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LED関西の舞台の中心で「チョレイ」と叫ぶ!(前編)

ビジネスコンテスト・LED関西のセミファイナリストに選ばれた起業停滞家・西村。一カ月後に開催される二次審査に向けてブラッシュアップ会に参加するのだが……。

映えない卓球人がセミファイナル進出

2022年秋、女性起業家の登竜門と言われるビジネスコンテスト「LED関西」に応募しました。木の葉が色づき始めると、起業塾の女性たちが色めき立って、事業に対する思いのたけを綴ったLOVE LETTER(エントリーシート)をLEDの事務局に送る。その一大イベントに便乗したのです。

そして、周りの方々に「私もLEDにエントリーしたよー」と報告すると、みなさん「あれっ?」と首を傾げて「西村さんがLED……?」とそろって言葉を詰まらせるのです。その「……?」の部分が気になって、ある正直者を問いただすと「だって、LEDはインスタ映えする人が受かるビジコンだから」と皆が口をモゴモゴした部分を教えてくださいました。

なるほどなーーー! はっはっはっ。

オワタ(泣)

目元のシワとほうれい線に流れ込んだ涙を、ゴムがバカになったパーカーの袖口で拭きました。

なもんで、応募数276人中の30人であるセミファイナリストに選ばれた時は「うそだろ?」とエントリーシートを見返しました。写真を添付した形跡はありません。なるほど、だから通過したのか。腑に落ちました。

そういえば学生時代、加工しまくった私のプリクラを女友達が男友達に見せ、その方から「会いたい」とCメールをもらったことがあります。もちろん会いませんでした。期待を裏切られた時の人間は白目(「ガラスの仮面」参照)。そんな色も線もない眼差しで見られるのが怖くて会う勇気がわかなかったのです。

人は簡単には変われない。セミファイナリストになった私の元に、12月に開催される二次審査(プレゼン)のブラッシュアップ会のお知らせが届きましたが、白目を恐れて参加することに躊躇していました。

セミファイナリストや事務局、サポーター企業の方々の前で二次審査の予行プレゼンを行いアドバイスをいただく貴重なブラッシュアップ会。自分もセミファイナリストに選ばれたからには出席の権利と義務が発生するのですが、「映えない人間がセミファイナルに通過したと思われたらどうしよう……」と、鏡に映るお肌のノイズを数えながら悩んでいたのです。

するとAirでフェアリーゴットマザーが現れ「ビビッてないでGO(ビビデバビテブー)」と魔法をかけてくれました。私はドレス(タンスの中で一番小ましな服)に身を包み、かぼちゃの馬車(ママチャリ)に乗って計5回のブラッシュアップ会に安心して参加することができました。

妄想でシンデレラ化したとはいえ、初回はかなり緊張しました。セミファイナリストやサポーター、先生方、およそ50人が集う会議室に初めて足を踏み入れた時は、選ばれし29名の女社長さんたちの美魔女オーラに圧倒されました。

インスタ映えが暗黙の条件を裏付けるかのように、部屋の前方(北)に若かりし頃の武田久美子、左方(西)に若かりし頃の白石美帆、右方(東)に若かりし頃の青田典子、そして後方(南)に半世紀前の十朱幸代が座っています。玄武、白虎、青龍、朱雀と四神に守られ結界が張られたこの場所に、邪鬼の私が無邪気を装って入る度胸はありません。出口に最も近い後ろの右端の席を我がサンクチュアリとし、壁と同化しながら座ることにしました。そして会が終了するとスタコラ撤収。30人目の女・西村は完全に存在を消すことに成功しました。

梅宮アンナ級の凹凸を祈るもむなしく

なのに、なんでですかね??? 全5回の会のうち、前半の2回目に私のプレゼンのブラッシュアップがおこなわれるなんて!!! 第一希望は最終の5回目。最後の会でちゃちゃっと発表してフェイドアウトしようと目論んでいたのに、第4希望日が通るなんて、運をセミファイナル通過に使い果たしたとしか思えません。

こうなれば伝説のアレの出現を祈るしかない。そう私はOL時代、上司に「あれっ? いま一瞬、西村の横顔が梅宮アンナに見えた」と目をこすられたことがあります。超フラットな私の顔面平野に突如現れる梅宮アンナ級の凹凸。光のいたずらか、相手の老眼か、それともMattと張り合うメイクテクか??? 理由はわかりませんが、どうか現れたまえ、ハーフ級の映え。Beauty&Youthを誇るセミファイナリストの皆々様、そして事務局、サポーターの方々の前に立ったその時に!!!!!

2週間後。

ブラッシュアップ会で自分のプレゼンを発表する日。あいにく肌の調子が悪く、梅宮アンナは降りませんでした。しかし、私は平常心でした。出口付近に築いた我がサンクチュアリから出て、数十歩前に進んで、セミファイナリストの皆さんの前に立つ。晒しものになる局面ですが、私には立体マスクという心強い相棒がありました。映えるか映えないか、その答えはマスクの闇の中へ葬り去ることができます。私は意気揚々とマスクの布の部分を最大限に広げて登壇しました。

すると、どこからともなく「マスクとって大丈夫ですよ!」の明るい声が。



IRANKOTOIWANTOTTEーー( ;∀;)

誰かにとって、日本にとって大丈夫なことが、私にとって大丈夫とは限らない。だけどここは民主主義の國。気の小さい私は抗うことなくマスクを外しました。そして発表を始めると……。ナンジャコリャー。超ド緊張!!!!! 12×15cmの不織布が口元を覆わないだけで、西村の心臓は縮み上がりました。

緊張し過ぎて体も震え、声も震え、今ならCHEMISTRYの「夏草が~AHA♪」も上手く歌えるんじゃないかと思えるほどのビブラートを効かせ、効かせまくって、プレゼンというか、用意した文章を読み上げ、ただ最後まで読み上げることをゴールとし、内容が伝わろうが伝わるまいが、自分の熱い想いだけは、卓球レディースを作り上げきた月日だけは誰にも否定されたくないという矜持のもと、一生懸命にただただ、伝えて、伝えて、言葉にならない部分は、体を揺らして揺さぶって、5分のプレゼンを終えました。

終えたというか……オワタ(チーン泣)。

その日の練習発表者は8名。私以外のセミファイナリストは、堂々と立派な発表をされました。なのに私は勢いまかせの狼狽野郎。社会人生活は20年を超える局枠だというのに……。

恥ずかしさと情けなさが入り混じった感情で、会の終わりを秒単位で待ちました。そして解散になった瞬間、私は一番に扉を開けて部屋を出ました。誰にも会わずに帰りたかったから。目尻のシワに残した涙を見られたくなかったから。なのになぜか追いつかれ、追い抜かされ、エレベーターホールにたどり着いたときには、サポーター企業さまと何人かのセミファイナリストが先にエレベーターに乗っていました。

私は同乗するか逡巡しましたが、誰かの「開く」ボタン長押しのプレッシャーに、泣く泣くそのエレベーターの最後に乗り込みました。「なんでこんな人がセミファイナリストに?」そんな後ろからの視線を妄想しながら頭を垂れていると、横から……

「プレゼンおもしろかったです」とセミファイナリストの方が爽やかに声をかけてくださいました。「ありがとうございます。内容が伝わってたらいいけど……」。おどおどと答えると、後ろからも「おもしろかったですよ」の声がふわっと。その温かい言葉は私の頭を優しくなでるかのように、負のオーラを払ってくれました。

そしてエレベーターから降りても、いろんなセミファイナリストの方々が「おもしろかったです」と笑顔で話しかけてくださいました。心が温まった私は残りのブラッシュアップ会が催されるたびに、ひとつ前の席へ進出するようになり、最終回には会議室の中央付近の席に躍り出ることができました。セミファイナリストたちの輪の中へ溶け込んだのです。

そして運命の12月12日。セミファイナルプレゼンの大舞台には、発表の最後に「チョレイ!」と叫べるほど調子に乗った西村が立っておりました。「私もほかのセミファイナリストのように、胸をはって大きな声で堂々と発表できた。インスタ映えしなくても、立体マスクの力を借りなくてもLED関西のセミファイナリストを誇れることを身をもって証明したのだー!!!」と心の声を顔面に露わにしながら、ワッショイ♪ワッショイ♪と神輿にかつがれた気分で舞台を降りました。すると、いろんな方が声をかけてくださった

……のですが。

「今日はちょっとおもしろくなかった」
「ブラッシュアップの時の方がおもしろかったよ」
「いつもは、おもしろい西村さんなのにね」
と、おもんないやん系の残念コメントが多々。

あれっ? あれっ? あれれれれーーー。

LED関西は「おもしろい人」が受かるビジコンでしたっけ?

つづく

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