白く短い毛の生えた客人

先日、日も落ちて午後の七時を過ぎる頃、我が家に突然の来客があった。

私の父が台所の勝手口から表へ出ると、なにやらその客人はえらく弱っており私の車の下などに潜り込んでミャオミャオとやっているらしい。父はその白く短い毛の生えた客人の姿を見るや否や、夕食の残りの魚やら、牛乳やらの椀飯振舞い。鯛や平目の舞踊りである。家にはすでに七年も連れ添ってきた茶色い毛のやつと白黒の毛のやつがいるというのに「もう1匹飼おうか」などと口からこぼれ出る始末であった。

我が家はなぜだかそういった野良猫の来客が多く、私が思うにそこいらの野良猫界隈では「あそこの赤い屋根の家、飯はなんだか貧乏臭くはあるもののちょっと具合の悪い振りでもして頭でも撫でさせてやりゃあ簡単なものだぜ、ミャオミャオ。」などと噂になっているに違いない。とはいえ人の世も同じようなもので、腰やら背中やらに不調があれば噂を頼りにしてか私の勤めている病院へやってくるのである。

私が働いている部署は整形外科病棟と呼ばれている。入院してくる客人のほとんどが、ふとした拍子に「何だか腰やら背中やらがおかしい様子だぞ。」と違和感を感じたのも束の間、「ちょっとスーパーに買い物に行くのにも億劫だぞ。」といった具合で病院を訪れる。これを読んで心当たりのある方は早めに外来へ受診することをお勧めするが、そのようにしてレントゲンやらCTやらの検査をした時には背骨が潰れていたり、神経が圧迫されていたりで「これは手術をしたほうが良さそうですね」と診断される訳だ。
 

しかしながら入院とはなかなか大変なことである。入院前の書類や持ち物の準備はもちろん、職場や家庭で果すべき役割もあるだろう。更には入院してからもよく分からない横文字が並ぶ同意書に記名をさせられ、毎日のように行われる検査にリハビリ、同じ部屋になった奥様方との女子会にと大忙しなのである。また、歩いて入院してきたはずが「ベッド上安静」を言い渡されれば、その日からベッドの上だけの生活が始まる。慣れない環境で、目の前のちり紙1枚にも手が届かない窮屈さは相当なものであろう。そこで、よく入院生活で気をつけるべきことを尋ねられるが、そんな時に小さなことでも頼めるよう、日頃からご家族円満で過ごしていただきたい。
 

もちろん出来ることなら入院、手術などということは御免被りたい事柄であり、そのためにも適度な運動と正しい食生活が重要である。噂を頼りにやってくる白く短い毛の客人をもてなすことも、父の心身の健康に一役買っているのかもしれない。

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