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全部夢でなかった 交通事故重傷記 2

土曜の朝。

目を覚ますと病室のベットだった。『全部が夢であればいいのに』。そんな願いはやはりかなわなかった。

昨夜、帰宅時に着用していたワイシャツとズボンを身に付けていて、所々に血がついている。顔の左半分がガーゼで覆われ、感覚がない。鏡の前に立つと唇が腫れ、別人だった。

「顔、元通りになるのかしら」

医師の言葉は大げさではなかった。そういえば、スマホの顔認証機能が私を私と認識しなくなっている。

食事に栄養ドリンクを出されたが唇を閉じられず、ストローをくわえられない。吸い込めない。たった3錠の薬もうまく飲み込むことができない。何度もむせ、よだれが垂れる。情けない。

夕方に医師が病室に来てCT の画像を示しながら説明を始めた。

上顎の下半分が折れるルフォー1型骨折と左眼窩外側壁骨折、左頬骨弓骨折。それに口唇挫滅創。

幸い、脳に損傷はないこと。ただ、皮膚がなければ顎が下に落ちてしまう状態であること。根治には別の病院に移り、顔面の皮膚を剥がして骨を固定する手術を受ける必要があることを告げられた。

手術も含めて退院までは早くても1カ月という。月曜に転院し、火曜に手術。水曜は大事をとって、早ければ木曜にも職場復帰できるかもしれないという目算はあまりにお粗末だった。

浅はかな行動を悔やんでも何も変わらない。いったいどれだけのものを失い、これから失うことになるのだろうか。将来を考えたくもない。そんな時、妻からの言葉が救いとなった。

「謝らなくていい。せっかくだからゆっくり休んで」

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