ロケットとミサイルはほぼ同じものであるワケ
※この記事は2022年4月13日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。
前回まで、ロケットの打ち上がる原理や、その構造・設計、使用される燃料など基本的なのもについてざっくり解説してきたが、その中で何度か「ミサイルとの関係」について触れてきた。
タイトルにもある通りだが、ロケットとミサイルは、用途の違いで名前こそ違うが実態は「ほぼ同じ」だ。
宇宙開発を目的に使われるロケット。軍事に使われるミサイル。一見似て非なるこの両者がどうして同じだと言えるのか?
「それは、見た目も構造も見たまんまそっくりだから」と言ってしまえばそれまでだが、それではいまいちピンとこないので、今回はロケットとミサイルの共通点を「ロケットが生まれるまでの歴史」からざっくり紐解いていこう。
結論から言うと、ロケットとミサイルがほぼ同じだと言われる理由は、「そもそもロケットは兵器として作られた歴史があるから」だ。
「V2ロケット」という名前を聞いたことがあるだろうか?第一次世界大戦後、ドイツの開発チームによって作られたロケットだ。
これは名前こそ「ロケット」だが、その用途は完全に兵器だ。「V2ミサイル」と呼んでもいいだろう。
知っての通り、ドイツは第一次世界大戦で敗戦したことで、戦勝国から多額の賠償金を請求され、「ワイマール憲法」という人類史上初めて民主的な憲法を制定したが、それと並行して取決められたのが、大型兵器開発の禁止だ。これによってドイツは兵器を大っぴらに作ることができなくなる。
ところが、その逼迫した状況においてドイツ陸軍が目を付けたのが、当時ドイツで発足していた「ドイツ宇宙旅行協会」という組織。
これはロケット好きの民間人の任意団体によってが集まってできた組織で、ロケットを宇宙へ送ろうという純粋な探究心から研究が行われいた。
しかし当時のドイツ軍は、「ロケットの構造は長距離攻撃のための兵器として使える」 ということに気づき、彼らに研究費を提供する見返りとして、陸軍の研究員となるよう説得したのだ。
ではなぜそれに気づけたのか?
ロケットを、長い棒に火薬を装着して遠くまで飛ばす武器として考えるなら、ロケットの歴史は古く、10世紀頃の中国ですでに発明されている。
しかし、地球を脱出するための装置として考える場合には、ロケットの創始者としてロシアのコンスタンチン・ツィオルコフスキーを挙げる必要がある。彼は「宇宙旅行の父」と呼ばれた科学者で、ロケットに巨大な推進力を与えるために液体ロケットを考案していた。
そして液体ロケットを実際に作って飛ばしたのが、アメリカの発明家ロバート・ゴダードという人物である。
完成当初は、周囲からその価値や可能性を理解できず忘れられていたのだが、その有効性に早い段階で着目していたのが、実はナチス・ドイツなのだ。
運のいいことに、ドイツ国内では宇宙旅行協会がすでに発足されていて、ロケットに関心のある者たちが集まっていた。そこでドイツ陸軍は、名目上は宇宙旅行のための装置を作ると言いつつ、実際には先端に爆薬を仕込んだ兵器を開発していたのだ。こうすれば兵器開発禁止の条約に抵触することなく軍事力を高めることできる。これが今で言う「ミサイル」のことだ。
陸軍は、当時宇宙旅行協会の中心的な研究者であったヴェルナー・フォン・ ブラウンらに開発依頼をし、彼らがこれに応じたことで、ドイツは初の大型ロケットである「A4ロケット」の打ち上げに成功。これを車上から発射可能なように改良したことで「V2ロケット」は誕生したのだ。
弾頭に1tの爆薬を搭載できるV2ロケットは、欧州本土からブリトゥンの首都ロンドンを直接攻撃することができたため、当時のロンドン市民は相当に恐れたようだが、後に起こる第二次世界大戦でドイツはまた敗戦するので、ロケットの存在は戦争の大勢を覆すには至らなかった。
とはいえ、世界大戦の終結後ドイツの作り上げたV2ロケットの技術は世界中を驚かせることになり、戦勝国になったアメリカとソ連はV2ロケットの開発者や関連部品などのぶんどり合戦を行った。これが戦後両国の宇宙開発の礎になっていく。
そしてこのあたりから、宇宙開発の目的で作られるのは「ロケット」、兵器として作られるのは「ミサイル」 と区別するようになり、アリメカ、ソ連を中心に世界各国でロケットの開発競争が繰り広げられるようになったのだ。
まとめると、ロケットの開発の歴史は、元々はドイツの開発したV2ロケットが大きな影響を与えていて、その用途は今で言うミサイルと全く同じ。だからロケットとミサイルもほぼ同じものだと言える、ということだ。
当時は「ミサイル」 という名前がまだ生まれていなかったので若干ややこしくはあるが、V2ロケットと名付けられたそれは、今の目で見れば間違いなく「ミサイル」である。当時のドイツ陸軍はそれを兵器だと思われないようにするため、名目上、宇宙旅行のための「ロケット」と呼んでいたに過ぎなかった。
このあたりの事情が分かると、 ロケット開発のニュースが度々軍事と関連付けられて報道される理由もなんとなく分かるのでないかと思う。
特にこれから先は、宇宙開発の進歩が加速度的に速くなるので、僕らの生活に浸透してくる日もそう遠くないはずだ。その時にロケットの基礎が分かっているかいないかで情報の理解も大きく変わってくるので、こういう歴史はぜひ頭の片隅に入れておいてもらえればと思う。
参考文献:ロケットの科学 改訂版 創成期の仕組みから最新の民間技術まで、宇宙と人類の60年史 (サイエンス・アイ新書)
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