マガジンのカバー画像

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー

17
有料老人ホームで10年間に出会った入居者様に感謝。 皆様お元気ですか?地上でも天国でも・・・
運営しているクリエイター

#認知症

桜の木

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー 病院の真ん前に1本の桜の木がある。 病院の前に立っているこの施設の5Fの窓から、その桜はよく見える。 桜の花が咲く季節は窓からお花見が出来る。 特にマサハルさんの部屋からの眺めは最高だ。 2月、まだ桜は細い枝の先が冷たい風を神経質に捕らえていた。 マサハルさんがその桜の木を窓越しに眺めて私を呼ぶ。 「ちょっと、ほれ、あそこに子供が居るんじゃないか?」 「えっ、子供ですか?」 「あんな所に登ちゃって、降りられなくなったんだな~ 下で

ビールと七夕

「た子の足跡日記」ー有料老人ホームにてー 色々なお題が出てnoteはありがたい。 「#ここで飲むしあわせ」で、思い出した人がいるので時季外れの題名で書いてみたいと思う。 有料老人ホームなので自室を持ち、ある程度自由に生活出来る。 ミツオさんは本当に自由に生活されていた。 居室には好きなビデオ、本や雑誌、おやつが完備されている。 ちょっとしたキッチンがあり、小腹が空いたらカップラーメンくらいは食べられる。 シャワー室まで付いていて好きな時間にシャワーを浴びることも出来た。

滑る話

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー クロックスのサンダルが何故あんなに人気なのか分からない。 軽量で履きやすくて値段もリーズナブル。色も色々でお洒落だ。 私も、流行に負けて買って試してみたことがある。 でも私には合わなかった。 何もない平坦な床にさえ突っ掛かって転びそうになってしまうのだ。 私の歩き方の問題なのかもしれないが。 入浴のためにちゃんとゴムのサンダルが用意されているのに、それでも殆どのスタッフが個々に買い求めて履いているのがクロックスのサンダルだ。 「こ

柿畑さんばんざい

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー キミさんが言うには、柿畑さんは何でも話を聞いてくれるのだと言う。 「あなた、悩み事があったら何でもカキバタさんに相談するといいわよ。 別に答えが返ってくる訳じゃ無いけど、すっきりするから」 と、言うので私は、 「どうやったら柿畑さんに会えますか?」 と、質問してみた。 キミさんは、 「カキバタさんよ」 とだけ言った。 怪しい。 私はキミさんがその柿畑さんに電話とかで話を聞いて貰っているお友達か、下手したら変な宗教みたいなものかも

安売りノーベル賞

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー 大声で 「職員さん、職員さん」と職員を呼んでいるのはツヨシさんだ。 ツヨシさんは、何かにつけて頭にノーベルを付けたがる。 何かを否定するとき 「ノーベルダメ、ダメ!」 固い物を食べるとき 「ノーベルこれは固いでしょう」 という具合だ。 ツヨシさんは『ノーベル』を多発乱用している。 「ノーベル」とは「ノーベル賞」のことだ。 ツヨシさんの友人の知り合いだか、親戚の知り合いだか、知人の親戚だか、とにかくツヨシさんの知り合いに『ノーベ

「おめえさん」と呼ばれて

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー サトさんは、目の前の他人のことを「おめえさん」と呼ぶ。 「おめえさん達はえらいなあ。こんな婆さんの世話をしてくれて」 と、いつもスタッフを労ってくれる。 サトさんの趣味は凄い。 道端に落ちている石や棒切れを拾って来たり、その辺に生えている草を取って来てはオブジェを作っている。 箱庭みたいにして並べたり、マジックで何か描いて並べてみたりしている。 散歩から帰って来て、にこにこしている時は大抵シルバーカーの中やポケットに拾った物を