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マンガ連載終了危機から一転、アニメ化からファン感謝祭まで実現。やりたい企画を通した情熱と初志貫徹の精神【アニメのTAKURAMI】

「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。ABCアニメーションの多田香奈子さんが登場。

アニメは好きですか?

勇気を与えてくれたり、落ち込んだ気持ちを癒してくれたり、アニメの持つ力に励まされてきた人は少なくないと思います。

「アニメ化したことで連載終了の予定だった原作漫画が、連載継続になった」という話を聞き、「アニメにはそんな力もあるのか」と驚きました。

そのアニメとは、ABCテレビ・テレビ朝日系列「ANiMAZiNG!!!」枠で2022年10月から放送(2023年4月より再放送も)の『4人はそれぞれウソをつく』。

アニメ化を実現させたABCアニメーションのプロデューサー・多田香奈子さんに企画の裏側を伺うと、原作をアニメ化したいと動き始めたとき多田さんはまだプロデューサー歴半年だったそう。

逆境とも言える状況で、多田さんはどのようにアニメ化を実現したのか?

アニメ化、集大成のイベント企画まで実現できたのは、多田さんの「企画を通す情熱」があってこそ。多田さんのお話には、「都度、初心に立ち返ること」「周囲との対話の中で実現可能な糸口を探すこと」など、情熱を絶やさず初志貫徹するための秘訣が詰まっていました。

企画とは、特定の誰かを幸せにすること

──アニメプロデューサーにとって企画とはどんなことをすることでしょうか?

基本的には、たくさんのファンがいる、あるいはこれから多くのファンがつくであろう原作を見つけ、その後、原作の出版社へアニメ化の話を打診し、アニメをつくりあげるスタッフをキャスティングしてひとつのチームにまとめあげる。これら一連の仕事が、プロデューサーとして企画することに当てはまると考えます。

──一般的にはまずは売れている原作やこれから売れるだろう原作を見つけることが、企画のファーストステップなんですね。

それはアニメに限らず、映画でもドラマでも、多くの映像作品はエンターテインメントである一方でビジネスでもあるから。最終的には採算が取れないといけないものなので、原作が何万、何十万部と売れているものをアニメ化することが多いんです。

ビジネス的な側面から考えると、とにかくマーケティングをしてパイが大きいところに刺さるものをつくることが大切だと思います。一方、私が企画を考える際には、最初から多くの人を幸せにしようと考えるのではなく、「〇〇さんを幸せにしよう」とまずは小さく具体的なことから考え始めることを大切にしています。

私にとっての企画とは、とにかく特定の誰かを幸せにすること。特定の誰かというのは、できるだけ少なくて具体的な方がよくて、それは親や親友、自分でもいい。

──多田さんはなぜ、特定の誰かを幸せにすることを大切にしているのでしょうか?

不特定多数の人の表情を考えても、そんなに情熱を持てないんですよね。みんなが便利になる・幸せになるみたいなことって壮大すぎて、企画の経験が豊富な人じゃないと、自分ごとにして考えにくいと思っています。

例えば大好きな友だちが面白い何かを探しているんだったら、「これがあったらその子の毎日がもっと面白くなるんじゃないか」と自分のことのように考えられる。そして、その面白くなるものを欲している人は、特定の誰かの裏側にたくさんいると思っています。『4人はそれぞれウソをつく』も、「私がこの作品をアニメでみたい!」という大きな熱から企画が生まれているんです

私はアニメプロデューサーになって、まだ2年半ほど。この作品をアニメ化したいと思ったのは、プロデューサー歴まだ半年の頃だったんです。ベテランプロデューサーのようにひとりでチームをまとめあげたなんて到底言えないのですけど、自分の情熱を周りの人たちに伝え続けていたら、経験が浅くても企画を通すことができ、チームが組めて、アニメ化、そのさきのイベント企画まで実現できました。

『4人はそれぞれウソをつく』アニメ化を実現させた、情熱の伝え方

──多田さんは作品のどんなところに惹かれて、「この作品をアニメで観たい‼︎」と思ったのですか?

設定が無茶苦茶に面白かったのと、登場人物4人の破天荒な感じが、まだ仕事に慣れていない当時の自分を癒してくれたことですかね。書店で購入した一巻を読み終えた直後、絶対にアニメ化したい!と思いました。

一方で、もう他のプロデューサーに手をつけられているかも……とも思ったんです。人気漫画って、実は1話が出たタイミングでアニメ化の手が挙がっていたりするので。

──そんなに早く⁉︎ 話題作は争奪戦なんですね……。

でも『4人はそれぞれウソをつく』は、まだアニメ化の手が挙がっていなかった。さらに私が驚いたのは、想像していたより部数が出ていなかったこと。「だったら私がアニメ化して、この作品の知名度をもっと上げたい」と思ったんです。「アニメ化の意義って人気作をやるだけではなく、アニメから原作を広めることにもあるはず」と強く思いました。

──とはいえ、プロデューサー歴半年でまだ未知数だった作品をアニメ化するのには、企画を通す苦労があったのではないかと思います。また、『4人はそれぞれウソをつく』は連載終了の話もあったとか。どんな作品でもいつかは終わるものですが、タイミング的にも逆境だったのではないかと。

たしかに上司には何度も何度も、この作品が大好きなんだという思いを、ことあるごとに伝え続けましたね。

とにかく思いを伝えたのは、原作の版元の講談社さんに対しても。連載終了の予定と聞いたのは、アニメ化が決まりそうなタイミングでしたが、「連載が終わっても作品が消滅するわけではないのでぜひ進めさせてください」とお話しさせていただいて。結果、アニメ化が決まったことで連載も継続になりました。

企画書もつくりましたが、私の企画書が何かに長けていたとは思いません。本気でやりたいという思いをことあるごとに口に出していたことが、企画が通った理由だと思っています。

2022年はプリキュアシリーズ19作目の、『デリシャスパーティ♡プリキュア』のプロデュースも担当したのですけど、じつは私、プリキュアが大好きで、ABCテレビに入社してから10年以上ずっと「プリキュアのプロデューサーになりたい‼︎」と言い続けていたんです。言い出したら実現できるまでやり切る。初志貫徹を大切にしています

──自分より経験豊富な方にNGを出されたりすると、自信がなくなったり、ブレたりすることもあると思いますが、多田さんが初志貫徹できるのはなぜでしょう?

たしかに初志貫徹って、言うほど簡単じゃないですよね。アニメひとつとっても、放送されるまでに数年間、人生を捧げるようにつくっている人ばかり。誰よりもその作品を愛せると信じられなければ、とてもやり切れないような気もします。なので私は、初志貫徹するために、本当にどんな大変なことがあってもその作品を誰よりも愛せるのか?ということを、企画を始めるときのひとつの指標にしています。

それから、めげそうになったり、好きだって気持ち自体を疑いそうになるたびに、「とにかく自分に言い聞かせること」も初志貫徹する上で大切だと思います。私も大変なことが重なると「あれ? アニメが好きなんだっけ?」と思うことがありますけど、そんなときは「私は好きだよ。ほら、思い出してごらん。昔の自分を……」って自分に言い聞かせるんです!!(笑)。

また、自分ひとりだけで初志貫徹しようと思わなくてもいい。最初はできないと思っていたことでも、周りの人たちと対話を重ねることで、実現できる方法を一緒に見つけていくこともできます。それは2023年7月23日(日)にニッショーホールで開催する、『4人はそれぞれウソをつく』のスペシャルイベントを企画したときも感じたこと。

イベントでは、登場人物全員がウソを付き合う『4人はそれぞれウソをつく』に絡めた、ウソをつき合うスリル満点の推理ゲーム『マーダーミステリー』が実施される

集大成となるイベント。最初に発案したときは社内でNGをもらったのですが、私はどうしても実施したくて……。

アニメって年間約300本も制作されていて、ひとつ終わればまた次の面白いアニメが始まり、どんどん忘れ去られていくような気がしていました。社内の人と対話していくうちにわかったのは、「スタッフは心血注いで数年かけてつくるのに、あっさり終わりすぎなんじゃないか」という気持ちが、私だけでなく上司にもあったこと。

最初はNGでしたが、対話の中から互いに共通して考えていることがあるとわかり、そこから「アニメが終わっても、イベントとして作品が続いていくような企画を目指す」という意義を見出して、イベント実施が決定したんです。

「自分が好きなこと」から企画したほうが、いい企画になる

──多田さん自身は、自分の好きなことから企画したり、好きなことを仕事にしている印象ですが、「好き」を起点にして何かを始めることの良さはなんでしょうか。

究極的ですけど、好きなことを仕事にしたり、企画としてやり切った方が、最終的に「よかったな」と言えるだろうと思いますね。

好きなことは仕事にしない方がいい、みたいな意見もありますし、一理あるとも思います。忙しくなりすぎると「私って本当にこれが好きだったの?」と疑うこともあるし、知りたくない裏側を知ってしまうこともある。

それでも、仕事って人生のうちの多くの時間を費やすものだから、好きじゃないことより好きなことをやった方がいいと思いますね。

──アニメに限らずいろんな企画でもよく、好きな人がやるとそうじゃない側の人の気持ちがわからないとか、新鮮な目で見れないという理由から、「好きじゃない人がやった方がいい」という意見がありますよね。

私も、プリキュアに対して、「好きな人がプロデューサーをやらないほうがいい」と言われたこともありますが、私はそうは思いません。

むしろ好きであるほうが、いかにしてアウトプットをよくするか真剣に考えるし、真剣に考える過程で必ず第三者目線を入れようとすると思うから。自分にない視点は、他の立場の人から聞けばいいんです。

それに、私が『4人はそれぞれウソをつく』の宣伝部長も兼ねていて思うことですけど、たった140字のツイートでも、つくっている人に本当に情熱があるかどうかは画面の向こう側の人にまで伝わるもの。

私自身はまだまだプロデューサーとして駆け出しですが、これからキャリアを重ねていっても、自分が心から愛せると信じられるものに対しては情熱を持って初志貫徹したいですね。

◼︎イベント情報

本文内でも触れられている、スペシャルイベント『4人はそれぞれウソをつく』~第12話 ニッショーホール~は、2023年7月23日(日)に開催されます!

リッカ役・田中ちえ美さん、千代役・村上奈津実さん、関根役・佐倉綾音さん、翼役・潘めぐみさんが集結! TVアニメ『4人はそれぞれウソをつく』を応援してくださったファンの皆様と共に作り上げる、イベントという形の『幻の第12話』をお届けします!!

キャストによる朗読劇やゲームコーナー、トークに加え、特別な品が当たる抽選会や、現在話題沸騰中のマーダーミステリーもやっちゃいます!

イベントの詳細はこちら

◼︎プロフィール

多田香奈子
2007年にABCテレビに入社。番組宣伝部、営業部を経て、2020年にABCアニメーションに部署異動。『4人はそれぞれウソをつく』『デリシャスパーティ♡プリキュア』などのプロデューサーを担当する。

Ⓒ橿原まどか・講談社/製作委員会はウソをつく  

取材・文 小山内彩希
取材・編集 くいしん
撮影 安永明日香