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DSP版フォノイコライザ (1)

(昔のブログの再録)

その2だかその3だかは忘れたけれど、とにかくアナログとデジタルのいいとこどりで、結果「気持ちよく」なればいいよね、というお話。

さる理由があって手元に自分が30-40年前に買ったアナログレコード盤が10枚余、父が大昔から買ってたものが30枚強。アナログプレーヤーもとっくの昔に処分してしまい、かといって少年-青春時代に少ない小遣いをためて買ったものやCDでも大昔に絶版になったものをこのまま捨てるのにも忍びない。

じゃあレコードプレーヤー、買っちゃいましょう。

一時期に比べると再興してきているとはいえ、バリエーションはまだまだ少ない。特にUSBやらPHONOイコライザアンプ内蔵の入門機、スーパーハイエンドマニア向け超高級機の「間」を埋める中級機がない。それこそオーディオ全盛期、各社59,800円ゾーンを狙ってハイCPのモデルをこぞって出していたものだが、その辺のモデルがまるで見当たらない。値段は同じでもずいぶん当時の物より安っぽく見える。

じゃあ中古しかないでしょ、と中古で往年の名機、TRIO (というメーカー自体知らないだろうなあ)のKP-700を購入。中古にしては良いお値段だったが、当時の人気とそのつくりを考えるとしょうがないだろうなあ。

カートリッジは今時点の売れ線を選んでみた。Audio-Technica AT100E。ちょっと針圧が軽すぎるのが気になるが、ここはのちのちとっかえひっかえして楽しむ部分でもある。

さてアナログプレーヤーを再生するにはもう一つ現代にない要素が必要。それがPHONOイコライザアンプである。詳しく知りたい方はググってください。これなしには通常再生もままならないものである、普通は。

PHONOイコライザアンプとは、要はかなり高利得のアンプにちょっと特殊なカーブのフィルタまたは「トーンコントロール」を付加したものなわけだが、アナログ回路で組むとどうしても素子数が増える。それも信号線のど真ん中にたくさん(熱や振動で特性が変わる)抵抗や(どうやっても精度を出しにくい)コンデンサーを組み込まなければならない。高級オーディオはここに目いっぱい投資するわけですが、ほんとに高いコンデンサーは一個数千円したりする。そこはほら、そんなに手間もコストもかけたくないよ。だって特性じゃやはりハイレゾ音源+いまどきDAコンバータに敵わないもんね。

で、あまり誰もやってなさそうな方法を思いついて「組んでみた」

まず、プレーヤー出力はこのカートリッジの場合、3mV前後だ。つまりマイクよりちょっと大きい程度。なので、以前コンサート録音用に製作したADコンバーターのマイクアンプ部分を流用する。これは特性的に市販品あるいはそれ以上の性能を持つ。ただプロ用のマイク対応なので、バランス入力だ。ここではたと思い当たったのは、プレーヤーの(カートリッジの)出力はもともとバランス出力だということ。ただバランスのままだとケーブルもコネクタもめんどくさいので、市販のプレーヤーはかなりの高級機でもアンバランスに無理やり変換してRCAプラグにしているケースがほとんどだ。せっかくバランスで出てくるんだから、バランスのまま差動増幅すれば、伝送中に乗ってくる誘導ノイズは「ほぼゼロ」に減らすことができるはずだ。と考えて、プレーヤー本体のケーブルをホット―コールド―グランドの3線に付け替えて、出力はキャノンコネクターに交換した。これでいわゆるフローティングバランスドの状態で信号がマイクアンプに入力される。

マイクアンプからはだいたい100倍ぐらいに増幅されて信号が出力される。ここで、”イコライザ”を実現するために「DSP(デジタル信号処理プロセッサ)」を登場させる。といっても素のままのDSPではなく、アナログ入力 – DSP – アナログ出力がワンセットになった”miniDSP”というボードである。こいつはこのプロセッサにいろいろ自由にプログラムができるものなのだが、その自由度を生かしてイコライザという”フィルタ”をここで実現する。FIRフィルタのパラメータを入力するだけで、イコライザが実現できる。

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(miniDSPコントロールソフトウェアのスクリーンショット。biquadフィルタのパラメータを入力することでRIAA規格のイコライザが実現できている)

miniDSPから出力される信号は通常のオーディオ信号に「補正」されているので、それをパワーアンプやヘッドフォンアンプにつなげると、ご機嫌なサウンドが再生されるわけだ。

通常のアナログ―アナログな再生方法に比べて何がお得か、というと、そもそもバランス入力のイコライザアンプ(もしくはプリアンプのPHONO入力)はかなりハイエンドの製品しかなく、また自作するにしても非常にめんどくさい。回路もややこしく、素子数も増え、結果歪やノイズをうまく抑え込むことに苦労することになる(普通のフィルタでも注意深く設計しないとろくな特性・音質にならない)。また実はイコライザの規格にも複数あって、RIAAのほかにもいくつかあるのだが、それに替えるのもパラメータの数字を差し替えて(上の画面の”b0,b1,b2…”のところ)、”Process”ボタンを押すだけだ。アナログ素子だとこうはいかない。

最終的に得られる特性はこんな感じ。

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青が曲間無音時の「ノイズ」だが、十分抑え込まれていることがわかる。アナログ素子で自作するとなかなかこうはならない。ハムが乗ったり、特定周波数で歪んだりする。それにちょうどトランペットのソロ部分だが、倍音が実にきれいになめらかに乗っているのがわかるよね。

耳で聴いた感じではちょっとおとなしめに聴こえる「感じがする」(なにせこの前にレコードを聴いたのは軽く30年は前だw) ただ特に高域のひずみが激減したせいで静か・穏やかに聴こえているという可能性も大きい。またminiDSP内蔵のAD・DAコンバータが決して性能がいいわけではないし48KHzサンプリングなので、いずれはそれらをバイパスしてもっとハイスペックなAD/DAに置き換えるのもいいかもしれない。利点は、もしそうやって劇的に改善させたとしても、1-2万円そこそこの投資でできるところだ。

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アナログの資産を生かしつつ、デジタルでお安くお気軽にかつ高性能に解決することができた。ぱちぱちぱち(は拍手ではなくスクラッチノイズw)。

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(後編に続く)


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