柚子の冷かけうどんにふたこと、みこと

最寄駅に杵屋がある。
1週間の半分以上は夕飯の支度をする気が起きない自分にとって、仕事終わりに寄って食べれる場所が帰り道にあるのは有難い。

かつて関東に暮らしていた身として勝手に思うのは「関東の"はなまるうどん"。関西の"杵屋"」である。
関東にいた頃、私が暮らしていた地域では"杵屋"は見なかったし、関西に住み始めてからは"はなまるうどん"はとんと見かけなくなった。
実際のところはどうなのだろう。
関東にも"杵屋"はあっただろう。探せば関西にだって当たり前に"はなまるうどん"があるに違いない。
でも、近場の"はなまるうどん"を探したりはしない。
生活圏内にそっと居てくれるうどん屋というのが良いんだと、身勝手な感情を抱いているのだ。

さて、空腹時の"杵屋"のメニューは、さながら迷路だ。
冷たいのにしようか、温かいのにしようか。
定番の肉うどんもいいし、天ぷらも捨てがたい。
定食に追加料金で選べるカツ丼も美味しそうだけど、天ぷらうどんとカツ丼じゃ揚げ物が被るな。
とり天も美味しいんだよな。鳥つながりで唐揚げを頼むって手もあるな。
目移りしながらメニューを吟味していると、テーブルの傍で静かに佇んでいた"季節のメニュー"にも目が行く。
「夏の涼味 柚子の冷かけうどん定食 夏の天ぷら添え」
暦上では夏も終わろうという時期ではあるが体感的にはまだまだ残暑が厳しいなかで、ここまで夏を全面に出してこられたら、惹かれるのも当然なのかもしれない。
海老天、ナス天、ズッキーニ天ものっていて、ボリュームはバッチリ。
定食ではなく単品を注文し、ついでに心を掴んで離さなかった鳥の唐揚げも頼んでしまった。
料理が来るまで、冷たい蕎麦麦茶で空腹を誤魔化す。
蕎麦麦茶は、蕎麦屋やうどん屋でしか飲んだことがない。
蕎麦麦茶のモトを買えば、麦茶のように家でも楽しめるのだろうけれど、この妙に小さい湯呑みで飲むのが家では真似出来ない美味しさのひとつな気がする。

"柚子の冷かけうどん"はその名前のとおり、柚子が乗っていて、さっぱり涼しげな味だった。
柚子というと、私は冬のイメージが強いのだが、世間一般的には夏のイメージなのだろうか。
でも、冬至には柚子湯にはいるし、正月のお雑煮には柚子の皮の切れ端がはいっている。
柚子とは、オールマイティな存在なのか、似合う季節が分からずに右往左往している存在なのか。

天ぷらは、海老天、ナス天、ズッキーニ天のなかでは、海老天が一番好きだ。
熱されてとろっとしたナス天や、火が通ってもシャキッとした食感の残るズッキーニ天も勿論いい。
だが、最後に海老天の尻尾を食べている時の歯応えと、胸の中に芽生える「海老天が食べ終わってしまった」という虚しさの、二律背反の現象が好きだ。
なにかの著作で「海老は尻尾の肉が一番美味い」というのを知ってから「ここが一番美味しいのだ」と自己暗示をかけながら食べているから、余計に好きなのかもしれない。
そういえばアニメ"あたしンち"で、お母さんがエビフライの尻尾をバリバリと齧って食べた翌日から歯が痛くなり、虫歯かもしれないから歯医者に行かねばならないが行きたくない。けれど意を決して行ったら、実はエビの尾の欠片が刺さっていただけだった、という話があったな。

エビの尾は食いたし、されど刺さるのは怖し。
そこまでして食べるものかと聞かれると、困ってしまうけども。

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