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非公表裁決/帳簿に記載された日付が誤っていた場合に仕入税額控除は認められるか?

課税仕入れに係る取引について総勘定元帳に記載された日付が、その課税仕入れを行ったと認められる日と相違していた場合に、その課税仕入れに係る消費税額の控除(仕入税額控除)が認められるかが問題となった事案の裁決です。

ご存知のとおり、仕入税額控除をするためには、仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等の保存が必要であり(消費税法30条7項)、その帳簿には、①課税仕入れの相手方の氏名又は名称、②課税仕入れを行った年月日、③課税仕入れに係る資産の内容、④課税仕入れに係る支払対価の額を記載することが必要であるとされている(同条8項)のですが、総勘定元帳に「課税仕入れを行った年月日」が正しく記載されていなかった場合には、必要な事項が記載された帳簿が保存されているとは認められないのかが問題となったということです。

具体的には、実際に課税仕入れを行ったのは下表の「本件一覧表の日付」記載の日であったのに、総勘定元帳には下表の「総勘定元帳の日付」記載の日付が記載されていたため、順号6、順号12~順号15、順号19、順号33及び順号34以外の各取引については、総勘定元帳に「課税仕入れを行った年月日」が正しく記載されていなかったということです。

それほど大幅にズレている訳ではないですし、意図的なものとも思えませんのでこれくらいいいのではないかという気もするのですが、審判所は、以下のように、総勘定元帳に「課税仕入れを行った年月日」が正しく記載されていなかった場合には、消費税法30条8号に規定する帳簿が保存されているとは認められないという判断をしました。

(ハ) 課税仕入れを行った日について
消費税法第30条第1項に規定する課税仕入れを行った日がいつであるかは、課税仕入れと課税資産の譲渡等が表裏の関係にあることから、資産の譲渡等の時期に準じて判定するのが相当であり、この資産の譲渡等の時期は、所得税及び法人税における収益の認識基準と同様に、原則として引渡基準によるのが相当であると認められる。そして、請求人は、上記イの(ニ)のとおり、別表1の「本件一覧表の日付」欄に記載した各日付を課税仕入れを行った日としているところ、これらの日は、取引形態に応じ、事業者から預かった楽器については当該事業者に対して購入の意思を表示した日を、売買契約が締結された楽器については当該契約で定める所有権が移転する時(購入代金を完済した時)を、そのほかの楽器については事業者から楽器を譲り受けた日をそれぞれ課税仕入れを行った日とするものであり、いずれも資産の引渡しの日として合理的であると認められる。また、これらの日が課税仕入れを行った日ではないと認めるに足る証拠もない。
以上のことからすると、別表1の「本件一覧表の日付」欄に記載の各日付を本件各取引に係る課税仕入れを行った日とすることは相当であると認められる。
(ニ) 帳簿等の保存状況について
消費税法第30条第7項に規定する帳簿については、上記1の(2)のへのとおり、同条第8項柱書及び同項第1号において帳簿の記載事項として「課税仕入れを行った年月日」が規定されている(同号ロ)。そして、請求人が作成し、保存する総勘定元帳には、上記イの(ヘ)のとおり、別表1の「総勘定元帳の日付」欄に記載した各日付が記載されているが、本件各取引に係る課税仕入れを特った日は、上記(ヘ)のとおり、別表1の「本件一覧表の日付」欄に記載したとおりであるから、別表1の順号6、順号12から順号15まで、順号19、順号33及び順号34に掲げる各楽器に係る各取引以外の各取引については、課税仕入れを行った日とは異なる日付が総勘定元帳に記載されていることとなる。したがって、これらの各取引については、帳簿に「課税仕入れを行った年月日」が記載されていると認めることはできない。
また、消費税法第30条第7項に規定する請求書等については、上記1の(2)のトのとおり、同条第9項柱書及び同項第1号において請求書、納品書その他これらに類する書類で同号に掲げる事項が記載されているものをいう旨規定しており、一般に、取引において授受される同号に規定する請求書等の書類は、必ずしも1種類とは限らず、複数の書類が想定されるところ、それらの複数の書類によって記載が補完され、同号に規定する請求書等の保存があるといい得る場合もあると考えられる。そして、請求人は、上記イの(ホ)のとおり、別表1の順号12に掲げる楽器に係る取引に関する書類として領収証の写しを当審判所に堤出しているところ、当該領収証は、その記載内容からすると、消費税法第30条第9項第1号に規定する請求書、納品書その他これらに類する書類に該当すると認められるものの、請求人も自認するとおり、当該領収証には課税資産の譲渡を行った年月日の記載がないことから、同号に掲げる事項が記載されているとは認められない。
以上のことからすると、別表1の順号6、順号13から順号15まで、順号19、順号33及び順号34に掲げる各楽器に係る各取引(以下「本件各帳簿等保存取引」という。)以外の各取引については、消費税法第30条第8項第1号に規定する帳簿及び同条第9項第1号に規定する請求書等が保存されているとはいえないから、同条第7項に規定する帳簿及び請求書等の保存がない課税仕入れに該当することとなる。

うーん、理屈は分かるのですが、この結論には違和感がありますね。

特に、「本件一覧表の日付」(課税仕入れを行った日)と「総勘定元帳の日付」が1日しかずれていない場合(順号27&28)でもダメというのは、常識的にどうなのかという印象です。

確かに、東京地裁平成9年8月28日判決では、「法30条8項が『前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。』と規定していることからすれば、同条7項で保存を要求されている帳簿とは同条8項に列記された事項が記載されたものを意味することは明らかであり、また、同条7項の趣旨からすれば、右記載は真実の記載であることが当然に要求されているというべきである。」という判断がされていて、その判断を前提とすると、「課税仕入れを行った年月日」についても、「真実の記載」でなければならないということになるのですが、課税仕入れを行った日がいつかであるかについては、解釈が必要になる場合が少なくありませんので、常にそれを正確に帳簿に記載しなければならないというのは現実的ではないように思えます。

この裁決の事案でも、取引の態様によって「引き渡し日」、「借用品について購入の意思表示をした日」、「売買契約書に基づく支払い完了日」が課税仕入れを行った日になると判断されている訳ですが、経理担当者にそれを正確に判断することを求めるというのは、かなりハードルが高いのではないでしょうか?

実際にも、実務的には「課税仕入れを行った年月日」についてそれほど正確な記載が求められている訳ではないはずで、いわゆる「期ズレ」が明らかとなった場合であっても、翌課税期間(又は前課税期間)での仕入税額控除は認められているのではないかと思います。

また、税務調査等において真に課税仕入れが存在するかどうかを確認することができるようにするためという消費税法30条7項の趣旨からすれば、そのような確認をするのに支障がない程度の記載がされていれば足りるはずですので、「課税仕入れを行った年月日」の記載については、そこまで厳密な正確性を求める必要はないようにも思えます。

とはいえ、この裁決の判断を受けて、実務的にも「課税仕入れを行った年月日」の記載について厳密な正確性が求められるようになるということもあり得ますので、記帳の正確性には、これまで以上に注意が必要になるのかなと思います(限界がありそうですが。)。

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