Takramの多言語文化を育む
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Takramの多言語文化を育む

Takram

この記事は、Takram LondonのJonathan Skjøttが書いた「Nurturing a Multilingual Culture at Takram」を日本語訳したものです。元の記事(英語)はこちらをご覧ください。

Takramにとって言葉は大切なものです。どのような言葉を使えばTakramの活動を適切に伝えることができるのか、その言葉選びを大切にしていますし、創設からの数年間でTakram独自の言葉も生まれてきました。

多様な人々が「自分が尊重されている」と感じられる環境をつくれるよう、私たちは言葉の使い方に日々配慮するようにしています。芸術からエンジニアリングまで幅広いバックグラウンドをもつ人々を受け入れるデザインエンジニアリングを実践するためには、どのようなコミュニケーションが必要なのか。この問いについて、私たちは「Pendulum Thinking(振り子の思考)」などのアナロジーを通じて長く議論を続けてきました。

さらに、ここ数年で日本語を母語としないメンバーがTakramに入社したり、ロンドンやニューヨーク・上海にスタジオを設立したりしたことで、私たちは多言語コミュニケーションの重要性も痛感するようにもなりました。Slackのような場でも複数の言語が使われるようになっています。こうしたことをきっかけに、さまざまな言語がTakramというコミュニティでどのような役割を担っているのか、より深く考える必要があると感じるようになりました。

私たちはそれぞれの言語がもつ思想や表現の豊かさを大切にしています。そのため、メンバーが集まる場でも多言語の使用を奨励すべきことは明らかでした。その一方、たとえその場で使われているすべての言語が理解できなくとも、誰もが歓迎され、快適に過ごせる場をつくるための配慮も必要です。

Slackの場合、言語ごとにワークスペースとチャンネルを分け、常にひとつの言語しか使わない環境をつくればよいのかもしれません。しかし、さまざまな専門分野を掛け合わせることを大切にするTakramとして、この解決策はむしろ逆効果であるように感じました。私たちがプロジェクトでさまざまな分野を融合させているのと同じように、同じ場で複数の言語を使えるようにしたほうが、使える言語を場ごとに制限するよりも豊かな表現が可能になると考えたからです。

同じ場に複数の言語を共存させたいという想いから、私たちはメンバーたちが現在コミュニケーションをとっている場について考え始めました。その多くは、オフライン・オンラインに関わらず、複数の言語が使われることを想定したものではありませんでした。

Slackは、そのままの状態では多言語文化が生まれやすい環境とは言えません。Slackには多言語コミュニティに対応した機能がほとんどないので、言語によるサイロ化が自ずと助長されてしまいます。過去を振り返ってみても、重要なメッセージが翻訳されていなかったがために、特定の言語を使えない人が重要な会議や情報を見逃してしまったという残念な状況が思い出されました。

こうした状況を踏まえ、Takramでは使う言語に関係なく誰もが歓迎されるSlackのワークスペースをつくるための工夫をしてみようと考えました。

翻訳を自動化すればいいというわけではない

チーム内の多言語文化を醸成するツールをつくるためには、ただメッセージを翻訳するアルゴリズムを使うだけでは足りないと私たちは考えました。

Takramでは以前からメンバーがメッセージを翻訳したり、
言語特有の言葉の意味を解説し合ったりしていました。

では、ほかに何が必要なのか? Slackのワークスペースに目を向けると、その答えがいろいろなかたちで見えてきました。Takramのワークスペースでは、すでにメンバーたちが互いのためにメッセージを翻訳したり、その言語特有の表現についてさらに細かく意味を説明したりしていたのです。こうした心温まるやりとりを目にしたことで、私たちは翻訳のプロセスにコミュニティを巻き込むような工夫をすべきなのだと感じました。つまり、翻訳という作業を共同作業にすればよいのではないか、ということです。

そのための第一歩は、参加やエンゲージメントを可視化することでした。これを実現するため、私たちはSlackのワークスペースで誰かが自分や他人のために翻訳をしようとした際、それが全員にわかるような仕組みをつくりました。翻訳という行為とSlackの絵文字リアクションを紐づけたのです。私たちが新たに導入した「Translator App」のおかげで、自分や他人のメッセージに翻訳専用の絵文字でリアクションをするとそのメッセージの自動翻訳が始まり、Slackのボットが訳文をスレッドに投稿してくれるようになりました。リアクションの絵文字にカーソルを合わせれば、誰がそのメッセージの自動翻訳を始めたかも確認できます。翻訳という行為をサポートするために、誰もが参加できるこうした変化の数々が生まれたのです。

翻訳専用の絵文字でメッセージにリアクションすれば、スレッドにその翻訳が送られます。

私たちはこの機能の初期プロトタイプをTakramのワークスペースで試験的に運用してみました。その結果、多くの深い気づきが得られただけでなく、コミュニティの多くのメンバーが機能を日常的に使っていたことから、その価値も証明されました。それぞれが「これはみんなが知っておいたほうがいい」と感じた情報を翻訳することで、メンバーが互いに互いを支えあうというダイナミズムを生むことに成功したのです。

一方、この機能には課題もありました。翻訳が終わってしまうと、メンバーがその後に関与する方法がないのです。例えば、誤訳を直したり翻訳の質を評価したりといったことがこの段階ではできませんでした。

共同作業としての翻訳

コミュニティに翻訳を手伝ってもらうというポジティブな経験も後押しとなり、私たちはさらなる参加を促すデザインを取り入れて人々が他者に貢献できる方法を増やそうと考えました。

ユーザーごとに異なるアクションをマッピングしたフロー図。

「Translator App」の基本原則である「参加」を実現するには、人々がどのようなかたちで翻訳に関わりたいと思うか、さまざまな可能性を考慮しなければなりませんでした。「Translator App」による翻訳が行われるとき、それを使う側にはその後さまざまなニーズが発生するでしょう。自分が理解できない言語を自動翻訳した人は、その翻訳の質を誰かに確認してもらいたいと思うかもしれません。複数の言語に精通している人であれば、誤訳を修正したいと考えるでしょう。また自動翻訳が意味をなさない場合は、意味を理解するのに手こずっていることを他人に知らせる方法が必要になります。

こうしたことを踏まえ、大きく2つのユーザーグループが想定されました。

  • チャットで使われる言語の一部のみを話す人たちのグループ。このグループの人だけでは、自分が理解できない言語に関する翻訳が原文の意図や語調を正しく捉えているかを検証できません。しかし、自分が理解できる言語への翻訳が意味をなさない場合、それを報告することはできます。

  • チャットで使用されるすべての言語について、十分な知識をもつ人たちのグループ。このグループのメンバーは、翻訳の質を検証できる唯一の人々です。また翻訳の問題を修正することもできます。

それぞれのグループについて理解し、翻訳に何かしらの対応をとりたいという思いがあると気づいた私たちは、何らかの方法で翻訳をインタラクティブにできないか検討し始めました。

特定の単語やフレーズに説明を加えられるようにしたもの。
利用者の好みの言語によって、インターフェイスの言語がどう変化しているかがわかる。

こうしてインタラクションの方法をいくつかを試した結果、私たちは翻訳されたメッセージに対して3つの対応をとれるよう機能を改良しました。

  1. 意味が理解できません — 翻訳がうまくいっていないことを他人に伝えたい人のための機能

  2. 翻訳内容を編集する — 翻訳された文章の問題点に気づき、修正したい人のための機能

  3. 翻訳を確認しました — 翻訳が原文の意図を正しくとらえているかどうかを判断できる人のための機能

TakramのTranslator Appによる翻訳へのインタラクション例

このバージョンをワークスペースでテストしたところ、みんなで言語の架け橋を築く作業に前進が見られたように感じました。初期のプロトタイプでは、誤訳を編集できなかったり翻訳が正しいかわからなかったりすることへの心配の声が聞かれましたが、情報共有やインタラクションを促す方法をとったことでそれが解消されたのです。

メンバーやプラットフォームと対話する

このバージョンのTranslator Appを使い始めてしばらく経ちますが、アプリがTakramの文化に与えた影響をとても嬉しく思っています。今回のプロジェクトは、自分たちが使うプラットフォームをコミュニティの価値観に合うようリミックスすることによってどのような成果が出るのかを表すよい例です。

もちろん私たちの翻訳アプリは、Takramが日ごろ使っている場のほんの一部に介入したに過ぎません。しかしこのアプリは、多言語の使用を促す空間をつくることで人々をより暖かく迎え入れる創造的な雰囲気が醸成されることを証明しています。

会話に基づく多方向で多言語的な取り組みをメンバーと共創していくことで、この先どのような未来が生まれるのか──。
今回のプロジェクトのおかげで、私たちはそれをさらに探究してみたいと強く感じるようになりました。

Jonathan Skjøtt
メディアプロトタイピングとデザインリサーチのバックグラウンドを持つテクノロジスト。歴史とコンピュータサイエンスを学んだ経験を活かし、文化的、歴史的、空間的な文脈を深く理解した上で、様々なプロジェクトやツールづくりに取り組む。NYのRecurse Centerでプログラミングとメディアに没頭した後、2020年にTakramに入社。

原文:Nurturing a Multilingual Culture at Takram
訳:Asuka Kawanabe

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Takramは、企業や組織が、限界や領域を超えていくことを現実にするデザイン・イノベーション・ファームです。東京とロンドン、ニューヨーク、上海をベースに、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。 www.takram.com