その辺にありそうなフィクション10「友達だった人に教えてもらった」
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カウンターでひとり一杯やっていると、聞き耳を立てずとも聞こえてきた背後でなされている話がどうも気になりだした。なので少し申し訳ないなと思いつつ、今度は意識的に話の続きを聞いてみる。
「ほんと何様なんだって感じだよね。私はあなたの専任で仕事してるわけじゃないんだよって感じ。下手に出てたらさ、女だからって舐めないでって感じだよほんとに。あのー、すみませんレモンサワーひとつお願いしますー」
後ろの女性はさっきからアルコールを燃料に結構な勢いで愚痴り続けている。
ここまでの話の内容からどうやら社会人ニ年目の子だということはわかっている。
なので私よりも二歳くらい歳下だろうと推測し、声と話の内容からイメージできる容姿を勝手に想像してみる。
どうやら名前はユウキというみたいだ。
ユウキがとめどなく話す愚痴に対し、飲み相手の男性が小気味よく共感の相槌を打つ。
男性の名前はカオルというらしい。
名前と優しい声の雰囲気から勝手に爽やかな容姿を想像する。
「まぁね、わかるよ。自分の不安を解消したいために絶対今すぐ対応しなくても問題ないことなのに、電話して急かしてきたりする人とかいるしね」
「いや、ほんとそれ。なんなんだろうねほんとに」
先ほどからこの調子でユウキとカオルは確かな関係性のうえで成り立つ空気感の中、相性よく会話を続けている。ただ、その雰囲気的には彼氏彼女ではないように感じた。どんな関係だろう?二人ともタメ口なので会社の同期か、はたまた学生時代の友達か。
——なんか羨ましいな。
二人の様子にふとそんなことを思う。
私にも昔は二人と似たような関係を築けた人がいたことを思い出す。
けれど今は連絡先も消してしまった。
気軽に会っては、お互いの近況報告やら愚痴やらを話し合う仲だったのに、今はどこで何をしてるかも知らない。
やっぱり男女って難しい。
なんてユウキとカオルの会話を聞いていたら、意図せず感傷的な気分になってしまった。
——後ろの二人はずっと仲良くいてほしいな。
そんなことを思いつつ、もう会うこともないであろう昔友達だった人に飲み方を教えてもらったホッピーをマドラーでかき回してみた。
ー完ー
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