非公表裁決/土地と共に一括取得した建物の取得価額は、売買契約書の定めによるべきか、固定資産税評価額の比率で按分して算出すべきか?
土地(借地権)と共に一括取得した建物の取得価額について、売買契約書に建物価額として定められた金額とすべきであるのか、それとも土地(借地権)と建物の固定資産税評価額の比率で按分して算出した金額とすべきであるのかが争われた3つの裁決です。
面白いのは、同種の論点について判断したものではあるのですが、上の2つと下の1つでは、請求人と原処分庁の主張のベクトルが逆になっているというところです。
つまり、大裁(法・諸)平29-72号(①)と関裁(法・諸)平30-5号(②)は、請求人が、売買契約書において建物価額として定められた金額を建物の取得価額として申告をしていたところ、原処分庁が、固定資産税評価額の比率で按分して算出した金額を建物の取得価額とすべきであるとして更正処分をした事案であるのに対して、福裁(諸)令元-4号(③)は、請求人が、固定資産税評価額の比率で按分して算出した金額を建物の取得価額として申告をしていたところ、原処分庁が、売買契約書において建物価額として定められた金額を建物の取得価額とすべきであるとして更正処分をした事案であるということです。
そして、いずれの裁決も、原処分庁の主張を認めて請求人の請求を棄却していますので、同種の論点に関して、①及び②と③の裁決では全く逆の判断がなされていることになります。
もっとも、いずれの裁決も、基本的には売買契約において建物価額として定められた価額をもって建物の取得価額とすべきであるが、それが合理的であると認められない特段の事情がある場合には、合理的と認められる基準により按分して算出した価額をもって建物の取得価額とすべきという解釈に基づいて判断がなされていますので、特に矛盾をするような判断がなされている訳ではありません。
事案への当てはめについて見ても、①については、土地が乗降人員の多い駅から徒歩1分の繁華街に所在する土地であったのに対して、建物が築33年とかなり古い建物であったにもかかわらず、売買契約で定められていた借地権と建物の価額の比率は約2:8とされていたという事案であり、②については、売主が行った鑑定による土地と建物の評価額の比率は約8:2であったにもかかわらず、売買契約で定められていた土地と建物の価額の比率は約1:9とされていたという事案ですので、売買契約において建物価額として定められた価額が合理的であるとは認められなかったのはやむを得ないような気がします。
また、③については、建物が既存不適格建築物であって、しかも10年以上も使用されていなかったものであったようですので、土地と建物の価額の比率を約9:1とする売買契約の定めが合理的であるという判断は妥当なものであるように思えます。
疑問が残るとすれば、そもそも、売買契約において建物価額として定められた価額が合理的であると認められない特段の事情がある場合は、合理的と認められる基準により按分して算出した価額をもって建物の取得価額とすべきという解釈を導くことができるのかという点です。
そのような解釈をしないと「租税負担の公平の原則に反する結果となる」というのは分かるのですが、流石にそれだけを根拠にする訳にはいかないはずです。
そして、法人税法との関係では、①の裁決が判断しているように、「減価償却資産を適正な価額よりも高額で取得した場合及び低額で取得した場合のいずれについても、税務会計上は、当該減価償却資産の取得費については、その適正な価額とすべきである。」ということに根拠を求めることができそうなのですが、消費税法との関係では「適正な価額」に根拠を求めることはできません。
他方で、消費税法との関係では、消費税法施行令45条2項がある訳ですが、同項は消費税法28条5項の「課税標準の額の計算の細目に関する必要な事項は、政令で定める」という委任に基づいて規定された条項に過ぎません。
そうすると、消費税法施行令45条2項が、当事者間の合意で定められた「対価の額」とは異なる価額を「課税資産の譲渡等の対価の額」又は「課税仕入に係る支払対価の額」とすることを可能とするような規定であると理解しようとすると、それはもはや「計算の細目」ではないので、法の委任の範囲を逸脱するものとなってしまうようにも思えます。
因みに、使用人賞与の損金算入時期について定めた法人税法施行令134条の2の適法性が争われた大阪地裁平成21年1月30日判決でも、以下のように、政令等に委任することが許されるのは「技術的細目的事項」に限られるという判断が示されていますね。
課税要件等の規定について政令に委任すること自体は許されるとしても、憲法が定める前記租税法律主義の趣旨からすれば、課税要件の具体的内容の定めを包括的に委任するようないわゆる一般的白紙的委任は許されないと解され、課税要件等に係る基本的事項については法律において定めることを要し、政令その他の下位法令に委任することが許されるのはその技術的細目的事項に限られるものというべきであり、また、委任を認める法律自体から委任の範囲が明確に読み取れることを要するものというべきである。
という訳で、特に消費税法上の解釈については疑問があるところなのですが、実務的には、そのような解釈を前提とせざるを得ませんので、売買契約において建物価額を定めた場合においても、その建物価額については、それなりに合理的な説明をすることができるようにしておくことが必要になるということだと思います。
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