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対人援助に一律の正解はない

正しさにこだわり過ぎるとやりにくくなってしまうのが、対人援助だと思います。

対人援助に正解はありません。
ある人にとっては正しいことでも、それが別の人にとっても正しいこととは限らないからです。
ですが、わたしたちはものごとに正しい「解」が用意されていると考えてしまう傾向があります。
そして、その解をすべての援助相手に当てはめてしまいがちです。

たとえば、心不全があって医師から塩分を制限するように言われている90歳のJさんに対し、病状が悪化しないようにしっかり塩分制限をすることは、一般的に正しいことです。
医師から「一日の塩分量を6gにしなさい」と言われたら、援助者はその指示にしたがって6gの塩分制限をします。
この対応は、「正解」です。

では、Jさんからもし「死んでもいいから塩辛が食べたい」と言われたら、あなたはどうしますか?
入所施設の生活相談員として働いていたときに、ある入居者から実際にこう言われることがありました。
当時働いていた入所施設では、専属のケアマネジャーが中心となって入居者の支援計画を立てます。
そして、その計画に基づいて介護職などの専門職が援助を行っていました。
施設入居者の支援計画を決める会議のときに、わたしはJさんの気持ちを伝えてみました。
しかし、Jさんの気持ちは支援計画に盛り込まれませんでした。
ケアマネジャーや他職員の意見によって、Jさんの塩分制限は継続されることになったのです。
結局Jさんは塩辛を食べることなく最後を迎えてしまいました。

「この対応で本当によかったのか?」
ときどきJさんのことを思い返します。
医師の指示通りに食事制限することは正しいことです。
ですが、誰に対しても医師の指示通りに食事制限をすることが正しいわけではありません。
無制限に塩辛を食べてもらうのはよくありせんが、一律に禁止してしまうのもよくないことだと思います。
たとえば、「週に1回は塩辛を食べていい日を作る」といったように、もっとわたしたち援助者にできることがあったはずです。

一律に塩辛を禁止することが「白」で、制限なく食べてもらうことが「黒」だとしたら、白でも黒でもない「グレー」な妥協点を探っていくことが対人援助者として大事なことなんだと思います。
「制限しなければならない」いう正しさにとらわれなければ、いろいろな援助方法が浮かんでくるはずです。

唯一の正解なんてありません。
金太郎飴のように誰にでも同じ対応を行うのではなく、その人に適した解を導いていくことが対人援助の難しさであり、また面白さでもあると思います。

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