見出し画像

ストロボとLED徒然

 今回も無料noteです。つい先日お会いした方が照明機材をそろえるために知人にアドバイスをもらったところLEDのライトを勧められて購入したという話をされていました。ただストロボとLEDの違いをあまり理解されていなかったので、今日は僕なりのストロボとLEDのライトの違いや使い分けについて話してみます。かなり基本的なことから書いてみたいと思います。


◇違いは何か

 ストロボとLEDの違いは単純にいうと瞬間光か定常光かの違いです。
瞬間光というのはいわゆる一瞬だけピカッと光るみんながフラッシュと認識しているあれです。定常光は家の照明などのようにずっと光っている光です。

 最も基本的な違いはそれですが、では瞬間光と定常光どちらがいいのかという話になります。

◇ストロボが得意な場面

 僕たちプロのフォトグラファーはほとんどがストロボを使います。最近はLEDもいいものが増えて来てスチール撮影でLEDを使う場面も増えましたが、基本はストロボでの撮影と考えていいと思います。

 それにはいくつか理由があります。

□ブラックボックス

 ブラックボックスとはストロボを光らせないでシャッターを切ったときに撮れた写真が真っ暗な状態のものです。つまりストロボを光らせて撮影したときに画面に写っているものが全てストロボの光によって照らされた状態で撮影できる環境。それがブラックボックスです。それを作りやすいのがストロボです。

 例えばストロボを光らせずにカメラの設定を

ISO400
f4.0
SS 1/60

で人物撮影したとします。そこで撮れた写真にうっすら茶色くモデルや背景が写っていたらそれはブラックボックスが出来ていないことになります。

 ストロボの光がブラックボックスを作りやすいのはその圧倒的な光量です。短い時間の露光で多くの光を取り入れることができるため、環境光の影響をカメラのセンサーが受ける前にストロボの光だけで像を写すことが出来ます。

□色温度

 ちなみにさっきの設定でとったうっすら茶色い写真。この写真はストロボを使って撮れば明るく写るかもしれませんが、撮れた写真はストロボの光とその場の環境光(部屋の電気など)の両方の光によって写された写真になります。いわゆるミックス光と言います。(色んな光がミックスしている)

 ではミックス光の何がよくないのか。一つは色が濁ります。光にはそれぞれ色があります。太陽の光も朝は青かったり夕方はオレンジが強かったりしますよね。ストロボの光は基本的には日中の太陽の光の色に近い状態に設定されています。色温度という単位で表されるのですが大体5300K(ケルビン)から5800K(ケルビン)くらいです。ところが環境光の色温度はバラバラです。ルームランプはオレンジだったり蛍光灯は青っぽかったりします。違う色温度の光が混じると当然色が濁ります。

引用:大作商事

□演色性

 もう一つは演色性です。演色性とは簡単にいうとどれくらいそのもの本来の色を表現できるかということです。白いものは白く、赤いものが赤く見える状態。例えば夜の道を車で走っていてトンネルに入ったとき、トンネルのハロゲンランプの灯りでものを見ると何色か全くわからなかったりしますよね。あれはライトの演色性が低いためです。

 ↑ご指摘を頂きまして、トンネルのライトはハロゲンではなくナトリウム灯でした。ナトリウム灯は元々オレンジの光なので色が見えないのは演色性とは関係なく色が見えないそうです。勉強不足でした。失礼しました!

 ちなみに調べたところオレンジ色の光がトンネルで使われているのは排気ガスが充満していても見やすいのがオレンジ色だそうです。

 演色性の低いライトで人物を撮ると肌色が悪く見えたりします。ストロボの光は撮影用の光なので演色性は環境光よりもはるかに高く設定されています。それが演色性の低い環境光と混じるとせっかく綺麗に表現できる色もくすんでしまいます。

 演色性はCRIやTLCIといった単位で評価されます。100を自然界の光で表現できる色だとして95以上あれば一般的に高い演色性があると言われています。ライトを購入する際、とくにLEDライトを購入する際にはこの数字を気にされると良いと思います。CRIとTLCIの違いについては話すと長くなるので調べてみてください。簡単にいうと人間の目に特化した数値か映像に特化した数値かの違いです。こちらのサイトで詳しく解説されています。

□閃光速度

 ストロボを使う最も大きな理由と言っていいでしょう。それは閃光速度の速さです。閃光速度とはストロボが光っている時間のことです。

 シャッタースピードは速くすれば1/30,000とかまで設定できますが、そのシャッタースピードで光が少ない室内で写真を撮ることはほぼ不可能です。屋外でも相当明るい場所でないとISOを上げないと撮影することは難しいでしょう。シャッタースピードは被写体の動きを止めて写したいときに早くしますが、ストロボを使えばシャッタースピードが遅くても被写体を止めることが出来ます。

 閃光速度が速いストロボ、例えばProforoのPro11などは最高閃光速度が1/80,000です。つまり1/80,000のスピードでものを止められるということです。先ほど説明したブラックボックスが作られた環境ではストロボが光っている時間の像だけがセンサーに記録されます。つまり1/80,000の間光ったストロボの光で照らされたものだけが写真に写るのです。

 シャッタースピードが1/60でも1/125でもブラックボックスさえ作られた状態であればシャッターが開いている間に通ったストロボの光が像を写すのでストロボの光が同じ光量であれば同じ明るさの写真が撮れます。ちょっと難しいですかね。

 閃光速度1/80,000となれば現存するどのカメラのシャッタースピードよりもはるかに速いです。(調べたところ1/180,000のカメラが富士フィルムから出ていました)当然手振れも被写体ブレもなくなります。

 余談ですが、うちの4歳の娘のコンパクトカメラはストロボ強制発光に設定してあります。カメラをしっかりホールドできない子供でもストロボを発光すれば手振れしない写真が撮れます。

◇ストロボが苦手な場面


 では逆にストロボが苦手なことは何でしょう。

□時間の流れを写す

 それは時間の流れを写真に写すことです。例えば綺麗な川の風景写真を撮るときにシャッタースピードを遅くすると川の水は線のように滑らかに写ります。同じように室内で踊っている人の動きを写そうとするとストロボは光っている間の絵しか写さないので人物は止まってしまいます。

 光が照らしたものをセンサーに焼き付けるというカメラの特性上瞬間光で時間の流れを写すことは基本的に出来ません。基本的にと書いたのはマルチ発光などをして時間の経過を写すことは出来るからです。詳しい話は長くなるのでまた別の機会に。

□光の状態を確認する

 もう一つストロボの弱いところは瞬間光なので写真に撮ってみないと光がどのように当たっているか確認しづらいところです。ストロボにもモデリングライトと呼ばれる定常光が付いていて大体の光のあたり方は確認できますが、光量が弱いのでアクセサリーを付けたりすると分かりづらかったりします。慣れてくれば光のあたり方は分かるようになるのですが、照明を始めたての方には難しいところもあります。

◇LEDのメリット

 ではLEDのメリットは何でしょう。簡単にいうとストロボのデメリットの逆です。

□時間の流れを写せる

 瞬間しか写すことのできないストロボと比べてLEDはずっと光っているのでシャッターが開いている間の絵を全て写します。3秒シャッターが開いていてLEDが当たっていたら3秒間の被写体の動きがそのまま残像になって写ります。いわゆるブレた写真です。被写体の顔は鮮明に見えませんが動いた軌跡は写るでしょう。

□光の状態を確認しやすい

 光がずっと光っているので当然光もそのまま見えます。ミラーレスカメラであればモニターの設定を環境光の反映ONにしておけばそのままモニターを覗いている絵が写ります。照明に不慣れな初心者やアマチュアの方は使いやすいライトだと思います。

□ムービーとスチール両方に対応できる

 一つの現場でムービーもスチールも両方撮らなくてはならない場合、LEDはどちらの撮影にも対応できます。瞬間光は写真は撮れますがムービーは撮れません。ライトをそれぞれに組む手間やスペースを省略することが出来ます。時間の流れを写すことのできるLEDの大きなメリットです。

◇LEDのデメリット

 次にLEDのデメリットです。これもストロボのメリットのほぼ逆です。

□光量

 LEDはストロボの光に比べて光量が相対的に弱いです。ライトの光量の強さはワット(w)で表されますが、同じ400wのライトでもストロボとLEDでは明るさが全然違います。

 光量が弱いということはブラックボックスが作りづらいということです。部屋の電気を全て消してLEDだけで照明すればブラックボックスは作れますが、すべての撮影現場で環境光を切ることが出来るわけではありません。必然的にミックス光の撮影をしなくてはならない場面が増えます。

□演色性

 最近のLEDは演色性が高いものが増えましたが、それでもストロボに比べると演色性は低くなります。それでもLEDを買うのであれば演色性の高いものを選ぶことはとても大事です。

□ブレやすい

 思った以上に僕たちは写真を撮るときに手振れしています。普段ストロボで撮影している人がたまにLEDで撮影したあと、写真をあとでチェックしてみると思った以上にブレています。(僕だけ…?)ですのでストロボの感覚でシャッタースピードを設定するとLEDでは危険です。

 ストロボの閃光速度の恩恵にあずかって手振れしていないことは多いと思います。余談ですが、大昔、某社のストロボから今使っているProfotoのストロボに変えた際、写真の手振れが一気になくなったことを覚えています。同じストロボでも閃光速度が10倍くらい違いました。それくらい閃光速度の速さというのは気が付かないところで僕たちを助けてくれています。

□指向性が強い

 これはデメリットではなく特徴ですが、LEDは一般的に指向性が強いと言われています。指向性が強いとは光が直進する性質ということです。いわゆる硬い光になりがちで、柔らかい光を使いたければそれなりの工夫が必要になります。逆に影にシャープなエッジを出したいときなどにはよかったりします。

光の硬さ柔らかさの話は以前書いたこちらのnoteをご参照ください。

◇まとめ

 長くなりましたが、僕なりにストロボとLEDの違いをまとめてみました。僕はどちらのライトも所有していてどちらかを使うこともあれば、両方を組み合わせて使うこともあります。組み合わせて使うとそれぞれのライトの強みを組み合わせた写真を撮ることが出来ます。

 その詳しい撮り方などは僕のライティングノートで過去に解説していたりするので興味がある方は見てみてください。最後宣伝 笑

 ではまた!

 




ここから先は

1字
このマガジンを購読すると月に2回、私が実際に撮影で行ったライティングを図を交えてのご紹介や写真に関するトピックが届きます。使用機材やその機材を選んだ理由なども合わせて公開します。 ライトを使って撮影される方やポートレートの撮影が趣味の方、お仕事で撮影している方などのお役に立てるマガジンです。

俳優、女優、ミュージシャンなど多くの人物撮影をしてきたカメラマンのライティング設計図です。 単にライティングや機材の紹介だけではなく、「な…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?