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説得よりも納得

相手に納得してもらいたいとき、わたしはつい相手を「説得」しようとしてしまいます。
説得、つまり論理で相手を説き伏せるという意味です。
ですが、いくら筋が通っていたとしても、論理による説得ではなかなか応じてもらえません。
むしろ理詰めではなく相手の感情に訴えかけたほうが、意外とうまく納得してもらえるものです。

以前、こんな経験をしたことがあります。
10年以上前、わたしがデイサービスの生活相談員として働き始めたばかりの頃です。
デイサービスを利用しているKさん。
ある日の夕方、そのKさんのご家族から怒り口調で電話がかかってきました。
電話の内容はこうです。

「うちのおばあちゃんがさっきデイサービスから帰ってきて、おなかが痛いと言ってる!デイサービスのお昼にお粥を出してほしいとお願いしてるのに、ちゃんと作ってないんじゃないですか!!」

突然の電話に驚いたわたし。
いったん電話を切りすぐに確認すると、デイサービスではちゃんとお粥を出していたため、こちらに非がないことがわかりました。

この事実をはやく説明して誤解を解きたいと思ったわたしは、すぐにKさんのご家族へ連絡し、お昼ごはんにちゃんとお粥を出していたことを説明しました。

ところが、Kさんのご家族の怒りは収まりません。
それどころか、かえってKさんのご家族を怒らせる結果となってしまいました。

「正しいこと言ってるのに、なんで怒られなきゃいけないんだろう?」
なぜKさんのご家族を怒らせてしまったのかがわからず、落ち込んでいたわたし。
それを見かねた上司が、わたしに声をかけてくれました。
そのときに教えてもらったのが、「説得より納得を」という言葉です。

人は感情の生き物。論理よりも感情で人は動きます。
ですから、相手に納得してもらうためには理屈で説明するのではなく、相手の感情に寄り添って話をする必要がある、ということを教えてもらいました。

Kさんのご家族は、きっとKさんが腹痛でつらそうにしていることを、わたしにもわかってほしかったのだと思います。
ですが、わたしはKさんのご家族の気持ちに共感を示すことなく、こちらの言い分だけを伝えていました。
相手の気持ちを無視したわたしの言葉が、Kさんのご家族に届くはずありませんよね。

このように、論理的に正しくても相手の気持ちに届かなければ、いくら筋の通った説得でも相手に納得してもらえません。
もちろん理屈は大切ですが、相手に納得してもらうためには、相手の感情に届く言葉をつかったコミュニケーションを意識したいものですね。

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