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21世紀の学びはどこへ行くのか- 教育界のトップランナー達が語る、21世紀の"ふつう"の教育論(後編)

2019年10月14日、立命館アジア太平洋大学東京キャンパスにて当社TAKTOPIA主催でカンファレンス TAKTOPIA FESTIVALを開催致しました。
前回に引き続き、後半は上田信行氏(同志社女子大学現代社会学部現代こども学科特任教授*)が提唱されている様々な状況のなかで挑戦的・冒険的な学びをつくるLearning model(学びのモデル)やその理論を、上田氏、織田澤博樹氏(青翔開智中学校・高等学校副校長*)、長井悠氏(タクトピア株式会社代表)の3人がどのように教育現場に応用しているのかを話しながら、現在とその先に見える教育の”ふつう”について語ります。
(*開催当時の役職を記載しており、現在と異なる場合がございます。)

1. 子供がCreativeになるための安心感

長井悠氏(以下、長井):中学生が商店街に実際にお店を出すプロジェクト、面白いですね。ただ任せるだけでなく、安全に学べる担保があるからこそ生徒が笑顔で学ぶことができると考えています。

学びを設計するという観点から聞きたいのですが、この場合も社会にそのままほっぽり出すというわけではないと思っていて。安全に学ぶための工夫してることはありますか?

織田澤博樹氏(以下、織田澤):周りに大人がいるっていう安心感ですかね。何かとんでもないことが起きたら、大人がいるから大丈夫という安心感はあると思います。

図1

長井:この商店街プロジェクトというのは、最初からどんなことをやりたいかなどの意思決定も生徒に任せているんですか?

織田澤:そうです。大人に決められたことをやることって気が進まないじゃないですか。自分がコントロールできない状態はストレスを感じる。その状態が長い間続いてしまうと無気力になって物事から逃げ出してしまう。そんな循環に陥らないためにも、生徒自身の意思決定を大切にプロジェクトを設計しています。

図2

達成感溢れる笑顔が印象的な1枚。商店街プロジェクトでオープンしたカフェの前での集合写真。

大学進学を考えるとき、進学する費用をほとんどの場合子どもたちはどうにもできない。そんな時に、ここまで支援できるという枠を親から伝えられることで子どもは安心して挑戦することができる。もちろん奨学金を獲得し枠を飛び越える柔軟な発想も必要です。

子ども達自身が到底決定を下すことができない事柄について、大人がいると子ども達は安心するのです。青翔開智の教員に守ってほしいこととして伝えているのは、”生徒の命と財産に関わることは絶対に守る”ということ。そこは僕たちがきちんと守りながら、その中で生徒は自由にというスタンスです。

2. 学びの変遷

長井:上田先生は昔から学びの在り方についてご自身で提唱されているものがありますが、ご紹介いただけるでしょうか。

上田信行氏(以下、上田):学校(School)で知識を得る(Get)形のモデル1.0、スタジオ(Studio)で作り(Make)ながら学ぶ2.0、舞台(Stage)でパフォーマンス(Entertain)をしながら学ぶ3.0。

そして4.0では多様な場所(Street)で、多様な人たちと、多様な知識を衝突(Clash)させ、リミックス(Remix)する学び。対立を越えようとする情熱に突き動かされた真剣勝負の学びを4.0と呼んでいます。

ラーニングモデル1.0〜4.0が描く学びの風景(LearningScapes)は優劣があるわけではないんですね。それぞれをいかにバランスよくブレンドするか、という視点なんです。どんどん新しい学びの形が生まれていますが、それぞれの学びを状況によって変化させていく考え方です。

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上田氏が提唱する4つのLearningScapes(コンセプトデザイン:ウエダノブユキ、イラストレーション:岩田花奈)。4つの学びを状況によって混ぜ合わせることによって、挑戦・冒険的学びにチャレンジしていくことができると上田氏は言う。


織田澤:ストリートで衝突することで、多くの人と出会うと思うのですが、出会って価値観や意見が異なった時に対立にならないコツってありますか?

上田:未知の価値観と出会った時に、それを尊重し、止揚する力を養う必要があります。この力を養う上でマインドセットが大きく関係しています。

異なる価値観に出会った時に、それを尊重し、さらには学びに変えることができるか(Growth mindset)、否定されたと感じ拒絶してしまうか(Fixed mindset)、というのはマインドセットの違いから起こることです。

後者の場合、能力の程度を露呈するタスクから逃げる傾向にあり、学びの機会を減らすことに繋がります。(Growth mindsetについては前編第3章でも触れていますのでご参照ください。)

3. 衝突(Clash)を生むストリート(Street)を出現させる

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長井:ラーニングモデル 4.0でも話されているストリートの学びをどうやって教育現場に落とし込んでいくか、という点が今後ますます重要になってくると思います。

以前、タクトピアの研修で生徒をボストンに連れて行った時、Greentown Labsというところを訪問しました。ものづくりベンチャーに特化したインキュベーション施設なんですが、そこの担当者に対して生徒が質問攻めにしたんですね。そしたら、生徒の熱意に感化されて普段訪問者には見せていない施設の裏側を案内してくれたんです。生徒のアクションがチャンスを切り開いた瞬間でした。

自ら切り開いていくような学び、まさにストリートの学びだったと感じています。生徒の力でその場のアクションによって切り開かれるものがあると我々は信じています。そして、ストリートは必ずしも非日常ではなく、普段過ごすような学校の中もストリートになり得ると思います。

上田:最近気づいたことがあって、ストリートライブって面白いなと。ライブコンサートって観客が歓声を上げて最高のテンションでミュージシャンを迎えますよね。それって観客が大ファンだからです。そのミュージシャンが好きで、お金を払って、全国から集まってきている。

だけどストリートライブってそうではない。たまたま通りかかった人を振り向かせないといけない。試練かもしれないんですけど、いい意味でハードルが高い。そういう状況でのトレーニングはとても大切だと思います。

図5

長井:安全安心を確保した上で、挑戦のできるストリートを出現させるということが学び全般で大切かもしれません。タクトピアもそれを常に意識しながら学びを作っていきたいなと考えています。

4. 周りを巻き込みながら前進していくために

長井:ここからは皆さんからの質問もお伺いしたいと思います。

参加者:私は学校教育に関わっている者です。様々な立場の人間を巻き込みながら教育を進めていくことが難しいと感じているのですが、何かアドバイスをもらいたいです。

織田澤:”東大ではなく灯台を目指す”というのをうちの学校ではよく話しています。東大は世界トップ100に入る素晴らしい大学です。しかしながら、日本では東大を頂点とした偏差値偏重の受験教育が行われていることも事実です。

受験戦争を経て東大に入ること自体が目的になるのではなく、ビジョンがあってその通過点に東大や自分が行きたい大学があるはずなんです。だから我々は灯台(ビジョン)を目指すのです。今いる仲間の中で相談しながら、ビジョンに向かって楽しくやっていこうというスタンスを持つことですね。そのスタンスで面白がりながら先生たちはやってくれています。

上田:弱さ・脆さを共有するコミュニティを持つこと。教員同士のコラボレーションを増やしていくためにも、弱さを隠すことにエネルギーを使っていたらコラボレーションは生まれづらい。自分の弱さを出してみる、そして弱さをさらけだしても大丈夫という環境を作っていくと組織は強くなります。

5. ラーニング4.0のその先...

参加者:上田先生の提唱されているラーニングモデルは現在4.0までありますが、その先、5.0の構想やイメージを教えてください。

上田:5.0は、まだコンセプトを詰めているところなのですが、Playful Intelligence(PI)という概念を考えています。Playfulという言葉は、もともとソーシャルな意味を持っていて、自分がプレイフルに振る舞うだけではなく、むしろその場や他者を楽しくさせる、他者へ向けての姿勢なのです。

Make It Playful、楽しくやろう、面白くしよう!という精神(プレイフル・スピリット)で、状況と対話・融合しながら振る舞いをコントロールし、感情をEvoke(喚起)する社会情動的スキル(非認知能力)と言えます。

この感情的知性「Playful Intelligence」を耕していくことが、これから必要だと考えています。4.0までとは少し次元が違いますが、これが5.0のイメージかなと思います。

長井:音楽が好きなので音楽に絡めてプレイフルラーニング1.0〜5.0まで考えてみました。5.0は無拍子や無調といった世界のイメージがあります。今までの古典的な音楽のルールから逸脱していく。

教育の究極のかたちは、環境自体が学びを備えていること。決まりきった教育コンテンツが不要となる世界だと思っています。そこでは、先生や生徒という枠組みを超えて誰もがお互いに学び合う関係性があり、かつそれを信じられるお互いへのリスペクトが満ちているはずです。

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長井氏が話す学びのモデル×音楽。学びの最終形態としてLearning 5.0では既存のルールから外れながらも互いに学び合う関係性があるその環境自体が学びであると表現した。

上田:みんながそれぞれ自然な状態にいながら何か気持ちよくアンサンブルが取れている、そんな環境ですかね。すごくあたりまえのようですが。まさに今日のテーマ「ふつう」に繋がりますね。

6. 最後に

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教育界のトップランナー達が語る「”ふつう”の教育論」。セッションの1時間はあっという間に過ぎ、終わりの時間となる頃には、色鮮やかなグラフィックレコーディングが生まれた。


長井:この部屋にいらっしゃってこの話を聞いてくださっている方の世界より、今の学びの世界はさらに広い。今この場で共有していることも、広い広い学びの世界のほんの1%に満たないかもしれません。ですが、みなさんと一緒に過ごしたこの場自体がClashだったと思いますし、なんらかの共通言語が生まれたと感じています。

そういった時間を共にしたことで、みなさんとこれから新しいチャレンジができるんじゃないかなと確信を持って、パネルセッションは終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

教育界のトップランナー達が語る、21世紀の"ふつう"の教育論(後編)いかがでしたか?異なる立場から教育の第一線を行くお三方。彼らが普段当たり前に考え、実行している”ふつう”の教育をひしひしと感じるトークでした。果たして、新しい”ふつうの教育”には、どんなワクワクする未来が待っているのでしょうか。
今回の記事で取り扱ったラーニングモデル1.0〜4.0が描く学びの風景(LearningScapes)は上田氏の提唱されているプレイフルラーニングに基づくものです。ぜひご覧になってみてください。

記事構成・編集:二ノ宮将吾・柴田祐希
グラフィックレコーディング:タオルマン(肥後祐亮)、山野元樹・柏弘樹
写真 :菅原幹人

▼タクトピアについて
タクトピアは、日本全国の高校・大学を中心とした教育機関とともに世界と繋がる研修プログラムを創造しています。「圧倒的な原体験を創り出すデザイン機能」を中心に据え、学校さんの改革成功のために伴走する「コンサルティング機能」、多様な立場の方々が学びに参画できる「プラットフォーム機能」、学びの効果の再現性を生むための「研究開発機能」を併せ持ち、より一層強力に、日本の教育改革を推し進めるエンジン的存在を目指していきます。21世紀の教育改革のために協働する教育機関の皆様からご連絡をお待ちしております。

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