思い出

あれは何も無かった日のことだ。私は昼を済ませて自室でぐったりとしていた。得てして精神が薄弱なものだから、食物を胃に入れると俄かに眠気に囚われてしまう。

気が付けば白い部屋にいた。物理的に白いわけでは無い。狂いそうなほど蒸された部屋は茹った自分の頭では白く見えたというだけの話だ。要は自室で昼寝していたら熱中症になっていたマヌケ、というだけだが、夏という季節のどことなく揺らいだ時間を垣間見ることが出来た時間だった。窓からのぞく夏空は、白と青のコントラストが際立っていた。どうにも疲れている時には視界の明度がめちゃくちゃになってしまうが、あの時程青い空は今にも先にも見ることは無いだろうと思う。家の窓から覗く形容しがたいほどくっきりとした青。蒼天というにはいささか水色が過ぎたが、しかし色としての質量は重たかった。

小一時間ほど窓の外を眺めていただろうか、だんだんと意識が朦朧としてきて私は再び眠りに就いた。そのまま眠り続けられれば良かったが、のどの渇きが脳をちくちくと刺してきて起き上がらざるを得なかった。夕方の空は普段通りの橙に染まっていて、昼の幻覚の続きを求めていた私はそこそこ落胆したのを覚えている。

青は冷静さ、爽やかさを表す。落ち着きをもたらし、時には遠くに思いを馳せる。しかし、しかしだ。青は私たちを狂わせる。「吸い込まれそうな青」ではなく、事実吸い込まれてゆく。人間には計り知れない何かを抱擁してまぜこぜにしています。青の壁の奥にはいます。いるんですよ。

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