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非公表裁決/事実と異なる検収日を記載した検収書の作成が事実の「仮装」にあたるか?

実際の検収日よりも前の日を検収日として記載した検収書を作成したことが、重加算税の対象となる事実の「仮装」(通則法68条1項)に該当するかどうかが争われた2つの裁決です。

仙裁(法・諸)令元ー13(②)については、先週のニュースPROでも紹介されていましたね。

いずれも、期末日の間際に納品はされたものの、検収がされていない状況で、取引の相手先(売主)からの要望によって検収書を作成して発行してしまったという事案です。実務的にもよくありそうな話ですね。

似たような事案ではあるのですが、結論を異にしていて、関裁(諸)平30-47(①)は事実の「仮装」に該当すると判断し、仙裁(法・諸)令元ー13(②)は事実の「仮装」に該当するとは認められないと判断しました。

因みに、最近の公表裁決にも、同じように実際の検収日よりも前の日を検収日とする検収書の作成が事実の「仮装」にあたるかが争われて、事実の「仮装」に該当するとは認められないと判断をした裁決がありましたので、そちらも併せて読んで頂くと面白いと思います。

「隠蔽」又は「仮装」の有無については、事実認定の問題ということもあって、担当した審判官によるブレもあるので、何が結論を分けたのかという分析は難しいのですが、あえて結論を分けたポイントを挙げるとすれば、請求人における検収(検収書)の重要性の違いではないかと思います。

具体的には、②の裁決の事案では、請求人が、通常の取引においても必ず検収を行っていた訳ではなく、検収書も取引の相手方から求められるままに作成・提出をしていたという事情があったことから、問題とされた「本件検収書」についても、取引の相手方から求められるままに事務的に作成・提出したものであると認められました。

これに対して、②の裁決の事案では、請求人の固定資産管理規程に、「主管部署の課長は、固定資産の受入れの際、遅滞なく検収を行い、納品書及び請求書に日付印を押して、経理部へ回付し、経理部は、請求書とりん議書とを照合の上、振替伝票を起票して、原則として検収完了日に固定資産計上すること」が定められていたことに加えて、担当部長が、取引の相手方からの求めをいったんは断っていたことや、検収書にわざわざ「現地調整7月予定」と記載していたことなどからすると、通常の取引では検収をしっかりと行っており、検収書も検収の完了後に作成すべきものと認識されていたということではないかと思われます。

普段からいい加減に検収書を作成していると、事実と異なる検収日を記載した検収書の作成が「仮装」にならず、普段はきっちりと検収書を作成していると、事実と異なる検収日を記載した検収書の作成が「仮装」になるというのは、なんだか変な気がするかもしれませんが、事実を「仮装」したと認められるためには、納税者が事実と異なる証拠資料等を作成したことについて認識していることが必要となりますので、そういう結論もあり得るのかなとは思います。

ただ、個人的には、②の裁決の判断は、少し甘いような気がする一方で、①の裁決の事案については、検収書に「現地調整7月予定」と記載していたのは、取引の相手方からの要望に応じて一応は「検収書」を作成するけれど、検収が完了していないことを明らかにする趣旨だったのではないかとも思いますので、その点を重視して、事実を「仮装」したとは認められないという判断でもよかったのでは?という気もします。

ところで、②の裁決は、「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づき、法人税、地方法人税及び消費税等の過少申告をしたと認める事実はないから、請求人に通則法第68条第1項に規定する『隠蔽し、又は仮装し』に該当する事実があったとは認められない。」という判断をしているのですが、この判断の仕方は間違っていると思います。

というのも、最高裁平成7年4月28日判決が、以下のような判断をしているとおり、「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づき・・・過少申告をした」かどうかというのは、「架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在」しない事案(いわゆる「ことさら過少申告」の事案)において、重加算税を賦課するために必要となる要件であって、②の裁決の事案のように、事実と異なる検収日を記載した検収書を作成するという「積極的な行為」が存在する事案で問題となる要件ではないからです。

重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、右の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされるものと解すべきである。

そして、最高裁昭和62年5月8日判決が、以下のような判断をしているとおり、②の裁決の事案のように、事実と異なる検収日を記載した検収書を作成するという「積極的な行為」が存在する事案では、「隠蔽し、又は仮装し」たことの認識があれば足り、過少申告の認識までは必要とされていませんので、②の裁決が「過少申告の意図」を問題としたのは、おかしいのではないかということです。

国税通則法68条に規定する重加算税は、同法65条ないし67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから・・・同法68条1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に対し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。

このあたりは審判所の研修でも必ず指摘されているはずなのですが、ときどき間違えているように思われる裁決がありますね。まぁ、結論に影響があるのかというとそういう訳でもないかもしれませんが。

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