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賭け金を両者でどう分配する?:ブレーズ・パスカル

※この記事は2022年2月24日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。


今日も数学史の解説していこうと思う。
数学はこれまで、理論や定理を何の前触れもなく、唐突に教わってきたので面白さが見出しにくかったが、歴史が過去のストーリーを伝えていくのと同じように、数学も理論や定理がどういう経緯で完成されていったのか?そのストーリーだけでも知ることができたら、より親しみやすくなると思っている。
その足掛かりとして、この解説が役に立てば嬉しい。

今回紹介するのは、17世紀に活躍したフランスの数学者ブレーズ・パスカルについてだ。「人間は考える葦である」という言葉を残したで有名で、知っている方も多いと思う。

彼は1623年、フランス中央部のオーヴェルニュ地方というところで生まれる。父は裕福な一族出身の法律家で、パリの数学会での最新の動向に強い関心を抱いていたそうだ。
病弱な体質だったパスカルはよく体調を崩していて、当初父は、彼に数学を早くから教えないことにしていたのだが、その制約にもかかわらず、パスカルは12歳の時に独力で幾何学の勉強を始めて、三角形の内角の和が180度になることの証明を父に見せていた。
息子の数学の才能を認めた父は、パスカルに数学の本を渡したり、週に一度開いていた学術者の集まる会に彼を一緒に連れていき、学者と議論する機会を与えたりしたといわれている。パスカルはそうして学者と触れ合いながら、科学者として一段と成長していった。

パスカルの功績はどれも有名なものばかりなのだが、今回で取り上げたいのは「確率論の誕生」についてだ。

元々の経緯は、当時の貴族が賭け事に関してパスカルに助言を求めたことから始まっていて、「同じ実力を持つプレーヤーが勝負がつく前に中止にしなければならなくなった時、賭け金を両者でどう配分すればいいか?」というものだった。
パスカルはこの問題を、フランスの数学者ピエール・ド・フェルマーに尋ね、彼と二人で半年間手紙のやり取りをしながら、こうした偶然のゲームを分析するための数学的手法を明らかにしていった。これが確率論の誕生につながる。

彼が特に関心を向けたのは「数の三角形」と自分で読んだ正の整数の並びだった。「パスカルの三角形」と今では呼ばれていて、高校数学でもよく登場するので見たことのある方も多いと思う。

どういう三角形かというと、一番上の段とそれより下の段の両端には全て1を据えて、それ以外の各項には、右上にある数字と左上にある数字の和を入れていく数の並びだ。
例えば、5段目の左から2番目の数字は左上の数字が1、右上の数字が3なので、その合計の4が入るといった具合だ。こうして続けていくと、三角形の形をした数の集合が完成する。

この三角形自体はパスカル以前に13世紀から17世紀にかけて各国の数学者が見つけていたのだが、パスカルはこの三角形の各項目の間に、それまでの数学者が見つけていなかったパターンや関係を見つけたので、今では「パスカルの三角形」と呼ばれている。

この三角形の面白いところは、数の並びが確率の計算に使えるということだ。
例えば、コイン投げをしたときに特定の事象が起こる確率を求めるとき使える。具体的に説明しよう。

コイン投げをして起こる事象は、表が出るか裏が出るかの2択だ。コインを1回投げたとき、裏が出るということは、言い換えると表の出る枚数が0枚ということ。表が出たら、表の出る枚数は1枚だ。ここで、表が出ることをa、裏が出ることをbとしたとき、aになる確率もbになる確率も1/2になるが、投げる回数が何回だろうと、aとbの事象を足すと確率は1になるので、コイン投げを1回したら、確率の合計は(b+a)^1、つまり1/2+1/2と表せる。
では、コイン投げを2回したらどうなるかというと、2回とも裏なら表の枚数は0枚、1回表1回裏なら表の枚数は1枚、2回表なら表の枚数は2枚となる。このとき確率の合計は(b+a)^2と書けて、これを展開すると、1b^2+2ab+1a^2と書ける。
さっきも言った通り、表裏の出る確率は等しく1/2なので、a,bにそれぞれ1/2を代入すると、1/4+2/4+1/4(=1)となる。
この数字がまさに、コイン投げをした時の特定の事象が起こる確率を表しているのだ。2回とも裏もしくは表になる確率は1/4だし、表と裏が1回ずつ出る確率は2/4、約分して1/2となる。
つまり、パスカルの三角形に出てくるあの数の並びというのは、ある回数コイン投げをしたときに起こる事象の確率の分子を表しているということだ。
これが分かると、コイン投げをした時の特定の事象の確率が簡単に求められる。

当時のパスカルとフェルマーは、まだこの研究のことを「確率」とは呼んでなかったが、2人の研究は現代の確率論の基礎になっている。ゲーム理論や意思決定理論ような現代の数学の部門も、元を辿ればこの研究に行き着く。

パスカルの功績は確率以外も、計算機の発明や真空と気圧に関する実験、サイクロイドの研究など有名なものばかりだ。
問題は解けなくても歴史を知るだけできっと面白いと思うので、興味のある方は是非調べてみてほしい。

参考文献:『数学を育てた天才たち―確率、解析への展開 (数学を切りひらいた人びと)』

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