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その辺にありそうなフィクション11「クリスマス目前の金曜日」

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待ち合わせ時間を五分ほど過ぎたけれどまだ連絡はない。
どうしたのかな?と気になりはしたけれど、「仕事終わったら連絡入れるね」と昨日言ってたので要はまだ仕事が終わっていないのだろうと解釈し、もう少し待つことにする。
ふと、もしかして有耶無耶にして約束をなかったことにしたいのかも?という推測が頭をよぎったけれど、さすがにそれは考えが卑屈すぎると思いその推測を自らで否定した。

少しでもこの待ち時間を短く感じたいと思い、イヤホンから耳へとお気に入りのポップスを流し込む。
今の時代、魂を削ってつくった音楽もスマホ画面を数タップすれば気軽に享受できる。
このことについて、良いのか悪いのかはよくわからないけれど、待ち時間をネガティブな時間にならないように助けてくれるこの手軽な現代テクノロジーには感謝の気持ちを覚えた。
と、そんな思考を巡らせつつ流れる曲をBGMに、なんとなく目の前を眺める。
視界には待ち合わせ相手と合流しどこかへ歩き出すカップル、最初から二人で駅から出てくるカップル、どこからともなく現れてはこちらの視界を通り過ぎていくカップル。
気づけばカップルばかりが目についた。
それはそうだ。今日はクリスマス目前の金曜日の夜。場所も六本木ともあれば、この光景は当たり前のものだった。

しばらくの間いろいろなカップルを眺めていると一通のメッセージを受信した。
メッセージの内容はやっぱり想像してた通りで、途端にどうしようもなく悲しくなった。けれど、仕事ならしょうがないよね、と精一杯で物わかりのいい自分を演じた。

——とりあえずすごくお腹もすいているしラーメンでも食べて帰ろうかな。

当初よりも圧倒的に安上がりな夜ご飯。急に持て余した時間を何に使おうかと考えながら、当初とは違う目的地に向かって歩き出すことにした。

ー完ー

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