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通話を効率的に、安全に:ファン・チュン

※この記事は2022年3月12日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。


今日も数学史の解説していこう。
理論や定理がよく分からなくても、どんな経緯でそれらが発見、完成されていったのか、その歴史だけでも知ると、数学への理解はもちろん、他の科学とのつながりもよく理解できる。実際、数学史は、科学の発展と密接な関係にある。
その世界観を少しでも知ってもらうためにも、この解説が役にたれば嬉しい。

今回紹介するのは、20世紀から活躍している台湾の数学者ファン・チュンという人物についてだ。組合せ数学、グラフ理論などを専門とする数学者で、その研究成果はインターネットの数学的性質の解明にも役立っている。

1949年に台湾で生まれた彼女は、地元の国立大学で組合せ数学などを研究したのち、アメリカの大学院に進学する。優秀な大学院生として研究を続けた彼女は、その後博士号を取得して、企業に勤める数学者、大学の教授などを渡り歩きながら、数学をいろんな分野に応用するための活動を今でも続けている。

ファン・チュンの残した功績で最も重要なのが、「CDMAという方式を使った音声メッセージの符号化および復号化」だ。CDMAというのは通信技術の一方式のことで、簡単にいうと、同じ周波数の電波をみんなで使えるようにする技術だ。

基本的に、同じ周波数の電波を使って通信しようとすると、バッティング、つまりデータ同士が鉢合わせを起こしてうまく通信ができなくなる。そこで、それぞれのデータに異なるコードを掛け合わせることで、同じ周波数の通信でも別々のモノとして扱うことができる。これによって複数の主体で同時に通信が可能になるのだ。

例えていうなら、僕たちは普段の暮らしの中で道路を当たり前に使っているだろう。道路にはそれぞれ、〇〇街道とか、〇〇通りとかというように名前がついているが、もし、全ての道路に名前がなかったら何が起きると思うだろうか?
おそらく、多くの人が道に迷う、、、だけじゃなく事故が多発するだろう。例えば、どこかの場所に行きたいと思ったとき、その場所までのルートを調べようと思っても、道路に名前がなかったら今自分がどの道を歩いているのかが分からなくなる。
「この路地をこういうふうに曲がって、ナントカ通りに出れば、あとは真っ直ぐだ」という感じで区別できれば目的地に着けるが、それができないと、同じような進み方をしたルートと区別がつかなくなって一気に迷う可能性がある。

事故もそうだ。
例えば自転車や車で、「あの街の施設に行くにはこういう名前の道路を進めばいい」というようなことが一切わからない状態で出発すると、同じように分かっていない他の車両といきなりぶつかる危険がある。本来は同じ道路を使わなくても、目的地が違うんだから違う道路を使えばいいという話になりそうだが、その違いすら、道路に名前がないせいで分からないとなるとかなり大変だ。そう言ったことを未然に防ぐためにも、「道路に名前をつけて区別する」ということは非常に重要なのだ。

通信によるやりとりもそれと同じだ。
同じ周波数を使っていても、それぞれのデータに別々のコードを与えてあげれば、鉢合わせが少なくなるので通信の乱れは起きにくくなる。もちろん、通信する数が増えれば増えるほどそれだけ人が密集しているという事でもあるから、通信速度は少し低くなるが、それでも各々が別のコードを使っていれば通信の時も問題なく送受信ができるということだ。

この通信方式の普及によって、例えば携帯電話での通話をアンテナごとに変えて正しい相手に繋ぐことができたり、通信の符号化と復号化によって電話の音声を自然な音に保つことが高速にできるようにもなった。他にも衛星通信や軍事用の暗号通信など幅広い分野で応用されている。

ファン・チュンはこの通信方式の考案で特許を認められたことで、現在は数学者としての顔だけじゃなく、インターネット理論の研究者としても有名だ。彼女のおかげで現在も当たり前に通話ができていると言っても過言ではないので、僕らは彼女の研究に感謝しなければならないだろう。

数学にもこうした歴史があると分かると、今まで見てきた理論や定理、数学での考え方にも親しんでもらえると思う。
ファン・チュンの他の功績や、組合せ数学、グラフ理論、それとインターネット理論に関しても伝えきれてないことがたくさんあるので、興味があったら調べてみてほしい。


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