心不全患者さまに対する生活指導におけるジレンマ
今回は心不全患者さまへの生活指導における、自分の体験談を書いていこうと思います。
心不全とは
心不全はガイドライン¹にて以下のように定義されています。
「何らかの心臓機能障害,すなわち,心臓に気質的及び/あるいは機能的異常が生じて新ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」のこと
つまり、病気で心臓が血を送りだす力が弱くなり、体をめぐる血液循環が悪くなった結果、出現する症状のことを心不全といいます。
高齢化が進む本邦では心不全患者の数が年々増加しており、高齢の心不全患者は2045年まで増加が持続すると報告されています²
心不全には心機能の低下だけではなく、精神的ストレス、過活動に伴う身体的ストレス、暴飲暴食や塩分の過剰摂取、喫煙、過活動なども関連していると言われております。そのため、私たち医療従事者には、心臓の治療と並行して生活習慣に関する指導を行うことが求められます。
心不全のリハビリテーションと問題点
心臓リハビリテーションにおける大きな問題点としては、他の疾患と比較したときの高い再入院リスクが挙げられます。過去に本邦で行われた研究では、心不全患者で1年以内に心不全増悪にて再入院した患者は、全体の26%に及んだと報告されています³
一般的に、心不全を患う患者さまのリハビリテーションは、①心負荷を考慮した院内ADLの拡大、②身体機能・運動耐容能評価、③自己管理(セルフケア)の自立が主な目的となります。リハビリテーションによる長期予後の改善のためには、患者の身体機能・個人因子・環境因子を包括的に評価し介入を行うことで、再入院のリスクを下げていく必要があります。
近年は、患者の再入院を避けるために行うために構造化された教育モデルの構築が推し進められています。ガイドライン上でも心臓リハビリテーションの構成要素に疾病管理(セルフケア, 遠隔モニタリング)の項目が追加されました。このことから、入院期間中における教育的介入の重要性はより高まってきており、私たちリハビリ職もより一層、運動指導や生活指導に力を入れていくことが求められています。しかし、安易な制限や指導は、患者にとって逆効果となることもあるため注意が必要な時もあります。以下には、私の経験談も踏まえて、教育的介入における注意点についてまとめていきたいと思います。
引用:2021 年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
活動制限と自己効力感の低下
私たち理学療法士は心臓リハビリテーションにおいて、患者さまの運動耐容能(体力)を評価して、その結果に応じた活動の許容条件を患者さまにお伝えします。その際、患者が求める活動内容が運動耐容能の許容範囲内から逸脱する場合は、活動に制限をかける必要があります。
しかし、この際には注意が必要となってきます。。。
自分は過去に心不全を発症した主婦の方(Aさん)に生活指導を行うことがありました。Aさんは、心不全を何度か繰り返しており、運動負荷試験の結果は、2.5-3.5METs程度でした。入院前は、自宅での家事全般を担っており、アウトドアを趣味とする活発な方でしたが、耐容能を考慮すると、家事における重荷の運搬や趣味のハイキングなどは避けていただく必要がありました。そのため、自分は病態や日常生活での注意点を記載したパンフレットを作成し、入院期間中から入念な患者教育を行いました。そして、退院前と退院後1か月後で、身体機能およびQOLの評価(SF36使用)を実施しました。
しかし、その結果・・・
Aさんの退院後1ヶ月後の身体機能は改善しており、6分間歩行テストなどに改善がみられましたが、SF36を使用したQOL評価では、主観的健康感や社会生活機能、日常生活機能といった項目で点数が低下してしましました。
Aさんは、退院前に私が行った生活指導をしっかりと聞いて、その通りに実行することができていました。また、家族もAさんのことを心配して、今までAさんが行っていた家事を代わりに行ってくれていたようでした。そのおかげで、退院後のBNP値や心不全徴候も改善傾向にあり、病状は軽快傾向にありました。しかし、その一方で、ご本人の話を聞いていると、「家の中にいることが多くなった」、「時間が余るようになった」などといった発言が多くなっており、作業剝奪にともなう自己効力感の低下が会話からも感じ取ることができました。
ここで生じたのが活動制限と自己効力感の低下のジレンマです
Aさんに対する生活指導は、心不全の再発予防にはなりましたが、同時に作業剥奪による、自己効力感の低下を招いてしまったのです。
この経験から私は、制限を課す場合には、必ずその代替手段を同時に提供するなどといった工夫が必要であることを学びました。
また、活動制限を伝える際は、「~してはいけません」ではなく「~だったら行ってもいいですよ」といったように、制限から許容へ言葉のチョイスを変えるだけでも、患者さまの受け取り方が変わり、心理的落ち込みを避けこともできると考えております。
今後、生活指導を行う際は患者さまのキャラクターも考慮しつつ、患者さまの生活に寄り添ったアドバイスをしていけるよう心掛けていこうと思います
最後まで読んでいただきありがとうございました!
参考文献
1)合同研究班参加学会・研究班. 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
2)Yuji Okura, et al. Impending Epidemic :Future Projection of Heart Failure in Japan to the Year 2055. Circulation Journal 2008; 72(3):489-451.
3)Hiroyuki Tsutsui , et al. Clinical characteristics and outcome of hospitalized patients with heart failure in Japan. Circ J 2006; 70(12):1617-1623.
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