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「名前を入力してください」

イクイノックスってどういう意味なんだろうか。

調べてみると、「昼と夜の長さがほぼ等しくなる時」という意味らしい。アルファベットにするとEquinox。おそらくEquator(赤道)やEquador(エクアドル。エクアドルは赤道上にある。)と語源が同じだと思われ、そこで僕は納得した。何かの真ん中、二分するものという意味が込められていて、競馬界の中心になるようにという思いが込められたんだろう。キタサン「ブラック(黒)」×シャトー「ブランシュ(白)」にもかかっていて、なかなか考えられた名前だと思う。

名は体を表すという言葉がある。

競馬においてはオーナーが、「名は体を表してくれ!」という願いを込めているのだろう。最速の走りを見せてほしいから、「シュネルマイスター」、多くのタイトルを飾る存在になってほしいから、「タイトルホルダー」、といった感じだろう。

馬それぞれに名前にまつわるエピソードがあって面白い。競馬ファンの時間つぶしに、馬名の由来調べがあるのも納得である。

僕は子供のころからシミュレーションゲームが好きだった。競馬やサッカーゲームで架空の名前を付ける時は、誰よりも時間をかけた自信がある。厨二病感たっぷりな名前を付けたり、覚えた言葉をつかって我ながら完成度の高い名前を付けたりもした。「名前を考える」という行為は、未来や希望に繋がるもので、とても楽しかった。

名前を付ける。この行為は本当に尊い。
僕も1度だけ、名前を付けたことがある。

いざ生き物に名前をつけるとなると、楽しいだけでは済まされなかった。モニターの中に存在し、セーブデータを消せばなかったことになる。そういうリセットができないのが実世界なのだ。

どうか不自由のないように、と保守的に考える時もあれば、自分の理想を名前に乗せたいと思う時もあった。意味も調べるし、口に出して唱えてみたりもした。どんなに考えてもどこか欠けているようで、足りない部分を補う言葉ないかと駆け回る。考えが煮詰まるとはこういう時に使うんだろうなと思った。

しかし、結末は一瞬だった。

これだけ大切に思っているんだから、それを名前に乗せればいいのではないか、それが一番なのではないか。

確か、お風呂で髪を洗ってる時だった。そんな考えが一瞬浮かんで、結局それを名前とした。名前は、ふとした瞬間にアッサリ決まるものらしい。

どれだけ調べても決まらない時は決まらない。あらかじめ決めていても、一瞬の判断で変わる。そうだとしても問題ない、本当に不思議な行為だと思う。きっと文字にした名前は表面的なもので、真意はもっと深いところにある。それが湧き出たとき、名前は決まる。

僕が名前を付けてから、数年が経った。

名前通りの存在かどうかは正直大切なことではない。名前は既に君のものになった。そしていつだって、名付け親の気持ちはあの日と同じだ。いつの日か名前通りの存在になればな、みたいな気持ちでいるし、名付け親がいる限りその日は既に来たのだ。生きていくうちにそんな人が3人、4人と増えていけばいい。そんなもんだと思う。

今年のジャパンカップは、いろんな境遇の馬が出走する。イクイノックス、リバティアイランドのようなG1馬、海外や地方競馬からの参戦、普段は下級クラスで走っている馬。

どの馬にも、大切な名前がある。

名前を付けたときのことを少し想像してほしい。その日の決意、その日の思いに差をつけることは難しい。9文字以下のカタカナに賞金や格では測れない思いが込められている。

人生もそうであるように、最終的な勝者は1頭だ。

だからこそゲートインは、最大限の敬意をもって迎えたいと思う。
きっとその後ろには大切な名付け親がいるはずだから。

「名前を入力してください」

次の瞬間ゲートが開く。どうか自由に走れ。思いと共に。

#ジャパンカップ

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