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五所川原の宿「こもる」から紐解く、「面白さの本質」のつかまえ方【宿のTAKURAMI】

「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。今回登場するのは、KOMORU代表の香田遼平さんです。

最近、自分と向き合うための時間をつくれていますか?

青森県五所川原市。自然豊かな津軽の地に建つ「こもる 五所川原」は、考える時間を提供する宿です。

プロデュースを担当したのは、累計100万人以上の体験者数を記録し、国内外から注目を集めた「うんこミュージアム」を手がけた香田遼平さん。香田さんは、自身の祖父母が住んでいた空き家を改装して、2023年7月に「こもる 五所川原」をオープンさせました。

「こもる 五所川原」の平面図。2階建て全5部屋のうち1階の3部屋は坪庭付きの客室になっている
「こもる 五所川原」の外観
「こもる 五所川原」の内観

「こもる」は、宿の名前なだけでなく、宿が提供したい価値そのものでもあります。運営する会社名もKOMORUです。宿が体現する価値を「こもる」にしたのは、香田さんが数年前にこの場所に滞在していたときに得た感覚が元になっているそう。

さまざまなプロジェクトをプロデュースしてきた香田さんは、どんなことを大切にして企画しているのでしょうか? お話を聞いてみると、「自分が心から面白いと感じられるものをつくる」という共通点がありました。


面白いっぽいものじゃなくて、面白いものをつくる

──香田さんは「企画」というものをどのように捉え、アウトプットしていますか?

僕は、自分がやっていることを「企画している」というふうには、あまり意識していないんです。

「企画をつくろう」と考えているのではなくて、昔から常に「面白いものをつくろう」と考えているんです。世の中の多くの人が、面白いものではなく面白いっ“ぽい”ものをつくっていることが多いなと感じる中で、意識していることです。

──面白いものと、面白いっ“ぽい”ものの違いはなんでしょう?

面白いっぽいものは、自分自身が面白いと感じたものではなく、「あの人が面白いと言っていたこと」や「テレビで面白いと言われていたこと」を、そのまま自分にとっての「面白い」としてしまうようなこと。「あの人が面白いって言っていたので、これって面白いんですよ」と他人に紹介しちゃうことって、よくありますよね。

でも、その人にとっての面白さって、自分自身で感じたことにあるはずじゃないですか。それを誰かの「面白い」を借りて誤魔化してしまうと、面白さの純度が濁ってしまうと思うんです。

企画も、やりたいことの説明やうまい通し方を考えたりしているうちに面白さの純度が濁ってしまうことが、よくあると思います。だから僕はどんなプロジェクトに関わるときも、「企画する」「コンセプトをつくる」ではなく、「面白さの純度を保ったまま伝えること」をとにかく意識しているんです。

宿のコアを、「こもる」にした理由

──純粋に面白いものをつくりたい、とのことですが、この宿の名前でもあり体験してもらいたい価値でもある「こもる」は、どこから着想を得て生まれたのでしょうか?

仕事が忙しかった時期に、誰もいないところに行きたいと五所川原へ足を運び、祖父母が住んでいた空き家を宿代わりにして数日間ほど滞在したことがありました。

時期は夏で、夏休みのような感覚で来た記憶があります。ボロボロで埃まみれの空き家だったのですが、余計な情報がなく、誰と接することもなく、ひとりで考える時間がたくさん取れました。そのときの泊まっている感覚が、「泊まる」というより「こもる」に近いものだったんです。発想の起点はこのときの体験にあります。

そして、「こもる」という価値を積み上げていくために、全国の宿を行脚することにしました。

──香田さんは全国の宿の、何を見ようとしていたのかが気になります。

みなさん宿に泊まるとき、「泊まる場所を提供してくれたこと」にお金を払っていますよね。なので、宿の価値は、ベースとして泊まることにあります。

その上で日本全国の宿が、どのように新しい価値をつくることができるのか?と考えているわけです。僕が知ろうとしたのは、まさに、「『泊まる』という価値に日本中の宿はどんな価値を積み上げているのか?」ということでした。

それを知ったうえで、自分が宿でやりたい「コアの部分」が生まれてくるだろうと考えていたんです。

宿をまわる中で、石川県珠洲市の「さか本」という湯宿に出会いました。「いたらない、つくせない宿」と謳うその宿は、電話やテレビ、トイレもありません。

人生をもう一度見つめ直す時間をつくり出してくれる場所なんです。まるで、東京で狂った脳内の時計を巻き戻してくれるような不思議な体験ができる宿で、僕は泊まるというよりは新陳代謝している感覚になりました。

──香田さんは、湯宿「さか本」が提供している価値は「泊まる」ではなく、「新陳代謝」だと気づいたんですね。

そういうふうに、この場所に「泊まる」ことを「こもる」という認識に変えたいと思ったんです。泊まることが、こもるということ。そこがこの宿のコアだと思っています。

本質をつかまえるには、自分で考え、体験するしかない

──ここまで「コア」という言葉が何度か出てきたように、香田さんは企画するときに面白さの「本質」を見つけることを大切にしているように感じました。本質的なものを見つけられるコツなどはあるのでしょうか?

うーん、それを見つけるまでの時間を短縮化した先に何も起きないと僕は思っているので、「とにかく自分で考えてみる、自分で体験してみる」としか言えないですね(笑)。

僕は、企画が得意なタイプではないので、どんな施設を考えるときにも、自分の頭で考え、自分で体験し、めちゃくちゃ面白い!と心から思えたことから考えています。そして、深く考えて見つけた面白さの本質を、とにかくブラさないことを徹底しているんです。

「こもる 五所川原」の建築や内装は、僕はほとんど触れず、建築家にお任せしました。建築家は、「神は細部に宿る」と言わんばかりにこだわってつくってくれましたが、僕は職人気質ではないのでその感覚はあまり持ち合わせていない。だから自分自身は面白さの大元について、深くまで考え尽くそうとしている。そんなバランス感を大切にしているんです。

──バランス感というのは、香田さんが生み出すもの自体からも感じます。みんなが知っている普遍的なものを捉えながらもユニークなアウトプットになっているという、絶妙なバランス感覚で成り立っているなと。

世の中にはニッチなものがカッコいいという価値観があって、それはそれでいいと思うのですが、今って企画する人もニッチな方向に行きがちだなと感じます。

僕も昔は、ニッチなものが面白いと思っていました。ですが、アイス屋さんで一番売れているのは、やっぱりバニラやストロベリーといった王道なんです。映画でも、愛や友情といったものが不朽のテーマじゃないですか。うんこミュージアムを一緒につくったプロデューサーも、「ニッチな面白さに逃げるな」とよく言っていました。

今は、みんなが普遍的に面白い、かっこいい、可愛い、と感じていることを真正面から捉えにいくことを意識しています。そういった普遍的な価値をベースにして、既存の価値観からちょっとズラす。そうやって大きな芯を取りにいきたいと思っているんです。

──今後、やりたい企画などありますか?

ひとつの宿をつくるのに約5年かかりました。ひとつに5年かかるなら、残りの人生であと6つくらいしかつくれない。この先どんなものをつくるのか、今はまだイメージできませんが、自分にとって無意味なものをつくる時間なんてないと思っています。

■プロフィール

香田遼平
青森県生まれ、大阪育ち。2014年に面白法人カヤックに入社、2019年「うんこミュージアム」を企画プロデュース。2020年株式会社KOMORU創業。五所川原に本社を置き、文化を育てる会社としてホテル事業、R&D事業を全般担当。

取材・文 石川優太
取材・編集 くいしん
撮影・編集 小山内彩希