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「サーブミスもったいない」について(代表&育成レベル)

パリ五輪の準々決勝の大事な場面でのサーブミスが話題になっていました。

こういう中でこんなツイートもあったので書いてみました。

バレーボーラーの大半を占める都道府県予選レベルのプレーヤーにとっては 「サーブミスもったいない」 で戦術的に大きく間違えてないです  なんなら高校生レベルであれば、全国区でもそうかもしれません

https://x.com/FuyaVolley/status/1820701759414964380

田舎の中学で県大会に出れるかどうかのレベルでも、攻撃力に劣るチームが勝ち上がるには「サーブミスもったいない」はマイナスです。

12年前、ロンドンOQTのときに書いた記事を紹介します。

サーブミスが一番ダメージとして大きいのが、ミスを引きずって次のプレーに影響が出ることだと思います(だから、ある意味、気にしさえしなければ何でもない)。特に「次のサーブが弱気になる」というのは、それで勝つ可能性が消えてしまうくらいの影響があると思います。

返信をいただきました:
経験則から考えてもまさにその通りですね
しかし、サーブの精度の高いトップならまだしも、育成年代等でこれを行おうとすると「ミスしてもいいやー!」で雑にサーブを打ってしまう恐れもありそうです
ただ、次のプレーに影響が出て負のサイクルに陥るよりは、マシかもしれませんね

https://x.com/FuyaVolley/status/1821330088446849431

中学生の歩みに関わってきた経験で言うと、まず「強いサーブ、強くなくても攻めるサーブ」が打てるようになるまでの段階があって、そこまでは「打てるようになる=上手くなる」なので試行錯誤が大事、つまり「失敗こそが大事」で「ミスしてもいいや」は大前提です。試合じゃない方がいい段階ですね。

次に「試合で攻めのサーブが打てる」ようになる段階。
ここでは「調子がいいとどんどんサーブが走る」ということがたまに起き、「サーブで攻めれば勝てる」ということが分かってきます。

そうなると「勝つためにはサーブで攻めよう」という共通認識ができてきます。その状況で練習試合をしていると、サーブで優位に立ちセットを獲って「やはりサーブで攻めることが大事」と思える一方で、「攻めるサーブを打ってミス」が起きて「ミスしてはいけない」と選手が言い出します。「1セットに*本もミスしたら勝てない」とか。

で「攻めなければいけない」でも「ミスしたくない」というプレッシャーの中でサーブを打つことになり、それがサーブを弱くしたりかえってミスが増えたりします。ここが一番難しいところで「池ポチャ理論*」そのもののような状況です。成長を導く側としては、ここをどう乗り越えてもらえるかが一番の頑張りどころ、使命だと思います。

*「池ポチャ理論」
ゴルフの世界で、「池にだけは入れたくない」という意識が「池」のイメージをどんどん大きくしていき、「池」に打ち込ませるというもの。
「ミスしちゃいけない」という意識が最もミスを誘発することになる。

もちろん、技術的な問題をクリアしていくことも重要なので、「ただ気にしなければいい」などということは全くありません。でも、いかにして選手のベストなパフォーマンスを発揮してもらえるかを考えると、プレッシャーに繋がるようなことは「呪いの言葉」として極力排除することになります。

自信を持って、成功だけを信じて、イメージして、サーブが打てるように
・十分な練習(コントロールしすぎようとするとかえってプレーがぎこちなくなるので注意)
・状況に応じたサーブを選択できる
・その場で選択したサーブがどこへ飛んでいくかしっかりイメージする
・ルーチンを確立する
等々やるべきことはいろいろありますが、自分なりの準備をしっかりやって、覚悟を決めて打つというところまでは「やるべき行動」なので、やる人の責任です

でも「結果」は決めることができない。むしろそれを受容できない方が「覚悟」を決めづらく、プレッシャーが高くなり、ミスが増えることになります。

今の代表チームなら、こんなこと当たり前にやっていますよね。やるべきことをやって、それでもミスに終わった時、それは「攻める勇気」を讃えるのが一番だと思います。これからもっと強くなるのを期待するなら 「大丈夫!自分を信じて突き進んでくれ!」 しか、贈る言葉は見つかりません。

選手に「覚悟」を決めて、自分を信じて、最高のプレーをしてもらいたい。だからこそ「ミスを気にする環境」は排除したいのです。

中学生くらいだと、選手によっては「練習不足で自分のベストサーブが分からない」「その場での選択肢が分からず、選べるところまで来ていない」などということも多く、本番の大会では「ここでは、あの辺りをねらって、自分で確実だと思うサーブを打て」という指示をした方がいいケースもあるでしょう。

でも、チームとして「ミスるな」という言葉はNGにしていきます。
・その言葉がどんな影響を与えるか
・その言葉は「自分で勝利をつかみ取ることから逃げて、相手のミスに頼ろうとする弱い心の現れ」
・「勇気を持って攻める」気持ちをみんなで支える重要性

等を機を見て伝えていきます。

こういうことに日頃努めている立場としては
・代表にもっと強くなって欲しい
・強い、カッコいい、バレーを心底楽しむことのできるプレイヤーを育てていきたい

という2点から「ミスのバッシング」はとても残念な状況と声を大にしたいところです。

-----ここから追記-----

以前に、全日本のエースとしてとても期待されたプレイヤーがいて、強烈なサーブを決めてアジア優勝の立役者になったりしていたんだけど、サーブミスが多いという評価もあり、思い切りのいいサーブは影を潜めるようになっていきました。

その頃は監督が試合後のインタビューで「サーブミスで負けた」と公言するような状況で、「サーブミスだけはするな」みたいな空気に支配されていました。当然その次の試合ではみんなミスを回避しようとして強いサーブがなくなってしまいました。そんな状況で強力なサーブが打てなくなっていくのは当然のことだと思います。

当然その選手は「攻めた上で入れていかないといけない」と人一倍思っていたことでしょう。

で、その状況は彼のパフォーマンスを高めたのか?
高めれなかったとしたら、それは彼の責任感のせいではないのか?
そんな状況を作ったことは日本のバレーの競技力を上げたのか下げたのか?

ここで「攻めた上で入れていかないといけない」と言うことは、彼のようなプレイヤーを増やし、日本のバレーにとっても大きな損失になると思います。

「攻めた上で入れていかないといけない」というのは 「入って欲しかった」 だと思います。「こうしないといけない」といってその通りになるならいいけど、「結果」が選べるわけではないですね。 「マッチポイントで石川が決めなければならない」じゃなく、「あれは決めるための最大限のプレーだった」というのと同じではないでしょうか。

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