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回顧録

 子どもの頃、自分はなりたいものになれると思っていた。正確には、それになる以外の道を考えられなかった。

 これは、「なりたかったものになれなかった」私の話。

 最初に言ってしまうと、私は一般的な人生のレールからは外れてしまっている。ひたすらに夢を見て、現実を見ることから逃げた。だから、傍からみれば、大人のくせに幼稚で、なんて恥ずかしいと思われるかもしれない。それでも、これを書くのは、自分の人生を見つめたくなったから。(そう書くこと自体が後から見返せば「痛い」かもしれない)


 10年。

 私が、夢を見続けた期間。そして、現実を見ることから逃げた期間。

 夢を見始めたのは、もっと前のこと。

 小さいときからアニメが好きで、好きなアニメのために朝5時に起きて、テレビの前で正座して開始時間を待つような子どもだった。

 姉がきっかけで「声優」というものを知り、小学4年生のときには「声優になりたい」と公言していた。地元の演劇ワークショップに参加して、2年目には主役級の役をもらった。学芸会で劇をやるときは、もちろん役者を志望した。6年生の劇では主役を演じた。

 中学校は、転校した先で放送部に入り、朗読を始めた。高校は、放送部があって強いし、家から近いという理由で志望校を決めた。無事に合格して、入学後すぐに放送部に入部した。学内オーディションを通過して、1年の最初のときから大会に出場させてもらった。朗読をやり続けた3年間。県大会では、そこそこ良い成績を残すことができた。

 最後の大会を終えて、大学受験のために志望校を考えた。現役のときは、受験はうまくいかなかった。そうして「不合格」とわかったとき、私は私のやりたいことを母に伝えた。勉強には興味がなく、声優になりたいと。

 当然だけれど、母からの答えはNO。

 忘れられないのが、「進学校に進学したんだから、大学に行って欲しい」と母から伝えられたこと。姉弟から「行けるだけの頭があるんだから、大学に行くべき」だと言われたこと。

 勉強ができたら、大学に行かないといけないものなのか?と不満はあったけれど、「もしも」を考えれば行くべきなのだろうという思いもあったのは事実で。浪人して、再度、大学受験をすることになった。


 大学2年のとき、養成所に通い始めた。1箇所目では、上のクラスに進むことができなかった。2箇所目の養成所の2年目、講師の方針で演技論に関する本を読むようになった。それは、苦しくて、楽しくて、ますます私はお芝居にのめりこんだ。お芝居の魅力に取り憑かれた。上手くできないことも、役作りで苦しくて泣いたことも、台詞の一言が、一つの動作が、役として生きられた瞬間が生まれてしまえば、それらはすべて満たされてしまう。この一瞬を忘れることが私は未だにできない。

 就職活動という現実が見え始めたとき、私は現実を見ることから逃げた。この頃、精神的なところから体調を崩して、大学は休学した。

 復学してからも、ずっと自分の人生を見つめることから逃げ続けた。だって、怖かった。

 私は、お芝居をしていない自分の人生を考えたことがなかった。


 数年間、膝を抱えてうずくまって、薄々、このままではダメだと思いながらも目を逸らし続けた。そんな自分は嫌いだと思った。でも、頑張り方がわからなかった。頑張るのが怖かった。


 2020年。私は友達がやってて楽しそうだと思って自分もPodcastを始めた。そして、Vtuberを推し始めた。彼を好きになって、色んなことをやり始めた。

 色々始めて少し経った頃、気が付いた。

 好きなことのために、「頑張る」ことができている。じゃあ、もっと頑張れるはずだーーと。

 この数年間、家族は時々何かを言ってきたりはしたけれど、基本的には優しく、静かに私を見守ってくれていた。その頃の私は、ようやく、その有り難さをひしひしと感じていた。何年間もうずくまっていたことは、恥ずかしい。この先、私の人生がどうなるのかはわからない。でも、自分のためによりもまずは、見守ってくれた親のために大学をきちんと卒業したいなと思うようになった。

 頑張りたいなと思う気持ちと、無理なんじゃないかという不安と。その最中、何度も何度も推しの「頑張れ」を心の支えにした。そして、なんとか卒業論文を形にすることができた。

 そして、長い長い時間をかけてしまったけれど、大学は無事に卒業できることになった。

 一先ず、そのことには安堵している。


 正直言って、この先の人生を私はまだちゃんと見つめることができていない。ずっとずっと、お芝居の魅力に取り憑かれているんだろう。

 でも、現実を見ることを前よりは怖くなく思えている。いや、やっぱりちょっとは怖いんだと思う。どうなるんだろう。何ができるんだろう。「ふつうの人生」にはもう戻れないほど、レールから外れてしまっている。それでも、現実を生きていくしかない。それなら、私は自分でレールをひくんだ。がんばれ、わたし。

 怖いけれど、大丈夫。前を向くことは怖くなくなった。

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