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ETH Architecture HS2019の授業の振り返り

自己紹介

こんにちは。東京大学工学部建築学科3年の赤木拓真です。
2019年9月から1年間、全学交換留学という制度を使ってETH ZurichのDepartment of Architectureで学んでいます。
友人がやっているので、というありふれた動機ではありますが、今後留学する人の参考にもなるかと思い、記録を兼ねてブログを始めてみました。

初回の投稿では、今学期(HS2019)にETHで受けた授業の振り返りをしようと思います。
結論から言えば、全く別の学科に入ったと思うレベルでこれまでとは違うことをしています。


ACTION! On the Real City: Mapping Narratives

- 概要
新しい映像表現をしてみよう!というテーマの授業です。
手順は少し複雑で、

- チューリッヒの一区画を観察して動画を撮る
- 動画をUnreal Engineに取り込み、街区の3Dオープンデータと統合する
(Unreal Engineとは、3Dモデリングできるゲームエンジンのこと)
- 3Dモデリング上で仮想の一人称視点を置いて、その街を探索する
- 探索する様子を動画に撮影して、映像作品として提出する

というものです。動画を最終上映会で発表して、完了です。

- 授業HP
https://klumpner.arch.ethz.ch/#elective

- 受講理由
ETHに留学するきっかけの一つが、都市空間の分析と可視化を学びたいと考えたことでした。そのテーマに合致すると考えて受講しました。

- 成果物

最終発表では2分半の動画を作りました。その一部です。

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- 感想
結論から言えば、ツールを使いこなすのに精いっぱいだったという感じです。Unreal EngineやAdobe Premiereは初めての経験でエラーの連続だったので、慣れるのに時間がかかりました。周りの学生を見ていても苦戦しているようで、後半の授業はトラブルシューティングに費やされていました。
一方で、「どう観察するのか」「どう表現するのか」については、これまでにない視点が多く得られました。その上で、どうオリジナリティを出して動画に落とし込むかに時間がかかりました。ストップモーションによるコラージュや、アニメーションの追加など、やってみたいこと全てが未知だったため、調べながら進めました。

最終上映会で、VRゴーグルを使って3D空間を体験できるようにする企画があったのですが、そこで自分の作品を選んでもらえたのが嬉しかったです。一方で、教授からは、3Dモデリングの「リアリティのなさ」を現実世界にどう近づけるかが課題だと言われました。もう少しツールと友達になって、表現の幅を広げたいです。


CAAD Practice - Map & Models - Articulate City Perceptions

- 概要

都市の画像データを編集して自分だけの「地図」を作ろう!という授業です。具体的には、

- SNSから大量の画像をダウンロードする
- 自己組織化マップ(SOM)を使って二次元上に分類する
(ここでは、属性をもとに分類しているのではなく、色や形が近い画像同士を近くに並べている)
- 分類した画像群から気になるものを探す
- 気になった画像たちの属性を抽出し、分析する

というものです。分析の内容をレポートにまとめて、完了です。

- 授業HP
https://www.caad.arch.ethz.ch/teaching

- 受講理由
都市のビッグデータ解析は以前から興味があり、SNSの画像を使うというのが身近に感じられたのもあり、受講しました。東大建築からETHに留学している先輩方と一堂に会する唯一の機会でもありました。

- 成果物

レポートの一部です。左の写真はSOMで世界のIKEAの写真を分類したもの。右はその写真に使われている単語を抽出したものです。

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- 感想
機械学習を応用することで、都市をどう理解できるかを考える実験的な授業でした。(機械学習の理論自体は別に、CAAD Theory - Introduction to Machine Intelligenceという授業があります)

前半は機械学習が建築分野で使われた事例を取り上げていて、興味深かったです。一方で、いくつかの取り組みは実践的というよりむしろ「研究のための研究」になっているようにと感じる場面もありました。

後半では実践編として、上記の分析をしました。Mathematicaを使うのは初めてだったのですが、TAさんが丁寧なコメント付きでコードをくれたので、苦も無く分析データを出すところまではできました。
その一方で、漠然とした不安を覚えました。これは、単なる作業に過ぎず、誰でもできることじゃないか、と感じたのです。今回利用した機械学習の手法では、分類の「思考過程」は明かされません。結果を自分で導かないことの奇妙さを身をもって感じました。でも、分類の結果はモデルでしかありません。モデルに解釈を加え、自分の「地図」にする作業は、人間の知性が行うものだと授業では強調されていました。


Model and Design HS19

- 概要
様々なタイプの模型を作ることを通して、作ることを考える授業です。

今回のセメスターでは、青写真・シリコン・石膏模型など、毎週異なる手法を使って模型を作りました。最終的には、一人一人がタワーの模型を考え、それを作るための石膏の型を作り、そこから模型を複製していくという「作る」の一歩先に踏み込む内容でした。また、所々で「美しいとはなにか」を考える議論があるなど、工作教室からは一線を画す内容でした。

- 授業HP
https://raplab.arch.ethz.ch/lwahlfach.php

- 受講理由
東大の設計課題ではスチレンボードを使った、ごく基本的な模型製作しかしてきませんでした。でも、先輩の卒業制作の手伝いをして、模型製作がもっと多様な材料や手法でできることを知り、もっと知りたいと思い受講しました。

- 成果物

左は石膏模型の型を作る様子。右はシリコンで作ったタワーに着色したもの。

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- 感想
時間と手間はかかりましたが、とてもいい経験になりました。新しい手法を学んだのはもちろん、模型と設計の関係性を考える契機になりました。

「この授業で扱う材料は簡単に作れるから、きっとみんなのスタジオ課題でも役立つよ...君のを除いてね」と教授に言われるほど自分の考えていた形と模型材料との相性が悪かったため、一苦労でした。「作りやすい形にしておけば良かった」と思う一方で、「模型はただのコミュニケーションツールでしかないのに、それを設計の制約にしていいのか」と考える自分もいました。しかし、「模型で立たないものは実際に立つわけがない」のもまた事実なので、どう作るかをもっと意識しつつ設計するようにしなければと自分を戒めています。


Architectural Design V-IX: Schaerbeek (Trans)Formation – Newrope Brussels (F.Persyn)


- 概要
ブリュッセルの鉄道跡地の再開発をテーマしたスタジオ課題です。

正直、自分のスタジオなのにうまく説明ができません。
簡単に言えば、「もうすぐ広い空き地ができるんだけど、どう使ったらいいか関係者を交えて対話・議論するから、そのために展示作品を作って」というお題に対して1~4人がチームとなって提案をしていくものになります。

- 授業HP
https://persyn.arch.ethz.ch/

- 受講理由
ETHには20以上のスタジオがあり、学部3年以上は自分で選ぶことができます。当然スタジオは人気不人気があるため、応募が定員を超えると抽選になります。ただし、学年によって3段階の優先順位が振り分けられるため、優先順位が高いと人気スタジオに入りやすく、優先順位が低いと入りにくくなるわけです。交換留学生は最低順位なので、気を付けなければなりません。

留学の際に建築から都市へどう広がるかを考えたいと思っていたため、スケールの大きめなテーマのスタジオを取りたいと思い、先述の優先順位とも相談して選びました。純粋な興味の順番では3,4番手でした。

- 成果物

最終発表の展示です。左は地図・歴史からwaterscapeと土地の関係性をあらわしたもので、右は市全体の河川の変化をアニメーションにして、砂場に投影したものです。

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- 感想
とても刺激になった一方で、もやもやした気持ちが残るのもあります。

まず良かったところ。スタジオが遊園地でした。一般にスタジオといえば机と椅子が並ぶだけという感じなのですが、このスタジオでは作業空間に加えてオープンスペースがあり、そこでは巨大なカーテンや特殊な照明でパーティをしたり、キッチンで交代制で昼食を作ったり(これが一番ありがたかった)、本格的なエスプレッソマシンでコーヒーブレイクをしたりしました。途中からは学生のアイディアで巨大な砂場を作ったり、ブランコを作ったりとやりたい放題でした。教授になって初めてのスタジオということもあり、スタジオの環境づくりに気合が入っていました。
また、アプローチ自体もこれまでに経験のないもので、形を作るのではなく、どう人を動かすかを主軸に置くものでした。そして他の学生も見たことのない提案をしてくるので、議論していて面白かったです。

一方で、スタジオ自体の方向性が見えにくく苦労しました。TAさん自身が「実験的なスタジオだ」と言っていたように、内容自体が流動的でした。そのため、昨日説明していたことが今日はまるで違っている、ということがしばしばあり、これは多くの学生も不満に思っているようでした。また、個人的には、形を作れなかったことが少し残念でした。東大での設計課題では、まずざっくりとでも形を出すところから始めました。それとは反対に、スタジオでは地域を明らかにすることに時間をかけるよう言われ、アイディアを具体的な形(図面やパースなど)に落としこみませんでした。アイディアが面白い、と思っても「ほんとに実現できるのかな?」と自問自答してしまう自分がいたのが正直なところです。でも、ペアと議論していい緊張感の中で課題を進めていった経験は、間違いなく今後役立つと思います。


全体を振り返って

一見すると建築や都市と関わりなさそうなことが、それらの深い理解につながるという発見があり、普段の生活でも探してみたいなと思いました。

反省点としては、
- 自分の知識のネットワークを課題にうまく結びつけられませんでした。東大での設計課題は、既存の知識や経験を新しいことに結び付けて考えるようにしていたのですが、今回の授業や課題はこれまでと大きく違っていたために受け身になってしまい、自分の中のデータベースとの関連性を見つけることができなかったように思います。新しい世界を知ったので、ここでとどめず、もっと知って考えるようにします。
- 演習の授業しか取りませんでした。手を動かして考えたい、という思いもあり、座学の授業をほとんど受けませんでした。期末試験がないのは気楽でいいですが、次のセメスターではインプット重視で丁寧な学びをしたいと思います。

残り半年あるので、楽しく学べるよう、精進していきたいと思います。

と真面目なことを書きましたが、結構遊んでいます。隔週ペースで旅行に出かけてるので、その辺もまた書けたらいいかなと思っています。ではでは。


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