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ルールを乗せると企画になる。業界20年の構成作家・矢野了平さん【テレビ番組のTAKURAMI】

​​「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。テレビやラジオ番組の構成作家、クイズ作家として活躍する矢野了平さんが登場。

約20年間に渡ってテレビ、ラジオの構成作家として走り続け、「日曜日以外はほぼ毎日、番組企画を考えています」と語る矢野了平さん。

テレビ番組は、『水曜日のダウンタウン』や『マツコ&有吉 かりそめ天国』などのバラエティ番組から、『潜在能力テスト』、『くりぃむクイズ ミラクル9』などのクイズ番組まで。幅広いジャンルを手がけ、テレビの向こうの視聴者を日々、ワクワクさせています。

そんな矢野さんにとっての企画とは、「ルールを乗せること」。

それは例えば、「大食いの人」を紹介したいと思ったときに、「制限時間60分で何杯ラーメンを食べられるか」のような制約を設けること。そして、その制約によって、紹介したいことがより面白さや新しさを感じるものに変わること。

子どもの頃から遊ぶように企画してきた矢野さんが手がける番組企画とともに、新しさや面白さを生む企画にするための「ルールの考え方」を紐解いていきます。
 

バラエティからクイズ番組まで、構成作家・矢野さんにとっての企画とは?

──数々の人気バラエティ番組、クイズ番組を手がけられている矢野さんですが、構成作家としてどのように番組づくりに携わっているのか教えてください。 

構成作家は番組の台本を書くイメージが大きいと思いますが、じつは、どうしたら番組が面白くなるかというアイデアを出すことのほうが、仕事の中での比重が大きいんです。ひとつの番組に対して会議が週1〜2回行われるのですが、僕は基本的に日曜日以外はそれらの会議に向けて企画を考えています。

──矢野さんの企画が採用され、実際にオンエアされた番組にはどんなものがありますか?
 
最近なら、今年10月に『ミラクル9』で放送された企画。読売新聞で1万回以上連載されている4コマ漫画『コボちゃん』(作者、植田まさし)の絵やセリフの一部を隠し、前後のストーリーから隠された部分を推理するクイズコーナーを考えたり。バラエティ番組なら『水曜日のダウンタウン』で、新元号発表に合わせた企画を提案したのですが、それが会議で演出家や作家のアイデアで磨かれていき、「閉じ込められた芸人が新元号を当てるまで帰れない」という企画に昇華しました。

ひとつの番組には複数人の構成作家がいて、その中から出た面白い企画がピックアップされると放送に向けて動き出していきますが、周りはライバルというより番組を面白くするために支え合う、仲間のように捉えています。
 
──ほぼ毎日のように番組企画を考えている矢野さんにとって、どのようなことを考えたり、実行することを「企画」と捉えていますか?
 
僕にとっての企画するとは、ルールを考えることです。ルールとは例えば、「何時間以内で」「何円まで」といった制約のこと。これを紹介したい、これをやりたいと思っていることに、ルールを乗せることで企画になると思っていて、コボちゃんのクイズコーナーも新元号企画も、ぜんぶ面白いルールが乗ったことで「企画」になったと思います。

企画を考えるとは、“ルール”によって新しさや面白さが変わること

──「ルールを乗せると企画になる」とはどういうことですか?
 
たとえば、大食いの人がいて、「この人はたくさん食べますよ」と紹介するだけでは企画とは言えない。だけど、「この人は制限時間60分で何杯ラーメンを食べられるか?」というふうに、限られた時間を設けることで企画になるんです。

それはテレビにおける企画だけではなく、ラジオやYouTubeの世界でもおなじこと。「自宅の庭で縁日やってみた」というYouTubeの企画がありますが、自宅の庭といった制約の中で縁日をやるから、企画になっているんです。そこらの空き地でやっても、それはただの縁日じゃないですか。自宅の庭だから、夢があるし、ワクワクする。それは乗せるルールによって、新しさや面白さが変わってくるということであり、そのルールを考えることが企画だと思っているんです。
 
──「ルールが乗る」とは、なんでもいいから制約を設けることではなく、そのルールによって「こういうことをやりたい、こういうものを見せたい」のようなアイデアの種が、新しくなったり面白くなったりすることなんですね。
 
そういうことです。例えば、『マツコ&有吉 かりそめ天国』で僕が出したネタで、夏にかき氷をレポートすることから考え始めた「リセットグルメ」という企画があります。暑い日にかき氷を食べてレポートするだけなら、情報番組としては成立するかもしれないけれど、バラエティー番組として成立させることは難しい。

そこで、サウナというはやっているものとかけ合わせ、「かき氷を食べてサウナに入ることを“交互にやる”」ルールを設けたら、体がリセットされるだけでなく、たくさんレポートできるんじゃないかと考えたんです。プラス、それをおかずクラブのオカリナさんがやることが面白いんじゃないかと企画を膨らませていきました。

ルールづくりは連想ゲーム。子どもの頃から遊ぶように企画してきた

──矢野さんのように、新しかったり面白かったりする企画をつくるために、アイデアの種に乗せるルールは、どんなふうに考え、見つけていけばいいのでしょう?
 
「リセットグルメ」では、ただかき氷を食べるだけでは面白くないから、そこに何か足せないかな?と考えていきました。かき氷ってたくさん食べたら体が冷える、じゃあ体が熱くなるものってなんだろう? 辛いもの? いいや、それだとかき氷を食べた意味がなくなってしまう。体が熱くなるものだったら、サウナはどうだろう? サウナははやっているし、水風呂まで入ればリセットされる! 思考のプロセスとしてはこのような順番ですかね。

例えるなら、連想ゲームのような考え方なのかもしれませんキーワードをひとつ挙げてそこから連想してみることが、ルールを考える上でのアドバイスになるかなと思います。
 
──矢野さんは子どもの頃からクイズ好きで、高校生の頃にはクイズ番組『アタック25』で優勝していますよね。企画するとき連想ゲームのように頭を働かせることも、クイズで積み重ねた思考のトレーニングの賜物のように感じます。

言われてみればたしかに、思考のトレーニングのようなことは子ども時代からしていたかもしれません。

子どもの頃、親が夕飯で天ぷらを揚げる日は、残った衣を自由に使っていいと言われていて。ある日、カリカリの揚げパンをイメージしながら食パンに衣をつけて揚げたんです。そうしたらパンが油をぜんぶ吸っちゃって、重たくて仕方ない。まるで吸わせて固めるテンプルみたいになっちゃった(笑)。

そういう失敗から新たな発見もしながら、天ぷらというお題に対してどんな具材を使ったら面白いか考えることを、大喜利のように楽しんでいました。 

企画の実行は得意な人に任せていい

 ──これまで構成作家として20年以上のキャリアを積んできた矢野さんの、今後の展望についても教えてください。
 
基本的に自分から0→1でまったく新しいことをやりたい欲求があまりないんです。本当はリアル脱出ゲームのような、テレビ番組とは違う形のクイズのイベントをやりたい気持ちもあるんです。でも、今の仕事にプラスして、時間もお金も体力も必要になると思うとなかなか実行できない。だけど、似たようなことをやろうとしている人から声がかかったり、その人に力を貸したりなど自分ひとりでなくてもやりたいことを実現化させる方法はあるので、そこは無理せず、求められたときに力を発揮することを大切にしています

求められることに応え続けていく中で、最近は、出版関連のお仕事の声をかけていただいたりなど、自分の想像の範囲を超えた企画が実現できることもある。求められることが絶えないことと、今後は求められる先が海外まで広がっていったらうれしいですね。

──企画する人は、「ゼロからでも実行して形にするんだ」という強い信念がないと続けていけないんじゃないかというイメージがあったのですが、矢野さんとしては、必ずしもそうじゃないと。
 
企画においては、アイデアを考えて膨らませることとは別に、実行力が絶対に必要だと思っています。 企画は実行しないと形にならないですから。

でも僕は、実行力で悩んで企画すること自体を躊躇してしまう人ほど、実行の部分を誰かに託していいんじゃないかと思うんです。実行力がない人は実行できる人の力を借りて、支え合えればいい。なぜかって、そもそもテレビ番組がそうやってできているから。一緒に形にしてくれる仲間を見つけることも、ひとつの企画かもしれないですしね。

■プロフィール

矢野了平(やの・りょうへい)
構成作家。1977年、埼玉県生まれ。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)『マツコ有吉かりそめ天国』(テレビ朝日系)などバラエティ番組を手掛ける一方、『99人の壁』(フジテレビ系)『潜在能力テスト』(同)『高校生クイズ』(日テレ系)『オールスター後夜祭』(TBS系)『ミラクル9』(テレビ朝日系)など多くのクイズ番組を手がける。『佐藤健&千鳥ノブよ!この謎を解いてみろ』(TBS系)『今夜はナゾトレ』(フジテレビ系)など謎解きブームの影の立役者でもある。

取材・文:小山内彩希
編集:くいしん
撮影:長野竜成