見出し画像

PSYCHO-PASS(サイコパス)PROVIDENCEで地獄を見た話(映画の感想)


こんにちは。とらつぐみです。

先日、映画PSYCHO-PASS(サイコパス)PROVIDENCEを見に行きました。


入場者特典(1週目)のメモリアルノート。

PSYCHO-PASSは、フジテレビノイタミナ枠で放送していたオリジナルアニメ(1〜3シーズン、最初のシーズン放送開始は11年前(!))です。

「シビュラシステム」というシステムが社会を支配する未来の日本で、正義を執行するため働く「監視官」「執行官」たちの物語で、ジャンルとしたらSF、またはサスペンスやアクションに入るのでしょうが、「正義とは」「法とは」「社会秩序とは」というテーマを一貫して描いている作品でもあります。

↑直近のシリーズ(3期)の公式サイト

PSYCHO-PASSの劇場版がこれまでに5作品公開されています。6作目の今作は、時系列でいうと3つ目のシーズンの前日談で、1-2シーズンの主人公である監視官・常守朱を中心に話が展開していきます。

私は配信サービスで見初めて映画とテレビシーズンは全部見た上で映画館に行ったのですが、結論からいうと今回の映画はとても面白かったです。今まで見たPSYCHO-PASSの映画の中で、個人的には一番面白いと思いました。

ただ、じゃあもう一回見に行こうぜ、来週映画館集合な、と言われると「いや、ちょっとしばらく勘弁して」となります。

映画は最高だけど後半ずっと「最悪だ〜」と心の中で言いながら見ていましたし、何ならこうして感想を書かないと日常生活に支障が出そうな、度し難い感情に包まれています。

というわけで今回は、備忘録の意味も込めこの映画を観た感想を書けるだけ書きたいと思います。当然ながらめちゃくちゃネタバレしますし、過去のアニメシリーズの内容にも触れます。

ネタバレ全然気にしない人、または同じ映画を観て、同じ地獄を味わった人間を探している人向けのブログなのでご了承ください。


超私見の雑な登場人物紹介。漢字が難しい。


※ここからめちゃくちゃネタバレあります※
※引き返すなら今※

序盤:1期の(存命)メンバー集合!やったー!



(粗筋)シビュラシステムが社会の隅々まで浸透し、法律の廃止が強行されようとしている日本。そんな折、「ストロンスカヤ文書」と呼ばれる文書が雑賀先生宛に届き、送り主は日本に向かう途中船を襲撃され殺される。

犯人グループは砺波という男をリーダーとする元外務省の特殊部隊ということで、公安局と外務省の合同捜査が始まり、文書を受け取りに行く雑賀先生と一係の面々だが……

・冒頭、襲撃された船に潜入するためヘリにダイブするすごいシリアスな場面なのに狡噛がムササビっぽいなと思ってちょっと笑った。ムササビはあんなに華麗に機銃掃射避けないよ。


・狡噛、新約聖書の一節はわかるがごめんなさいと素直に言えない男


・外務省との合同捜査!雑賀先生に捜査協力依頼!で、1期からのメンバー+雑賀先生が揃った!わーい!とか思ってたのによお……思ってたのに……

「実は雑賀先生は囮」って話出てきた瞬間嫌な予感はしてた。でもまさか、まさかあそこで死んでしまうなんて……

・雑賀先生は、転落しかけた自分を助けようと朱が手を伸ばして、朱も落ちそうになってるの見て、自分から手を離していた。

先生はきっと、すでに胸を刺されて助かるかもわからない自分を助けるために、朱まで犠牲になるのを避けたかったのだろう。2人とも転落して死ぬくらいなら、自分だけ落ちようと。

でもそれによって朱は、「手を掴んだのに助けられなかった」という罪悪感に囚われたわけで……

観客の色相曇るわこんなん。

・頭撃っても襲ってくるゾンビみたいな兵士が怖すぎる。

脳にチップを埋め込んでいる人に対して別人格を「憑依」させ、時には色相悪化を誤魔化す。

シビュラの欺き方が、特異体質→ヘルメット→特異体質の眼球埋め込む→脳にチップ埋め込むとどんどん進化していて怖い。


中盤:誇り高い死者たち

(粗筋)慎導は、犯人グループである特殊部隊を設置した張本人だった。そして息子・灼の親友、炯の兄は、慎導が犯人グループに潜入させた捜査官。犯人グループは「憑依」という手段で犯罪係数を誤魔化し、兵士を操っているという。取り調べ中、炯の兄に砺波が憑依して………

・炯の兄に砺波が憑依し、砺波は彼を操って逃亡させようとする。だがそこで脳内に埋め込んだチップのオーバーロードが起きる。その隙に彼は、憑依によってでなく自分の意志で自分の命を絶つ。

これ以上、自分の身体が自分の意志でなく罪を犯すのを止めるため。その面だけ見ると彼の行為は誇り高い。だがそれによって彼は、大切な弟、炯の結婚式まで生きることができなかった。その事実がただただ悲しい。


・一方、特殊部隊の設立に関わり、ここまでの惨劇を産んだ元凶の一人である慎導。彼もまた、死という選択肢を選んでしまう。

炯の結婚式の直前、彼は局長と面会し、灼たちの安全を守るように伝える。そして炯の結婚式で意味深なスピーチをした後、車の中で1人、自ら命を断つ。

灼は父親の死を知り、「何が何だかわからない……」と絞り出すような声で言っていた。それは観客も同じだ。何で皆、肝心なことは何も言わずに死んでいくんだ?

せめて一言、朱とかには説明してやってくれよ、と言いたい。
子供の安全と引き換えに沈黙を守り、死を選ぶことで汚名を全部被る。そんなことして灼くんが喜ぶと思いますか????


・局長は彼の死を契機に、無理矢理事件を終幕させようとする。彼の望み通りにことが進んだわけだが、それでいて、この段階では既に国防省に手を回していて、捜査一係がアジトを襲撃する場合手を貸すをするよう依頼してある。

慎導本部長は、単純に敵か味方かと分けられるタイプの人間ではないのだろう。彼は裏工作で今の地位までのし上がった冷徹な幹部であり、一方で子供を思う父親でもある。また、自分が作り出した特殊部隊の落とし前をつけたいという彼なりの矜持もある。

そうした彼なりの思いがあったというのはわかるが、残された朱ちゃんにとっては最悪の「あとは頼むぞ」だってこと、お分かりになります??


生きて精一杯足掻くことよりも、死を選ぶことの方が自分の誇りや大切なものを守ることにつながる。仮にそれがシビュラ的に見て最も合理的だとしても、それを躊躇なく選ばせる社会、というのは、どこか狂っているのではないだろうか。

そしてこの「選択」は、終盤の朱にも降りかかってくる。

クライマックス:常守朱の選択

(粗筋)慎導の死で局長から捜査の打ち切りを言い渡されるが、一係は独断で捜査を続行する。朱はストロンスカヤ文書を渡すふりをして北方列島にある砺波のアジトを訪ねる。それと同時に狡噛たちはアジトを襲撃し、公安局として砺波を逮捕する作戦だが……

・局長の命令に背いてアジトを襲撃しようとする朱に、「先輩たちがみんな死んだら脅されてやったことにしますから」と霜月は言い放つが、いざ彼らがピンチになると局長に直談判し、助太刀する。霜月美佳、かっこよすぎる。

・北方列島に向かう際、狡噛と宜野座が、「俺が常守の盾になる」「あいつはクリアでいてほしい」って話してるの、すごいいいシーンだなと思っていたんですよね……このときは……

・それぞれの戦い方、
ドミネーターだけで勝負を挑む朱、いつもの癖で(?)すぐ拳銃を出す狡噛、レールガンみたいな試作品ドミネーターをぶっ放す花城、ドミネーターより殴った方が早い宜野座。そして頼もしすぎる後方支援と、1人映画のジャンルが違う、戦闘機に乗った須郷さん。

みんな違ってみんなかっこいい。


・爆発でギノの髪がファサ……って解けたの、あまりに都合がよすぎる。


・砺波を追い詰めたものの、朱が殺されそうになっているのを見て、狡噛は砺波を拳銃で撃ち殺してしまう。

彼の性格を考えると、朱が望むか望まないかに関わらず「必ず撃つ」が、それゆえに朱は、狡噛が人を殺そうとするのを止めたい、と思っているのに、また目の前で罪を重ねさせてしまった、と思い詰めてしまう。

……そう考えると朱が精神的に追い込まれていったのは、ほぼ狡噛のせいなのでは?(何割かは無論、シビュラが悪いだろうが)

宜野座が「二度と常守の前に現れるなと言っただろ!」と狡噛に掴みかかるシーンが序盤にあるが、あながちそれは間違いではなかったんじゃね?と嫌な冷や汗が流れる。

・そして、事件収束後、慎導がいた本部長のポストに就くこととなった朱。その任命式の最中、公衆の面前で、朱は本部長を拳銃で撃ち殺す。

すぐに拘束され、犯罪係数を測定された朱だが、色相はクリアなまま。朱は、シビュラの犯罪係数では捌けない罪人となった、この事件は大きなニュースとなり、法律の撤廃は見直されることとなった。


・3期の時に朱のことをことを「周りがどんどん破滅していくのに1人色相クリアなままな悪女」と評していたくだりがあった。

当時は「そんなことない!」という気持ちが大きかったが、この朱の(最悪の)選択は、自分の色相の綺麗さを利用している、とも言える。

「色相がクリアなまま犯罪ができる」という人間自体は、1期の槙島のような特異体質として存在していた。しかしシビュラというものの性質上、その存在は公表されず、その殺人鬼が世に出ることはそもそもなかった。

しかし朱は、側から見ればエリート街道を進む優秀な官僚だし、彼女の色相が曇らないのは、特異体質ではなく、法と正義を信じる強い意志があるからだ。そんな彼女が犯罪を犯すことで世間に大きな衝撃を与えることは、疑いない。

狡噛が罪を重ねたことや、たくさんの犠牲があった中で自分だけ手を汚さず、色相がクリアなままでいることに、朱が何も思わなかったわけがない。

彼女は自分の立場(エリート監視官)と色相のクリアさを利用し、シビュラの危うさと法律全廃を阻止しようと思い、誤魔化しようのない公衆の面前で凶行に走った。それによって、最も効果的に世論に対して、法律撤廃の危うさを訴えることができる、最も合理的な選択だから。


……だけどさあ!!!!!それを朱ちゃんがやらなくてもいいじゃん!!!!!

この世界の人間、報連相というより、自分の感情を伝えるのが下手すぎる。
「お前が正しいと思う道を進め」とかそういうことじゃなくてさ、「もっと自分大事にしろ」とかそういう言葉を誰も言わないから!!!!(仮に言ってもやってた気はする)

朱には狡噛や宜野座、一係の面々のような時には「盾」になってくれる仲間がいて、雑賀先生とか慎導とか、未来を託してくれた人たちがいる。だが彼女はその人たちの思いを踏みにじってでも、法律による秩序というものを守りたかった。


シビュラだけに頼った秩序は危うい、法律という枷は社会を守るために必要、という主張は至極真っ当だ。

でもそのために、誰よりも正義と法を信じている朱が法を犯す、というのはやはり許されない。その方法がいくら合理的で、目的を達成するため最も手っ取り早いものであったとしても、それは法と正義を信じる自分自身への裏切りであり、自分の大切な信念を殺してしまうことだから。

↑エンディングテーマ「当事者」の歌詞にある「私か彼らのどちらかを殺す」という言葉。彼女が(物理的に)殺したのは局長だけだが、「彼ら」とは一体、何を表すのだろうか……?


法律は個人の自由を制限するが、他人の自由を侵害する人間や、自由をやたら制限しようとする国家から自由を守る(罪刑法定主義:法律の文言によらない罪では罰しない)ことができる。

いくら全知全能(神とかシビュラとか)の存在があっても、それを運用し実際の社会を回している人間は不完全で信頼に足らない。だからこそ、法は必要なものなのだ。

というかこの世界の人たち、こんなことになる前に気づけよ!!!法律はメソポタミア文明の時からあるんやぞ???人類の歴史の中で「法律」が生き残ってきた理由、今まで起きた神権政治や政教一致の失敗例を見ればいくらでもわかるはず。


結論
映画は最高、でもこの世界は最悪すぎる


果たして朱の信念は、仲間たちの想いはちゃんと息を吹き返すことができるのか。アニメ4期でのストーリーに期待したいと思います。


ーー
ギノの髪、3期より長くなってないか問題に関しては一緒に観た友人と協議した結果、「爆発で毛先が燃えちゃった(解けたときの肩上の長さではお団子にはちょっと足りない)」に落ち着きました(とらつぐみ・鵺)

この記事が参加している募集