未題1 第一章

自分は何をしているんだろうか。
今日と昨日とまたその前もずっと布団の中にいる。
自分が職を失ってからもうすぐ2年が経過しようとしている。

明日は、明日は、と外へ出ようとは思っているが
自分の体が鉛のように重く、起き上がらない。
一歩、また一歩と自分の心の中で出ようと思っているが、
体が脳の指令に反するように動かない。

世間では転職が一般的的な風潮になっていて、
毎回年一回の大学の同期の飲み会に行くにつれて
自分の友人が転職をして年収を上げたとか労働環境改善したとか
色々な話を飲みながら耳にする。

自分は大学卒業後に新卒で入社した会社に誇りを持っていた
入社直後は様々な業務を任されてご飯を食べる暇もなく
他の同期と比べても大分努力したと自負している。

毎日会社で残業して沢山の業務をこなした
しかし、一昨年の冬、自分が働いていた会社が国内大手の会社に買収され
同時に人員整理をされた、そう、リストラされたのである。

リストラ時に会社から失業保険以外にも特別手当や様々な手当を
もらっていたが、個人的に今まで何のために頑張ってきたのだろうと
プツりと糸が切れるようにして、魂が抜けるように気力がなくなったのである。

最初はなんとか時の流れで何とかなると考えていたが、
時は過ぎ、森山直太朗のさくら、TUBEのあー夏休み、back namberのクリスマスソングとラジオを通して、少しずつ時の流れを感じるに連れて、脳が焦りを感じた。

焦りを感じて行動したいと考えるが、体が動かない。
トイレに行くのに躊躇し、シャワーは一週間に一回、ひどい時は一ヶ月に一回の時もあった。髪はフケだらけで皮脂が全体を衣のように纏っており、少し臭い。

また時は過ぎてオリックスが交流戦を優勝しリーグまで制覇した。
自分が会社の食堂で食べながら野球ニュースを見ていたときは、
自分は野球に疎いが、万年最下位争いをしていた記憶しかない。

世間が目まぐるしく変化している中で
自分は布団を定位置に全然前進できることができなくて
自分に対して不甲斐ない気持ちでいっぱいだ。
自分のことを殺めようと何度も考えたが、
まだこの世で何かやれることはあるだろうと考え
行動には移さなかった。

定期的に巡回してくれる精神科の医者からもらった薬は
基本的にには飲まない、この前朝昼飛ばして夜一気に飲んでみたが、
目眩がして失神した。

それ以来薬を自発的に飲むことはない。
寝れない時や精神的に不安になる時だけ
その場凌ぎに飲むことがある。

飲んだんだよと思いプラシーボ効果かわからないが
継続的に飲む必要があるのを知っているが、
その時だけ効果がしっかり感じられて、しっかり寝れるようになった。


12月中旬、周りがクリスマスの装飾をし始めた頃に
突然大学の友人から連絡があった。
「最近調子どう?今度大学の同期で飲むけど来ないか?」と。
普通の時であれば、何かと忙しいと断るのだが
「最近調子は良いよ、今度行こう」と返した。

自分でも分からない程に自然に返信した。
「じゃあ、来週土曜日高円寺で集合で、場所はいつものところで」
大学時代によく通っていた高円寺純情商店街の一角にあるお店だ。
「分かった」と返信した。


自分はトイレに行く時以外は基本的に家を歩き回らない。
買い物も近年はネットスーパーで完結する。
自宅のドアを開けるのも、半年ぶりかもしれない。
髪は油まみれ、服は数週間着替えていない。体は少し匂う。


こんな自分は果たして一週間で自宅から高円寺の飲み屋に行けるのか
と考えていたが、なぜか自然とワクワクした気持ちもあった。
自分はここから復活出来るんではないか?と一瞬頭によぎった。


予定は一週間後、自宅のある永福町から高円寺に行く。
行き方は至ってシンプルで最寄りまで直線の道を歩き
そこから井の頭線に乗り、吉祥寺で乗り換え高円寺に行くだけだ。


今日を含めて、一週間に予定を分けていけば良い
最初は立ち上がり、髪を洗う。
その次はドアを開けてみる、太陽の光を浴びてみる。
自分の足を使って部屋の中を歩いてみる。
部屋のドアを開けて家の周りを歩いてみる。
駅まで行ってみる。
目的地まで実際に電車に乗って向かう。

行程を7つに分けて行えばいいと考え実践してみることにした。
普通の人間からしたら立ち上がり髪を洗う事は簡単だ。
しかし、自分の場合は重力に逆らい動く事が難しい。
トイレだって躊躇してギリギリになっていく。

そんな自分がたった一週間で自宅から出て、
さらに電車に乗って行けるのかと考えたが、
この機会だと力を振り絞り、心に決めて頑張ってみることにした。



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