃいました。(そしてアンジュルムに興味のない方も数名いらっしゃいました。)しかし前述したとおり僕が想定していた以上にスムーズに進み、やる予定のなかった高度なトレーニングまで行うことができました。
いままで何本かのnoteで書いてきたように、僕はアンジュルムの演劇的に高度なふるまい(たとえばYes,and)に驚かされてきました。そしてアンジュルムを応援する方たちもアンジュルムに影響を受けてYes,andをしやすい体になっているのではないかと思うのです。
Yes,andに関しては次の記事を参照してください。
こういった受け入れ能力の高さはアンジュルムに留まらないと思います。ほかのハロプログループでもそうですし、アイドル全般にいえることではないのか?と考えています。
その大きな理由のひとつは、ファンも一緒にライブを創っているという点ではないでしょうか。
ご存じの通りアイドルライブにはコールがあります。曲の中で(ライブが始まる前も)声を出し、一緒にひとつのパフォーマンスを創る。もちろん演劇においても演者はお客さんとコミュニケーションをとります。それは笑い声であったり鼻をすする音であったり、お客さんの反応を全力で受け取りにいってそれが芝居に影響を与えます。とはいえアイドルライブほど観客側から舞台上に干渉していくことはありません。つまりアイドルライブに参加しているファンは半ば演者であるといえるのかもしれません。
これには反論もあるでしょうし、ファンがそう思うことでの悪影響もあると思いますので、あくまで「そうとることもできる」くらいに思っていただけると助かります。
少なくとも「我々の盛り上がりがライブの出来に影響するんだ」と思っている割合は演劇よりもかなり多いように思います。(というか演劇においてそんな風に観に来る人はほとんどいないでしょう。)だからアイドルファンは表現することへのハードルが低いのではないかと考えています。
※アイドルライブの観方に決まった方法はありません。必ずしも声を出す必要はないし、そもそも僕は声が出せない側の人間です……なんか恥ずかしくて……
それにパフォーマンス中のトラブルに臨機応変に対応することもできます。先日のロッキンジャパン2023でのアンジュルムのライブ中、音が止まってしまうトラブルがありました。メンバーの耳には音楽が届いていたようなのでパフォーマンスは続いていましたが、観客側には無音になってしまいました。そんなことがあったら観客は冷めてしまったり戸惑ったりしておかしくないはず。しかしその時はすぐに観客が手拍子をし始め、歌を歌い始めたのです。我々が支える!絶対に肯定する!という大Yes,and集団になっていました。こういった話はアンジュルムだけにはとどまらずハロプロ界隈ではよく聞く話です。恥ずかしながらほかのアイドルに詳しくないのですが、他界隈でも似たようなものではないでしょうか。
ライブの外でも↓こういう話がありまね。これもYes,andの表出であると思います。
そんなわけでアンジュルムファン(広くアイドルファン)には
1、演者としての経験(らしきもの)
2、Yes,andの精神(臨機応変、トラブル対応)
が備わっているのではないかと思うのです。そういった下地があるから演劇のトレーニングにもスムーズになじめてしまうんじゃないかと予想します。
※当たり前ですが全員がそうではないですよ。アイドルファンの中に「演劇なんて恥ずかしい…」という人がいたとしてもなんら問題ありませんし、当然のことです。
3,実際のワークショップ内容
いろいろ書いてきましたが結局どんなトレーニングをやるの?というのが一番わからないところだと思います。演劇のトレーニングは多岐にわたるし、内容も曖昧なものが多く言葉で説明するのは難しいのですが、僕のワークショップで必ずやる基本概念と基礎トレーニングをご紹介したいと思います。
※このワークショップは劇団天然工房主宰の松田信行さんが作り上げた「Nシステム」という演技法を元にしています。天然工房のワークショップも月イチで開催されています。
ワークショップの心構え
まずはトレーニングを行う際の心構えをご紹介します。心理的安全性を確保したうえで良いトレーニングを行うために意識してほしい3点です。
すべてをしっかり意識することはとても難しい(僕もできない)ので、あくまで心がけ程度に考えてください。心の片隅に置いておく注意書きです。
演技(コミュニケーション)の3原則
天然工房ワークショップで教わる演技の基本概念です。日常のコミュニケーションにも応用できます。それぞれ曖昧な表現なので言葉だけで理解するのは難しいと思いますので、トレーニングをしながら以下の3つの状態を少しずつ体感してもらいます。
基礎トレーニング例(ごく一部)
というように、演劇のトレーニングといってもゲームのような感覚で参加できると思います。こういう基礎トレーニングを経て、少しずつみんなでゲラゲラ笑いながらコミュニケーションを深めていきます。
4,9/12 ワークショップやります!
ということで、長々と内容の説明をしてきましたが、どうでしょう?演劇ワークショップに参加してみたくなりませんか?(なってほしい)
今後は定期的にワークショップを開催していけたらいいなと思っているんですが、それに先駆けてお試しワークショップを開催します!
この記事ではアイドルファンにフォーカスしていますが、アイドルに興味がない方ももちろん大歓迎です。
(お試し版)演劇ワークショップ
日時:9月12日(火)19:00~21:00
場所:東京メトロ住吉駅 近隣(詳細は参加者にお伝えします)
料金:500円(稽古場代ワリカン)
持物:多少体を動かしますので、汗拭きタオル・飲み物などご持参くださ
い。
連絡先:林拓郎(はやしたくろう)
メール:engeki.works@gmail.com
Twitter(X)DM: https://twitter.com/takuro_tennen
いきなり参加するのが不安でしたら見学でも構いません。多少なりともご興味があればぜひご連絡ください!
5,演劇ワークショップ参加者の感想
最後に、先日のワークショップにご参加いただいた皆様の感想を掲載します!ワークショップ当日の雰囲気や内容を少しでも感じ取っていただけたら幸いです。